或いは彼自身役者として其処に立ったこともあったかと思われるが、タオルミーナの劇場は前述の如くディオニュシウス以後のものだけに、ディオニュシウス自身の作品が初めには上演されたのかも知れない。
それはとにかく、タオルミーナの劇場は何よりもすぐれた形勝の位置に置かれてあるのが特長である。大きさはシラクーザの劇場(直径一三四米)には及ばないが、それでも直径一〇九米、オルケストラの直径三五米を数え、シチリア現存劇場中第二位を占め、また、ローマ時代改築の赤煉瓦の舞台建造物が白い列柱と共に遺っているのは、劇場建築史の貴重な資料として見るからに有りがたく感じられるものである。しかし、それにも増して私を感歎せしめたものは、見物席から眺めたそのすばらしい背景だった。私は書物と図面の上ではギリシア劇場の発達の様式は知っていた。それが後期に及んでいかに大掛かりな舞台建造物[#「舞台建造物」に傍点]を持つようになったかも知っていた。けれども、ギリシアでは舞台建造物の実物は見ることができなかったが、今シチリアに来て、目のあたり列拱と列柱を見ていろいろ発明するところがあって、喜ばしかった。その喜ばしさは、道具部屋
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