aしていた。見て通りながら私たちはみんな同時に感歎の言葉を吝まなかった。中にも、右側に長く壁を列ねてホテルの看板を掲げた大きな建物は、特に目立って注意を惹いた。その壁には高さ四間もあろうかと思われる杏子《エイプリコト》の枝を見ごとに這いまとわせてあるのが十数本並んでいて珍らしかった。ケンブリッジでは木瓜《ぼけ》を同じように仕立てたのを見たけれども、こんな大きな古い木を壁に這わせたのは初めてだった。蔦ならばどこでも見受けるが、花の咲く果樹で図案風に外壁を飾るのは思いつきだとおもった。
しかし、私たちがその家に秋波を送って通り過ぎたのは、実はそういった美的鑑賞の見地からばかりではなかった。時刻はもう五時に近く、なにしろ六十マイルばかりも車に揺られ通しで、空腹を感じていたので、ホテルの看板を見ると急に茶《ティー》を思い出したのだった。あの家《うち》で休んで行こうか? そうしよう。誰が言い出すとなく言い出し、誰が同意するとなく同意して、車を回したのは、その先の四つ角を通り過ぎ坂道を下《くだ》りかかった時だった。坂の上にも一軒、傾斜の角度のちがった二つの屋根と三つの煙突を持った古い家が立ってい
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