りなりけむ 四〇―四二
たとひわれ、才と技巧と練達を呼び求むとも、これを語りて人をして心に描かしむるをえんや、人たゞ信じて自ら視るを願ふべし 四三―四五
またわれらの想像の力低うしてかゝる高さに到らずとも異《あや》しむに足らず、そは未だ日よりも上に目の及べることなければなり 四六―四八
尊き父の第四の族《やから》かゝる姿にてかしこにありき、父は氣息《いき》を嘘《ふ》く状《さま》と子を生むさまとを示しつゝ絶えずこれを飽《あ》かしめ給ふ 四九―五一
ベアトリーチェ曰ふ。感謝せよ、恩惠《めぐみ》によりて汝を擧げつゝこの見ゆべき日にいたらんめし諸※[#二の字点、1-2-22]の天使の日に感謝せよ。 五二―五四
人の心いかに畏敬の念に傾き、またいかに喜び進みて己を神に棒げんとすとも 五五―五七
これらの詞《ことば》を聞ける時のわがさまに及ばじ、わが愛こと/″\く神に注がれ、ベアトリーチェはそがために少時《しばし》忘られき 五八―六〇
されど怒らず、いとうつくしく微笑《ほゝゑ》みたれば、そのゑめる目の耀《かゞやき》はわが合ひし心をわかちて多くの物にむかはしむ 六一―六三
われ見しに多くの生くる勝《すぐ》るゝ光、われらを中心となし己を一の輪となしき、その聲のうるはしきこと姿の輝くにまさりたり 六四―六六
空氣|孕《みごも》り、帶となるべき糸を保《たも》つにいたるとき、われらは屡※[#二の字点、1-2-22]《しば/″\》ラートナの女《むすめ》の亦かくの如く卷かるゝを見る 六七―六九
そも/\天の王宮(かしこより我は歸りぬ)には、いと貴く美しくして王土の外《そと》に齎《もた》らすをえざる寶多し 七〇―七二
これらの光の歌もその一なりき、かしこに飛登るべき羽を備へざる者は、かなたの消息《おとづれ》を唖《おふし》に求めよ 七三―七五
これらの燃ゆる日輪、かくうたひつゝわれらを三度《みたび》、動かざる極に近き星のごとくに※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《めぐ》れる時 七六―七八
かれらはあたかも踊り終らぬ女等が、新しき節《ふし》を聞くまで耳傾けつゝ、默《もだ》して止まるごとく見えたり 七九―八一
かくてその一の中より聲いでゝ曰ふ。眞《まこと》の愛を燃《もや》しかつ愛するによりて増し加はる恩惠《めぐみ》の光 八二―八四
汝の衷《うち》につよく輝き、後また昇らざる者の降ることなきかの階《きざはし》を傳ひ汝を上方《うへ》に導くがゆゑに 八五―八七
己が壜子《とくり》の酒を與へて汝の渇《かわき》をとゞむることをせざる者は、その自由ならざること、海に注《そゝ》がざる水に等し 八八―九〇
汝はこの花圈《はなわ》(汝を強うして天に登らしむる美しき淑女を圍み、悦びてこれを視る物)がいかなる草木《くさき》の花に飾らるゝやを知らんとす 九一―九三
我はドメーニコに導かれ、迷はずばよく肥《こ》ゆるところなる道を歩む聖なる群《むれ》の羔《こひつじ》の一なりき 九四―九六
右にて我にいと近きはわが兄弟たり師たりし者なり、彼はコローニアのアルベルトといひ、我はアクイーノのトマスといへり 九七―九九
このほかすべての者の事を汝かく定《さだ》かにせんと思はゞ、わが言葉に續きつゝこの福なる花圈《はなわ》にそひて汝の目を※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]《めぐ》らすべし 一〇〇―一〇二
次の焔はグラツィアーンの笑ひより出づ、彼は天堂において嘉《よみ》せらるゝほど二の法廷を助けし者なり 一〇三―一〇五
またその傍《かたへ》にてわれらの組を飾る焔はピエートロ即ちかの貧しき女に傚《なら》ひ己が寶を聖なる寺院に捧げし者なり 一〇六―一〇八
われらの中の最美物《いとうつくしきもの》なる第五の光は、下界|擧《こぞ》りてその消息《おとづれ》に饑《うゝ》るほどなる戀より吹出づ 一〇九―一一一
そがなかにはいと深き知慧を受けたる尊き心あり、眞もし眞ならば、智においてこれと並ぶべき者興りしことなし 一一二―一一四
またその傍《かたへ》なるかの蝋燭の光を見よ、こは肉體の中にありて、天使の性《さが》とその役《つとめ》とをいと深く見し者なりき 一一五―一一七
次の小《ちひ》さき光の中《なか》には、己が書《ふみ》をアウグスティーンの用《もち》ゐに供《そな》へしかの信仰の保護者ほゝゑむ 一一八―一二〇
さてわが讚詞《ほめことば》を逐《お》ひて汝の心の目を光より光に移さば、汝は既に第八の光に渇《かわ》きつゝあらむ 一二一―一二三
そがなかには、己が言《ことば》を善く聽く人に、虚僞《いつはり》の世を現はす聖なる魂、一切の善を見るによりて悦ぶ 一二四―一二六
このものゝ追はれて出でし肉體はいまチェルダウロにあり、己は殉教と流鼠《りゆうそ》とよりこの平安に來れるなりき 一二七―一二九
その先に、イシドロ、ベーダ及び想ふこと人たる者の上に出でしリッカルドの息《いき》の、燃えて焔を放つを見よ 一三〇―一三二
また左《さ》にて我にいと近きは、その深き思ひの中にて、死の來るを遲しと見し一の靈の光なり 一三三―一三五
これぞ藁《わら》の街《まち》にて教へ、嫉《ねた》まるゝべき眞理を證《あかし》せしシジエーリのとこしへの光なる。 一三六―一三八
かくてあたかも神の新婦《はなよめ》が朝の歌をば新郎《はなむこ》の爲にうたひその愛を得んとて立つ時われらを呼ぶ時辰儀《じしんぎ》の 一三九―一四一
一部他の一部を、曳《ひ》きかつ押して音妙《おとたへ》にチン/\と鳴り、神に心向へる靈を愛にてあふれしむるごとく 一四二―一四四
我は榮光の輪のめぐりつゝ、喜び限りなき處ならでは知るあたはざる和合と美とにその聲々をあはすを見たり。 一四五―一四七
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第十一曲
あゝ人間の愚《おろか》なる心勞《こゝろづかひ》よ、汝をして翼を鼓《う》ちて下らしむるは、そも/\いかに誤り多き推理ぞや 一―三
一人《ひとり》は法に一人は醫に走り、ひとりは僧官を追ひ、ひとりは暴力または詭辯《きべん》によりて治めんとし 四―六
一人《ひとり》は奪ひ取らんとし、一人は公務に就かんとし、一人は肉の快樂《けらく》に迷ひてこれに耽り、ひとりは安佚《あんいつ》を貪《むさ》ぼれる 七―九
間《ま》に、我はすべてこれらの物より釋《と》かれ、ベアトリーチェとともに、かくはな/″\しく天に迎へ入れられき 一〇―一二
さていづれの靈もかの圈の中、さきにそのありし處に歸れるとき、動かざることあたかも燭臺に立つ蝋燭《ろうそく》の如くなりき 一三―一五
しかしてさきに我に物言へる光、いよ/\あざやかになりてほゝゑみ、内より聲を出して曰《い》ふ 一六―一八
われ永遠《とこしへ》の光を視て汝の思ひの出來《いできた》る本《もと》を知る、なほかの光に照らされてわれ自ら輝くごとし 一九―二一
汝はさきにわが「よく肥《こ》ゆるところ」といひまた「これと並ぶべき者生れしことなし」といへるをあやしみ 二二―
汝の了解《さとり》に適《ふさ》はしきまで明らかなるゆきわたりたる言葉にてその説示されんことを願ふ、げにこゝにこそ具《つぶさ》に辨《わ》くべき事はあるなれ ―二七
それ被造物《つくられしもの》の目の視きはむる能はざるまでいと深き思量《はからひ》をもて宇宙を治むる神の攝理は 二八―三〇
かの新婦《はなよめ》――即ち大聲《おほごゑ》によばはりつゝ尊き血をもてこれと縁《えにし》を結べる者の新婦――をしてその愛《いつくし》む者の許《もと》に往《ゆ》くにあたり 三一―三三
心を安んじかつ彼にいよ/\忠實《まめやか》ならしめんとて、これがためにその左右の導者となるべき二人《ふたり》の君を定めたり 三四―三六
その一人《ひとり》は熱情全くセラフィーノのごとく、ひとりは知慧によりてケルビーノの光を地上に放てり 三七―三九
我その一人《ひとり》の事をいはむ、かれらの業《わざ》の目的《めあて》は一なるがゆゑに、いづれにてもひとりを讚《ほ》むるはふたりをほむることなればなり 四〇―四二
トゥピーノと、ウバルド尊者に選ばれし丘よりくだる水との間に、とある高山《たかやま》より、肥沃の坂の垂《た》るゝあり 四三―四五
(この山よりペルージアは、ポルタ・ソレにて暑さ寒さを受く、また坂の後方《うしろ》にはノチェーラとグアルドと重き軛《くびき》の爲に泣く) 四六―四八
この坂の中|嶮《けは》しさのいたく破るゝ處より、一の日輪世に出でたり――あたかもこれがをりふしガンジェより出るごとく 四九―五一
是故にこの處のことをいふ者、もし應《ふさ》はしくいはんと思はゞ、アーシェージといはずして(語《ことば》足らざれば)東方《オリエンテ》といふべし 五二―五四
昇りて久しからざるに、彼は早くもその大いなる徳をもて地に若干《そこばく》の勵みを覺えしむ 五五―五七
そは彼若き時、ひとりだに悦びの戸を開きて迎ふる者なき(死を迎へざるごとく)女の爲に父と爭ひ 五八―六〇
而して己が靈の法廷《しらす》に、父の前にて、これと縁《えにし》を結びし後、日毎《ひごと》に深くこれを愛したればなり 六一―六三
それかの女《をんな》は、最初《はじめ》の夫を失ひてより、千百年餘の間、蔑視《さげす》まれ疎《うと》んぜられて、彼の出るにいたるまで招かるゝことあらざりき 六四―六六
かの女が、アミクラーテと倶《とも》にありて、かの全世界を恐れしめたる者の聲にも驚かざりきといふ風聞《うはさ》さへこれに益なく 六七―六九
かの女が、心堅《かた》く膽大《きもふと》ければ、マリアを下に殘しつゝ、クリストとともに十字架に上《のぼ》りし事さへこれが益とならざりき 七〇―七二
されどわが物語あまりに朧《おぼろ》に進まざるため、汝は今、わがこの長き言《ことば》の中なる戀人等の、フランチェスコと貧なるを知れ 七三―七五
かれらの和合とそのよろこべる姿とは、愛、驚、及び敬ひを、聖なる思ひの原因《もと》たらしめき 七六―七八
かゝれば尊きベルナルドは第一に沓《くつ》をぬぎ、かく大いなる平安を逐《お》ひて走り、走れどもなほおそしとおもへり 七九―八一
あゝ未知の富《とみ》肥沃《ひよく》の財寶《たから》よ、エジディオ沓を脱《ぬ》ぎ、シルヴェストロ沓をぬぎて共に新郎《はなむこ》に從へり、新婦《はなよめ》いたく心に適《かな》ひたるによる 八二―八四
かくてかの父たり師たりし者は己が戀人及びはや卑《いや》しき紐《ひも》を帶とせし家族《やから》とともに出立《いでた》てり 八五―八七
またピエートロ・ベルナルドネの子たりし爲にも、奇《くす》しくさげすまるべき姿の爲にも、心の怯額《おくれ》を壓《お》さず 八八―九〇
王者の如くインノチェンツィオにその嚴《いかめ》しき企《くはだて》を明《あか》し、己が分派《わかれ》のために彼より最初の印を受けたり 九一―九三
貧しき民の彼――そのいと妙《たへ》なる生涯はむしろ天の榮光の中に歌はるゝかたよかるべし――に從ふ者増しゝ後 九四―九六
永遠《とこしへ》の靈は、オノリオの手を經て、この法主《ほふしゆ》の聖なる志に第二の冠を戴かしめき 九七―九九
さて彼殉教に渇き、驕《おご》るソルダンの目前《めのまへ》にて、クリストとその從者等のことを宣べしも 一〇〇―一〇二
民心熟せず、歸依者《きえしや》なきを見、空しく止まらんよりはイタリアの草の實をえんとて歸り、その時 一〇三―一〇五
テーヴェロとアルノの間の粗《あら》き巖の中にて最後の印をクリストより受け、二年《ふたとせ》の間これを己が身に帶《お》びき 一〇六―一〇八
彼を選びてかゝる幸《さいはひ》に到らしめ給ひし者、彼を召し、身を卑《ひく》うして彼の得たる報《むくい》をば與ふるをよしとし給へる時 一〇九―一一一
正しき嗣子《よつぎ》等に薦《すゝ》むるごとく彼その兄弟達に己が最愛の女を薦め、まめやかにこれを愛せと命じ 一一二―一一四
かくして尊き魂は、かの女の懷《ふところ》を離れて己が王國に歸るを願へり、またその肉體の爲に他の柩《ひつぎ》を求めざりき 一一五―一一七
いざ思へ、大海《おほうみ》に浮
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