此処の土となったということの方に親しみが感じられた。しかし、それとても別にしるしがあるわけではなく、ただ伝説である。尤も、伝説の方が怪しげなしるしなどよりわれわれを信用させる場合も少くない。
伝説といえば、シチリアの諸所には神の時代から英雄の時代へかけての伝説がいろいろ遺っているが、カターニアからタオルミーナへ帰る間にもポリプ※[#小書き片仮名ヘ、1−6−86]ーモスの伝説で有名な地点を通った。それは現実のカターニアに対する私の失望を十分に償うに足りるものだった。
カターニアから鉄道線路――それは前の日に私たちが通った所だった――にくっ付いたり離れたりして、海岸を北の方へ走っていると、物の十キロも来たかと思う頃、中世風の一つの城砦《カステロ》が絵のような形で丘の上に聳えていた。その少し先の海の中に、ばら撤かれたように小岩が幾つも白波に洗われていた。ポリプ※[#小書き片仮名ヘ、1−6−86]ーモスの七つの島というのだそうだ。ポリプ※[#小書き片仮名ヘ、1−6−86]ーモスはキョクロープス(一つ目の巨人)たちの棟梁で、オデュセウスの一行を岩窟に封じ込んで食おうとしたが、一つきりない目を
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