が、前者はその技術が技術以上のものを描き出し、人間の魂の姿を見せる高さにまで達しているに対し、後者はややもすれば腕にまかせて技術をひけらかそうとする野心が鼻につく。そんな意味で私はルーベンスの画はヨーロッパの到る所でまたかと思うほど数多く見せられたが、正直にいうと、最後まで馴染まなかった。尤も、ルーベンスは前古未曾有の流行児で、各国の宮廷貴族からいつも注文が殺到し、生涯に二千以上の作品を製造するにも多くの弟子の手を使ったことは確実であるから、彼の真の技術を調べるには限られた少数の作品にのみついて見るべきであるが、それ等について見ても私の趣味は遂に彼に親しみを感じることができなかった。そこへ行くと、レンブラントは、写生や習作の端に到るまで、どの一枚の画にも足を留めて仔細に凝視させないでは措かない魅力を持っている。
四
レンブラントはライデンの貧しい粉屋の四番目の息子に生れ、風車で揺れる小さい部屋の中で、子供の頃から父や母や妹をモデルにしたり、自分の顔をモデルにしたりして、画ばかり描いていた。初めは教師に就いたこともあり、先輩の作品を模写したこともあり、イタリアの作品はあまり
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