射放つものは、みな豫《あらかじ》め定められたる目的《めあて》にむかひて落ち、あたかも己が的《まと》にむけられし物の如し 一〇三―一〇五
もしこの事|微《なか》りせば、今汝の過行く天は、その果《み》を技藝に結ばずして破壞にむすぶにいたるべし 一〇六―一〇八
しかしてこはある事ならじ、もし此等の星を動かす諸※[#二の字点、1−2−22]の智備はらず、またかく此等を完からしめざりし第一の智に缺處《かくるところ》あるにあらずば 一〇九―一一一
汝この眞理をなほも明かにせんと願ふや。我。否《いな》然《しか》らず、我は自然が必要の事に當りて疲るゝ能はざるを知ればなり。 一一二―一一四
彼即ちまた。いざいへ、世の人もし一市民たらずば禍ひなりや。我答ふ。然り、その理《ことわり》は我問はじ。 一一五―一一七
人各※[#二の字点、1−2−22]世に住むさまを異にし異なる職務《つとめ》をなすにあらずして市民たることを得るや、汝等の師の記《しる》す所正しくば然《しか》らず。 一一八―一二〇
かく彼論じてこゝに及び、さて結びていふ。かゝれば汝等の業《わざ》の根も、また異ならざるをえず 一二一―一二三
是故に一人《ひとり》はソロネ、一人はセルゼ、一人はメルキゼデク、また一人は空《そら》を飛びつゝわが子を失へる者とし生る 一二四―一二六
人なる蝋に印を捺《お》す諸※[#二の字点、1−2−22]の天の力は、善く己が技《わざ》を爲せども彼家《かのや》此家《このや》の差別《けじめ》を立てず 一二七―一二九
是においてかエサウはヤコブと種《たね》を異にし、またクイリーノは人がこれをマルテに歸するにいたれるほど父の賤《いや》しき者なりき 一三〇―一三二
もし神の攝理勝たずば、生れし性《さが》は生みたるものと常に同じ道に進まむ 一三三―一三五
汝の後《うしろ》にありしもの今前にあり、されど汝と語るわが悦びを汝に知らしめんため、われなほ一の事を加へて汝の表衣《うはぎ》となさんとす 一三六―一三八
それ性《さが》は、命運これに配《そ》はざれば、あたかも處を得ざる種のごとく、その終りを善くすることなし 一三九―一四一
しかして下界もしその心を自然の据《す》うる基《もとゐ》にとめてこれに從はゞその民|榮《さか》えむ 一四二―一四四
しかるに汝等は、劒を腰に帶びんがために生れし者を枉《ま》げて僧とし、法《のり》を説くべき者を王とす 一四五―一四七
是においてか汝等の歩履《あゆみ》道を離る。 一四八―一五〇
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第九曲
美しきクレメンツァよ、汝のカルロはわが疑ひを解きし後、我にその子孫のあふべき欺罔《たばかり》の事を告げたり 一―三
されどまた、默して年をその移るに任せよといひしかば、我は汝等の禍ひの後に正しき歎き來らんといふのほか何をもいふをえざるなり 四―六
さてかの聖なる光の生命《いのち》は、萬物を足らはす善の滿《み》たす如く己を滿たす日輪にはや再びむかひゐたりき 七―九
あゝ迷へる魂等よ、不信心なる被造物等よ、心をかゝる善にそむけて頭《かうべ》を空しき物にむくとは 一〇―一二
時に見よ、いま一の光、わが方に進み出で、我を悦ばせんとの願ひを外部《そと》の輝に現はせり 一三―一五
さきのごとく我に注げるベアトリーチェの目は、うれしくもわが願ひを容《い》るゝことをば定《さだ》かに我に知らしめき 一六―一八
我|曰《い》ふ。あゝ福《さいはひ》なる靈よ、請《こ》ふ速にわが望みをかなへ、わが思ふ所汝に映《うつ》りて見ゆとの證《あかし》を我にえさせよ。 一九―二一
是においてか未だ我に知られざりしかの光、さきに歌ひゐたる處なる深處《ふかみ》より、あたかも善行を悦ぶ人の如く、續いていふ 二二―二四
邪《よこしま》なるイタリアの國の一部、リアルトとブレンタ、ピアーヴァの源との間の地に 二五―二七
いと高しといふにあらねど一の山の聳《そび》ゆるあり、かつて一の炬火《たいまつ》こゝより下りていたくこの地方を荒しき 二八―三〇
我とこれとは一の根より生れたり、我はクニッツァと呼ばれにき、わがこゝに輝くはこの星の光に勝たれたればなり 三一―三三
されど我今喜びて自らわが命運の原因《もと》を赦《ゆる》し、心せこれに惱《なや》まさじ、こは恐らくは世俗の人にさとりがたしと見ゆるならむ 三四―三六
われらの天の中のこの光りて貴き珠《たま》、我にいと近き珠の名は今も高く世に聞ゆ、またその滅びざるさきに 三七―三九
この第百年はなほ五度《いつたび》も重ならむ、見よ人たる者己を勝《すぐ》るゝ者となし、第二の生をば第一の生に殘さしむべきならざるやを 四〇―四二
さるにターリアメントとアディーチェに圍まるゝ現在《いま》の群集《ぐんじゆう》これを思はず、撃《う》たるれどもなほ悔《く》いじ 四三―四五
されどパードヴァは、その民|頑《かたくな》にして義に背《そむ》くにより、程なく招の邊《ほとり》にて、かのヴィチェンツァを洗ふ水を變へむ 四六―四八
またシーレとカニアーンの落合ふ處は、或者これを治め、頭を高うして歩めども、彼を捕へんとて人はや網を造りたり 四九―五一
フェルトロもまたその非道の牧者の罪の爲に泣かむ、かつその罪はいと惡くしてマルタに入れられし者にさへ類《たぐひ》を見ざる程ならむ 五二―五四
己が黨派に忠なることを示さんとてこのやさしき僧の與ふるフェルラーラ人《びと》の血は、げにいと大いなる桶ならでは ―五五
これを容《い》るゝをえざるべく、※[#「オンス」の単位記号、63−7]《オンチャ》に分けてこれを量《はか》らばその人疲れむ、而《しか》してかゝる贈物《おくりもの》は本國《ところ》の慣習《ならはし》に適《かな》ふなるべし ―六〇
諸※[#二の字点、1−2−22]の鏡|上方《うへ》にあり、汝等これを寶座《ツローニ》といふ、審判《さばき》の神そこより我等を照らすがゆゑに我等皆これらの言葉を眞《まこと》とす。 六一―六三
かくいひて默《もだ》し、さきのごとく輪に加はりてめぐりつゝ、心をほかにむくるに似たりき 六四―六六
名高き者とはやわが知りしかの殘りの喜びは、日の光に當る良《よ》き紅玉《あかだま》の如くわが目に見えたり 六七―六九
上にては悦びによりて、強き光のえらるゝこと、世にて笑のえらるゝ如し、されど下にては心の悲しきにつれて魂黒く外《そと》にあらはる 七〇―七二
我曰ふ。福なる靈よ、神萬物を見給ひ、汝の目神に入る、是故にいかなる願ひも汝にかくるゝことあらじ 七三―七五
もしそれ然らば、六の翼を緇衣となす信心深き火とともに歌ひてとこしへに天を樂します汝の聲 七六―七八
何ぞわが諸※[#二の字点、1−2−22]の願ひを滿たさゞる、もしわが汝の衷《うち》に入ること汝のわが衷に入るごとくならば、我|豈《あに》汝の問を待たんや。 七九―八一
このとき彼曰ふ。地を卷く海を除《のぞ》きては、水|湛《たゝ》ふる溪《たに》の中にて最《いと》大いなるもの 八二―八四
相容《あひい》れざる二の岸の間にて、日に逆《さから》ひて遠く延びゆき、さきに天涯となれる所を子牛線《しごせん》となす 八五―八七
我はこの溪の邊《ほとり》、エブロとマークラ(短き流れによりてゼーノヴァ人《びと》とトスカーナ人とを分つ)の間に住める者なりき 八八―九〇
そのかみ己が血をもて湊を熱くせしわが故郷《ふるさと》はブッジェーアと殆ど日出《ひので》日沒《ひのいり》を同うす 九一―九三
わが名を知れる人々我をフォルコと呼べり、我今|象《かた》をこの天に捺《お》す、この天我に捺《お》しゝごとし 九四―九六
そはシケオとクレウザとを虐《しひた》げしベロの女《むすめ》も、デモフォーンテに欺かれたるロドペーアも、またイオレを心に 九七―
包める頃のアルチーデも、齡《とし》に適《ふさ》はしかりし間の我より強くは、思ひに燃えざりければなり ―一〇二
しかはあれ、こゝにては我等|悔《く》いず、たゞ笑ふ、こは罪の爲ならで(再び心に浮ばざれば)、定め、整《とゝの》ふる力のためなり 一〇三―一〇五
こゝにては我等、かく大いなる御業《みわざ》を飾る技巧を視、天界に下界を治めしむる善を知る 一〇六―一〇八
されどこの球の中に生じゝ汝の願ひ悉《こと/″\》く滿たされんため、我なほ語《ことば》を繼《つ》がざるべからず 一〇九―一一一
汝は誰《た》がこの光(あたかも清き水に映ずる日の光の如くわが傍《かたへ》に閃《ひらめ》くところの)の中にあるやを知らんと欲す 一一二―一一四
いざ知るべし、ラアブこのうちにやすらふ、彼われらの組に加はりその印をこれに捺すこと他に類《たぐひ》なし 一一五―一一七
人の世界の投ぐる影、尖《とが》れる端《はし》となる處なるこの天は、クリストの凱旋に加はる魂の中彼をば最も先に受けたり 一一八―一二〇
左右の掌《たなごゝろ》にて獲《ゑ》たる尊き勝利のしるしとして彼を天の一におくは、げにふさはしき事なりき 一二一―一二三
そは彼ヨスエを聖地――今やこの地殆ど法王の記憶に觸れじ――にたすけてその最初の榮光をこれにえさせたればなり 一二四―一二六
はじめて己が造主《つくりぬし》に背《そむ》き、嫉《ねた》みによりて深き歎きを殘せる者の建てたりし汝の邑《まち》は 一二七―一二九
詛《のろ》ひの花を生じて散らす、こは牧者を狼となして、羊、羔《こひつじ》をさまよはしゝもの 一三〇―一三二
これがために福音と諸※[#二の字点、1−2−22]の大いなる師とは棄てられ、人專ら寺院の法規《おきて》を學ぶことその紙端《かみのはし》にあらはるゝ如し 一三三―一三五
これにこそ法王もカルディナレもその心をとむるなれ、彼等の思ひはガブリエルロが翼を伸《の》べし處なるナツァレッテに到らじ 一三六―一三八
されどヴァティカーノ、その他ローマの中の選ばれし地にてピエートロに從へる軍人《いくさびと》等の墓となりたる所はみな 一三九―一四一
この姦淫より直ちに釋放たるべし。 一四二―一四四
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第十曲
言ひ難き第一の力は、己が子を、彼と此との永遠《とこしへ》の息《いき》なる愛とともにうちまもりつゝ 一―三
心または處にめぐるすべての物をば、いと妙《たへ》なる次第を立てゝ造れるが故に、これを見る者必ずかの力を味ふ 四―六
讀者よされば目を擧げて我とともに天球にむかひ、一の運行の他と相觸《あひふ》るゝところを望み 七―九
よろこびて師の技《わざ》を見よ、師はその心の中に深くこれを愛し、目をこれより離すことなし 一〇―一二
見よ諸※[#二の字点、1−2−22]の星を携《たづさ》ふる一の圈、かれらを呼求むる世を足らはさんとて、斜《なゝめ》にかしこより岐《わか》れ出づるを 一三―一五
もしかれらの道|傾斜《なぞへ》ならずば、天の力多くは空しく、下界の活動《はたらき》殆どみな止まむ 一六―一八
またもし直線とこれとの距離《へだゝり》今より多きか少きときは、宇宙の秩序は上にも下にも多く缺くべし 一九―二一
いざ讀者よ、未だ疲れざるさきに疾く喜ぶをえんと願はゞ、汝の椅子に殘りて、わが少しく味はしめしことを思ひめぐらせ 二二―二四
我はや汝の前に置きたり、汝今より自ら食《は》むべし、わが筆の獻《さゝ》げられたる歌題はわが心を悉《こと/″\》くこれに傾けしむればなり 二五―二七
自然の最《いと》大いなる僕《しもべ》にて、天の力を世界に捺《お》し、かつ己が光をもてわれらのために時を量《はか》るもの 二八―三〇
わがさきにいへる處と合し、かの螺旋《らせん》即ちそが日毎《ひごと》に早く己を現はすその條《すぢ》を傳ひてめぐれり 三一―三三
我この物とともにありき、されど登れることを覺えず、あたかも思ひ始むるまでは思ひの起るを知らざる人の如くなりき 三四―三六
かく一の善よりこれにまさる善に導き、しかして己が爲す事の、時を占むるにいたらざるほどいと早きはベアトリーチェなり 三七―三九
わが入りし日の中にさへ色によらで光によりて現はるゝとは、げにそのものゝ自ら輝くこといかばか
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