は古代の城門があり、城門から城門へはすぐに達するほど、家々がごちゃごちゃに寄り合って、本通《コルソ》といっても裏道のようであり、広場《ピアツァ》といっても狭くるしく、どの建物も小さく、低く、せせこましく、それが却って古代・中世の生活の姿を残しているのが、旅行者には此の上もなく興味があり、ローマよりも、ロンドンよりも、パリよりも物珍らしく見られた。況んや幾何学の見本のようなベルリンなどは、それに較べると甚だ散文的である。尤もニュー・ヨークとなると、別の見方でまた興味をそそるものはあるけれども。
タオルミーナの古い町を見て私はポンペイの発掘都市を思い出した。ポンペイも道幅が狭くて不規則な町だが、平地だけにタオルミーナのおもしろさに欠けている。タオルミーナはポンペイのような廃墟でないから、家は破損したり繕われたりしていても、とにかく人が住まって、生きてる町だけに、おもしろさは格段である。昔の噴水の周りに人がたかっていたり、古風なカフェの軒下に大勢腰かけていたりしてるのを見ても、風俗がいかにも鄙びていて、一九三九年という感じはしなかった。
それにつけても、日本を訪問する外人が、横浜に上陸し
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