らかな、自由な、健全な空気が漂っていたことが思いやられる。
同じことはシラクーザの劇場でも感じられた筈であったが、其処では舞台建造物が失われていたので、私の貧弱な想像力はそれを実感することができなかった。しかしタオルミーナの劇場と同じく、其処の劇場も山の上に造られ、岩磐を利用した見物席は海の方へ打ち開けていたので、背景活用に類似の創意が働いていたことは推定される。
三
ギリシア劇場の位置は、タオルミーナ第一の展望台となってるほど勝れたもので、殊に座席の最上列に立つと、実地を見ない人には到底想像もつかないほどの大きな美しいパノラマが展開される。東は海で、西は山で、その山の、すぐ目の前にはタオルミーナの古い町がバナナの果実のように断崖の上にかたまり合って、古代の城壁で囲まれ、その一番高い所(三九六米)にアクロポリスと呼ばれた城砦《カステロ》があり、その後の高い所(六三四米)にモラの城砦《カステロ》があり、更にその後にモンテ・ヴェネレの奇峰(八六四米)が聳えている。これ等は鋭い線と複雑な色彩で造り上げられて怪奇な印象を与えるが、それから視野を南へ転じると、その部分の空間は殆ん
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