どすべてエトナに独占されている。エトナの遠望は孤立したところは富士に似て居り、その高さ(三三〇〇米)も富士に近いが、富士よりも大きく根を張って、裾野が直接海の中へ走り込んでるのと、残雪の間から噴煙を立てているのがちがう。登って見ると幾つも峰があったり、熔岩流が無数にあったりするけれども、直径二五キロを距てたタオルミーナから眺めると、山容はなだらかな線となって、海の紺碧との調和が譬えようもなく美しい。その海の水平線を辿って北の方へ視線を向けると、其処はメシナの海峡で、晴れた日の午後にはレジオの町まで見えるそうだ。レジオはイタリア半島の長靴の尖にあたる地点で、メシナの対岸である。
私たちは辻馬車に乗ってタオルミーナの町を見て廻った。人口五千足らずの小さい町であるが、町その物がさながら一つの博物館の趣がある。ギリシア時代の遺物としては劇場の外に城壁や城砦があり、下ってはローマ時代・サラセン時代・ノルマン時代と次々の建物が、多くは断片的ながら、繕われて遺って居り、十四世紀のドゥオモ(カテドラレ)や、バディア・ヴェッキオなどが少しも目だって見えないほどに、すべての住宅が皆古物である。町の入口に
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