是においてか人類は、大いなる迷ひの中に、幾世の間、病みて下界に臥《ふ》ししかば、神の語《ことば》遂に世に降るをよしとし 二八―三〇
その永遠《とこしへ》の愛の作用《はたらき》のみにより、かの己が造主《つくりぬし》より離れし性《さが》を、かしこに神結《かみむすび》にて己と合せ給ひたり 三一―三三
いざ汝わが今語るところに心をとめよ、己が造主と結合《むすびあ》へるこの性は、その造られし時の如く純にして善なりしかど 三四―三六
眞理の道とおのが生命《いのち》に遠ざかり、自ら求めてかの樂園より逐《お》はれたりき 三七―三九
是故に合せられたる性《さが》より見れば、十字架の齎《もた》らしゝ刑罰は、正しく行はれしこと他に類《たぐひ》なし 四〇―四二
されどこれを受けし者、かゝる性をあはせし者の爲人《ひととなり》より見れば、正しからざることまた他に類なし 四三―四五
されば一の行爲《おこなひ》より樣々《さま/″\》の事出でぬ、そは一の死、神の聖意《みこゝろ》にも猶太人《ジュデーアびと》の心にも適ひたればなり、この死の爲に地は震ひ天は開きぬ 四六―四八
今や汝はさとりがたしと思はぬならむ、正しき罰後にいたりて正しき法廷《しらす》に罰せられきといふを聞くとも 四九―五一
されど我は今汝の心が、思ひより思ひに移りて一の※[#「(米/糸)+頁」、第4水準2−84−60]《ふし》の中にむすぼれ、それより解放《ときはな》たれんことをばしきりに願ひつゝ待つを見るなり 五二―五四
汝いふ、我よくわが聞けるところをさとる、されど我は神が何故にわれらの贖《あがなひ》のためこの方法《てだて》をのみ選び給へるやを知らずと 五五―五七
兄弟よ、智もし愛の焔の中に熟せざればいかなる人もこの定《さだめ》を會得《ゑとく》せじ 五八―六〇
しかはあれ、この目標《しるし》は多く見られて少しくさとらるゝものなれば、我は何故にかゝる方法《てだて》の最もふさはしかりしやを告ぐべし 六一―六三
それ己より一切の嫉《ねた》みを卻《しりぞ》くる神の善は、己が中に燃えつゝ、光を放ちてその永遠《とこしへ》の美をあらはす 六四―六六
是より直に滴《したゝ》るものはその後滅びじ、これが自ら印を捺《お》すとき、象《かた》消ゆることなければなり 六七―六九
是より直に降下《ふりくだ》るものは全く自由なり、新しき物の力に服從《つきしたが》ふことなければなり 七〇―七二
かゝるものは最も是に類《たぐ》ふが故に最も是が心に適《かな》ふ、萬物を照らす聖なる焔は最も己に似る物の中に最も強く輝けばなり 七三―七五
しかしてこれらの幸《さち》はみな、人たる者の受くるところ、一つ缺くれば、人必ずその尊《たふと》さを失ふ 七六―七八
人の自由を奪ひ、これをして至上の善に似ざらしめ、その光に照らさるること從つて少きにいたらしむるものは罪のみ 七九―八一
もしそれ正しき刑罰を不義の快樂《けらく》に對《むか》はしめつゝ、罪のつくれる空處を滿《みた》すにあらざれば、人その尊さに歸ることなし 八二―八四
汝等の性《さが》は、その種子《たね》によりて悉《こと/″\》く罪を犯《をか》すに及び、樂園とともにこれらの尊き物を失ひ 八五―八七
淺瀬の一を渡らずしては、いかなる道によりても再びこれを得るをえざりき(汝よく思ひを凝《こ》らさばさとるなるべし) 八八―九〇
淺瀬とは、神がたゞその恩惠《めぐみ》によりて赦《ゆる》し給ふか、または人が自らその愚を贖《あがな》ふか即ち是なり 九一―九三
いざ汝力のかぎり目をわが詞にちかくよせつゝ、永遠《とこしへ》の思量《はからひ》の淵深く見よ 九四―九六
そも/\人は、その限りあるによりて、贖《あがなひ》をなす能はざりき、そは後神に順《したが》ひ心を卑《ひく》うして下《くだ》るとも、さきに逆きて 九七―
上らんとせし高さに應ずる能《あた》はざればなり、人自ら贖《あがな》ふの力なかりし理《ことわり》げに茲《こゝ》に存す ―一〇二
是故に神は己が道――即ちその一かまたは二――をもて、人をその完き生に復《かへ》したまふのほかなかりき 一〇三―一〇五
されど行ふ者の行は、これがいづる心の善をあらはすに從ひ、いよ/\悦ばるゝがゆゑに 一〇六―一〇八
宇宙に印影《かた》を捺《お》す神の善は、再び汝等を上げんため、己がすべての道によりて行ふを好めり 一〇九―一一一
また最終《いやはて》の夜と最始《いやさき》の晝との間に、これらの道のいづれによりても、かく尊《たふと》くかく偉《おほい》なる業《わざ》は爲されしことなし爲さるゝことあらじ 一一二―一一四
そは神は人をして再び身を上《あぐ》るに適《ふさは》しからしめん爲己を與へ給ひ、たゞ自ら赦すに優《まさ》る恩惠《めぐみ》をば現し給ひたればなり 一一五―一一七
神の子己を卑《ひく》うして肉體となり給はざりせば、他《ほか》のいかなる方法《てだて》といふとも正義に當るに足らざりしなるべし 一一八―一二〇
さて我は今、汝の願ひをすべてよく滿たさんため、溯《さかのぼ》りて一の事を説き示し、汝をしてわが如くこれを見るをえしめむ 一二一―一二三
汝いふ、我視るに、地水火風及びそのまじりあへるものみな滅び、永く保《たも》たじ 一二四―一二六
しかるにこれらは被造物《つくられしもの》なり――是故にわがいへること眞《まこと》ならばこれらには滅ぶるの患《うれへ》あるべきならず――と 一二七―一二九
兄弟よ、諸※[#二の字点、1−2−22]の天使と、汝が居る處の純なる國とは、現在《いま》のごとき完き状態《さま》にて造られきといふをうれども 一三〇―一三二
汝の名指《なざ》しゝ諸※[#二の字点、1−2−22]の元素およびこれより成る物は、造られし力これをとゝのふ 一三三―一三五
造られしはかれらの物質、造られしはかれらをめぐるこの諸※[#二の字点、1−2−22]の星のうちのとゝのふる力なり 一三六―一三八
諸※[#二の字点、1−2−22]の聖なる光の輝と※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉《めぐり》とは、すべての獸及び草木《くさき》の魂をば、これとなりうべき原質よりひきいだせども 一三九―一四一
至上の慈愛は、たゞちに汝等の生命《いのち》を嘘《ふき》入れ、かつこれをして己を愛せしむるが故に、この物たえずこれを慕ひ求むるにいたる 一四二―一四四
さてまたこの理《ことわり》よりさらに推し及ぼして汝は汝等の更生《よみがへり》を知ることをえむ、もし第一の父母《ちゝはゝ》ともに造られし時 一四五―一四七
人の肉體のいかに造られしやを思ひみば
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   第八曲

世は、その危ふかりし頃、美しきチプリーニアが第三のエピチクロをめぐりつゝ痴情の光を放つと信ずる習《ならはし》なりき 一―三
されば古《いにしへ》の人々その古の迷ひより、牲《いけにへ》を供《そな》へ誓願をかけて彼を崇《あが》めしのみならず 四―六
またディオネとクーピドをも崇めて彼をその母とし此をその子とし、かついへり、この子かつてディドの膝の上に坐しきと 七―九
かれらはまた、日輪に或ひは後《うしろ》或ひは前《まへ》より秋波《しうは》をおくる星の名を、わがかく歌の始めにうたふかの女神《めがみ》より取れり 一〇―一二
かの星の中に登れることを我は知らざりしかど、その中にありしことをば、わが淑女のいよ/\美しくなるを見て、かたく信じき 一三―一五
しかして火花焔のうちに見え、聲々のうちに判《わか》たるゝ(一動かず一|往來《ゆきき》するときは)ごとく 一六―一八
我はかの光の中に、他の多くの光、輪を成して※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》るを見たり、但し早さに優劣《まさりおとり》あるはその永劫《えいごふ》の視力の如何によりてなるべし 一九―二一
見ゆる風や見えざる風の、冷やかなる雲よりくだる疾《はや》しとも、これらのいと聖なる光が 二二―二四
尊きセラフィーニの中にまづ始まりし舞を棄てつゝ我等に來るを見たらん人には、たゞ靜にて遲しと思はれむ 二五―二七
さて最も先に現はれし者のなかにオザンナ響きぬ、こはいと妙《たへ》なりければ、我は爾後《そののち》再び聞かんと願はざることたえてなかりき 二八―三〇
かくてその一われらにいよ/\近づき來り、單獨《たゞひとり》にていふ。われらみな汝の好む所に從ひ汝を悦ばしめんとす 三一―三三
われらは天上の君達と圓を一にし、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉《めぐり》を一にし、渇《かわき》を一にしてまはる、汝|嘗《かつ》て世にて彼等にいひけらく 三四―三六
汝等|了知《さとり》をもて第三の天を動かす者よと、愛我等に滿つるが故に、汝の心に適《かな》はせんとて少時《しばらく》しづまるとも我等の悦び減《へ》ることあらじ。 三七―三九
われ目をうや/\しくわが淑女にそゝぎ、その思ひを定《さだ》かに知りてわが心を安んじゝ後 四〇―四二
再びこれをかの光――かく大いなることを約しゝ――にむかはせ、切《せつ》なる情を言葉にこめつゝ汝等は誰なりや告げよといへり 四三―四五
われ語れる時、新たなる喜び己が喜びに加はれるため、かの光が、その量と質とにおいて、優《まさ》りしことげにいかばかりぞや 四六―四八
さてかく變りて我に曰ふ。世はたゞしばし我を宿《やど》しき、もし時さらに長かりせば、來るべき多くの禍ひは避けられしものを 四九―五一
わが身のまはりに輝き出づるわが喜びは我を汝の目に見えざらしめ、我を隱してあたかも己が絹に卷かるゝ蟲の如くす 五二―五四
汝深く我を愛しき、是また宜《うべ》なり、我もし下界に長生《ながら》へたりせば、わが汝に表《あら》はす愛は葉のみにとゞまらざりしなるべし 五五―五七
ローダノがソルガと混《まじ》りし後に洗ふ左の岸は、時に及びてわがその君となるを望み 五八―六〇
バーリ、ガエタ及びカートナ際涯《はて》を占め、トロント、ヴェルデの流れて海に入る處なるアウソーニアの角《つの》もまたしか望みき 六一―六三
はやわが額《ひたひ》には、ドイツの岸を棄てし後ダヌービオの濕《うるほ》す國の冠かゞやきゐたり 六四―六六
またエウロに最もわづらはさるゝ灣の邊《ほとり》パキーノとペロロの間にて、ティフェオの爲ならずそこに生ずる硫黄の爲に烟《けむ》る 六七―
かの美しきトリナクリアは、カルロとリドルフォの裔《すゑ》我よりいでゝその王となるを今も望み待ちしなるべし ―七二
民の心を常に荒立《あらだつ》る虐政パレルモを動かして、死せよ死せよと叫ばしむるにいたらざりせば 七三―七五
またわが兄弟にして豫めこれを見たらんには、カタローニアの慾と貪とをはやくも避けて、その禍ひを自ら受くるにいたらざりしなるべし 七六―七八
そはげに彼にてもあれ他《ほか》の人にてもあれ、はや荷の重き彼の船にさらに荷を積むなからんため備へを成さゞるをえざればなり 七九―八一
物惜しみせぬ性《さが》より出でゝ吝《やぶさか》なりし彼の性は、貨殖に心專ならざる部下を要せむ。 八二―八四
わが君よ、我は汝の言《ことば》の我に注ぐ深き喜びが、一切の善の始まりかつ終る處にて汝に見らるゝことわがこれを見る如しと 八五―
信ずるがゆゑに、その喜びいよ/\深し、我また汝が神を見てしかしてこれをさとるを愛《め》づ ―九〇
汝我に悦びをえさせぬ、さればまた教へをえさせよ(汝語りて我に疑ひを起さしめたればなり)――苦《にが》き物いかにして甘き種より出づるや。 九一―九三
我かく彼に、彼即ち我に。我もし汝に一の眞理を示すをえば、汝は汝の尋《たづ》ぬる事に顏を向《むく》ること今背をむくる如くなるべし 九四―九六
汝の昇る王國を遍《あまね》くめぐらしかつ悦ばすところの善は、これらの大いなる物體において、己が攝理を力とならしむ 九七―九九
また諸※[#二の字点、1−2−22]の自然のみ、自《おのづか》ら完き意《こゝろ》の中に齊《とゝのへ》らるゝにあらずして、かれらとともにその安寧もまた然《しか》せらる 一〇〇―一〇二
是故にこの弓の
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