。画の性質がもともといわゆる組合員肖像画の注文であるから、各自の似顔を描かねばならないのである(その氏名は画の中の一人が手に持ってる紙に記されてある)が、画家としてはそれでは満足しきれなかった。で、彼は驚くべく犀利《さいり》な透視力を以って各自の顔を通して性格を読み取り、それをいつまで見ていても飽きることのない生きた表情として描き出した。
画面を一瞥してまず感じるものは、一人の死んだ男と七人の生きてる男の対照である。裸にされた血の気《け》のない青白い肉体と、着物で包まれた赤赤した顔の対照である。それ等の顔には目が光って理知が閃いている。七人は、教授(だけは帽子をかぶってる)を除いて皆無帽で、黒の服に白の飾襟を附け、赤い鬚を生やしているが、表情と姿勢はそれぞれの性格を表わして、まちまちである。一致してる点は講義する教授の言葉の理解に注意を集めてることである。それをばピンセットの尖に持ち上げられた腱を凝視しながら理解しようとしてる者もあれば、空《くう》を睨んで理解しようとしてる者もある。主題となってるものを求めれば「科学に対する情熱」とでもいおうか、それがこの画を緊密に統一している。生命
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