ス草葺のコッテイジばかりだったということである。途中でもそういった古いコッテイジを幾つか見たが、その最も代表的なのは私たちの訪ねたアン・ハサウェイの家である。
 前には小さい川が流れて土手の並木の影を映し、コッテイジは二棟が一つのようにくっつけられ、大きな煉瓦の煙突が三つ藁葺屋根を高く突き抜いて居り、漆喰の白壁には太い樫《オーク》が歪《ゆが》みなりに竪横に組み合わされてある。周囲はことに気持よく、往来を仕切った無骨《ぶこつ》な木柵もおもしろければ、家の前に刈り込まれた植木も(刈り込み方は技巧を凝らし過ぎてはいるけれども)おもしろく、後園に通じる木柵と冠木門《かぶきもん》もしゃれたものであり、後園はよく手入れされて、うつろの古木の間にダフォディル、桜草、忘れな草、カーライト(卯の花に似て赤い花)、山吹などが、美しい青芝の上に咲き出ている。シェイクスピアの頃には斯んなによく手入れされていたかどうかは問題であるが、彼のローマンスを飾る背景としては似合わしい手入れの仕方である。
 私たちは詩人自らの秘密の恋の場面をのぞくような好奇心を懐いてコッテイジの中へ入った。女学生らしい見物人が二三人一緒
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