がある。ヨーロッパはどこへ行っても古い形がよく保存されていておもしろい。ヴェルダンはローマ帝国の勢力が弛んで後、一時蛮人の侵入を受けて荒らされたが、五世紀以後アウストラシア王国に属していたのを、九世紀になってフランスに併合され、その後、ドイツに占領されたり、その羈絆から脱したり、市民権が強くなってからはローマ法王の勢力に対抗したりしていたが、完全にフランス王権の支配下に帰したのは、ウェストファリア条約(一五五三年)以後のことだった。尤も、その後とてもしばしばドイツ(プロイセン)の勢力に侵されてはいたが。何しろ、パリからは二百五六十キロもあるのに、東はわずか五十キロでドイツに接し、その北には同じ距離でリュクサンブール公国があり、そのすぐ北にはベルジク王国があるといったような辺彊だから、われわれのような孤立した島国に居住してる者には想像もつかないほどの微妙な国際感情が早くから芽生えて発達して来たものらしい。
 だから城砦《シタデル》などもなかなか堅固なもので、ヴェルダン城はフランスでも一流の堅城といわれていた。もと十世紀の僧城を改築したもので、南はムューズの河岸に城壁を築き、他の三方には
前へ 次へ
全17ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング