なって欠損したから、廃物として後園の片隅に長い間棄ててあったのを、洗礼された人がえらくなったので、また復活して今では大事に教会の中に飾られてある。
五十二歳で死んだシェイクスピアは死ぬ前に懸命に此の世に遺して行くべき骨のことを気にしていた。しかし、私たちはミルトンと共に
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What needs my Shakespeare for his honoured bones
〔The labours of an age in pile'd stones?〕
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といいたい。何となれば、彼は遣骸の上に石を積み重ねなくとも、彼自らを人類永久の記念物として作り上げたのだから。
六
私たちは一まずホテルに引き上げて預けて置いた鞄を受け取り、また水沢君がジョファになってくれて、ショッタリの村へ出かけた。十八歳の若者のウィリアムがやがて妻となったアンの家へ通った遺跡を見るために。
その村はストラトフォードの西一マイルほどの郊外で、今は中流生活者の住宅地となって煉瓦建の家が樹林の間にぽつぽつ見えるけれども、昔はもっと田園めいて、木材の骨組の現れ
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