もらいたいといったけれども、その時でさえ蔽いの石は動かされなかった。彼等の墓はシェイクスピアと並んで聖壇《チャンセル》に設けられ、ホーソーンの言葉を借用すれば、一家打ち揃って「教会の提供する最上の場所」を占有している。以前に此の教会第一の保護者であったサー・ヒュー・クロプトンの記念像でさえ側堂の片隅に置かれてあるに過ぎないのに。
しかし、それを以って早計にもストラトフォードの教会がシェイクスピアの詩才に敬意を表したものと思ってはいけない。今日でこそシェイクスピアといえば、世界最大の劇詩人といわれるけれども、彼は生前にそういった名誉を楽しむことはできなかった。死後といえども二百年間はそれほどの尊敬は払われなかった。それにも拘わらず教会堂内部の最上の位置を獲得したのは、彼が芝居の興行で金を儲けて、郷里に引退する六年前、大枚四百四十ポンドを投げ出して教区の十分一税《タイス》の権利を買い取って置いたからに相違ない。
詩人の記念像は墓の上の壁に高く取り付けられてステインド・グラスを通す陽光を浴びているが、石造の半身像が彩色[#「彩色」は底本では「色彩」]されてあるのは感心できない。伝うる所に
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