桙ヘ砲火のため樹林は根こそぎ失われてしまい、夥しい戦死者の遺骨と兵器が散乱していたそうだが、今日ではむしろ公園のような外貌を持っている。
 戦死者共同墓地は、フランス軍のはシメティエ・ナシオナールという名が付いている。ドーモンの塁砦を東北に見はるかす高地の上に素晴らしく大きな蒲鉾型の納骨堂が横たわり、その中央に高い燈台塔が立っている。そうしてその前面の斜面に白い十字架の墓標が何千か何万か数えきれないほど整然と列んでいるのが、一目に見わたすと、さながらオランダで見たテューリップの畑のようだ。納骨堂の中には、身内の人たちでもあろうか、花などを持った参詣者も少からず見受けられた。
 それから西の方へ車を廻わすと、トラセエ・デ・バイオネット(銃剣の塹壕)と呼ばれる記念館がある。コンクリートの廻廊風の建物で、床は塹壕をそのままに残して銃剣が幾つも突き刺さっている。或る物には珠数を掛け、或る物には一枝の花を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し、また或る物には 〔Terre《テル》 de《ド》 Vende'e《ヴァンデェ》〕(故郷の土)と記した袋に一握りの土を入れ
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