すがた》とは、わが飽《あ》くなきの智、はや新しき問を起しゐたりしわが智に默《もだ》せと命じき 八八―九〇
しかしてあたかも弦《つる》のしづかならざる先に的《まと》に中《あた》る矢のごとく、われらは馳《は》せて第二の王國にいたれり 九一―九三
われ見しに、かの天の光の中に入りしとき、わが淑女いたくよろこび、かの星自らそがためいよ/\輝きぬ 九四―九六
星さへ變りてほゝゑみたりせば、己が性《さが》のみによりていかなるさまにも變るをうる我げにいかになりしぞや 九七―九九
しづかなる清き池の中にて、魚もしその餌とみゆる物の外《そと》より入來るをみれば、これが邊《ほとり》にはせよるごとく 一〇〇―一〇二
千餘の輝われらの方にはせよりき、おの/\いふ。見よわれらの愛をますべきものを。 一〇三―一〇五
しかして各※[#二の字点、1−2−22]われらの許《もと》に來るに及び、我は魂が、その放つ光のあざやかなるによりて、あふるゝ悦びをあらはすを見たり 一〇六―一〇八
讀者よ、この物語續かずばその先を知るあたはざる汝の苦しみいかばかりなるやを思へ 一〇九―一一一
さらば汝自ら知らむ、これらのものわが目に明らかに見えし時、彼等よりその状態《ありさま》を聞かんと思ふわが願ひのいかに深かりしやを 一一二―一一四
あゝ良日《よきひ》の下《もと》に生れ、戰ひ未だ終らざるに恩惠《めぐみ》に許されて永遠《とこしへ》の凱旋の諸※[#二の字点、1−2−22]の寶座《くらゐ》を見るを得る者よ 一一五―一一七
遍《あまね》く天に滿《み》つる光にわれらは燃《もや》さる、是故にわれらの光をうくるをねがはゞ、汝心のまゝに飽《あ》け。 一一八―一二〇
信心深きかの靈の一我にかくいへるとき、ベアトリーチェ曰ふ。いへ、いへ、臆《おく》する勿《なか》れ、かれらを神々の如く信ぜよ。 一二一―一二三
我よく汝が己の光の中に巣《す》くひて目よりこれを出すをみる、汝笑へば目|煌《きら》めくによりてなり 一二四―一二六
されど尊き魂よ、我は汝の誰なるやを知らず、また他の光に蔽はれて人間に見えざる天の幸《さち》をば何故にうくるやを知らず。 一二七―一二九
さきに我に物言へる光にむかひて我かくいへり、是においてかそのかゞやくこと前よりはるかに強かりき 一三〇―一三二
あたかも日輪が(濃《こ》き水氣の幕その熱に噛盡《かみつく》さるれば)そのいと強き光に己をかくすごとく 一三三―一三五
かの聖なる姿は、まさる悦びのため己が光の中にかくれ、さてかく全く籠《こも》りつゝ、我に答へき 一三六―一三八
次の曲《カント》の歌ふごとく 一三九―一四一
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第六曲
コスタンティーンが鷲をして天の運行に逆《さから》はしめし(ラヴィーナを娶《めと》れる昔人《むかしのひと》に附きてこの鷲そのかみこれに順《したが》へり)時より以來《このかた》 一―三
二百年餘の間、神の鳥はエウローパの際涯《はて》、そがさきに出でし山々に近き處にとゞまり 四―六
かしこにてその聖なる翼の陰に世を治めつゝ、手より手に移り、さてかく變りてわが手に達せり 七―九
我は皇帝《チェーザレ》なりき、我はジュスティニアーノなり、今わが感ずる第一の愛の聖旨《みむね》によりてわれ律法《おきて》の中より過剩《あまれるもの》と無益物《えきなきもの》とを除きたり 一〇―一二
未だこの業《わざ》に當らざりしさき、われはクリストにたゞ一の性《さが》あるを信じ、かつかゝる信仰をもて足《た》れりとなしき 一三―一五
されど至高の牧者なるアガピート尊者、その言葉をもて我を正しき信仰に導けり 一六―一八
我は彼を信じたり、しかして今我彼の信ずる所をあきらかに見ることあたかも汝が一切の矛盾《むじゅん》の眞なり僞やなるを見るごとし 一九―二一
われ寺院と歩みを合せて進むに及び、神はその恩惠《めぐみ》により我を勵ましてこの貴き業《わざ》を爲さしむるをよしとし、我は全く身をこれに捧げ 二二―二四
武器をばわがベリサルに委ねたりしに、天の右手《めで》彼に結ばりて、わが休むべき休徴《しるし》となりき 二五―二七
さて我既に第一の問に答へ終りぬ、されどこの答の性《さが》に強《し》ひられ、なほ他の事を加ふ 二八―三〇
こは汝をしていかに深き理《ことわり》によりてかのいと聖なる旗に、これを我有《わがもの》となす者も將《はた》これに敵《はむか》ふ者も、ともに逆《さから》ふやを見しめん爲なり 三一―三三
パルランテがこれに王國を與へんとて死にし時を始めとし、見よいかなる徳のこれをあがむべき物とせしやを 三四―三六
汝知る、この物三百年餘の間アルバにとゞまり、その終り即ち三人《みたり》の三人とさらにこれがため戰ふ時に及べることを 三七―三九
また知る、この物サビーニの女達の禍ひよりルクレーチアの憂ひに至るまで七王の代に附近《あたり》の多くの民に勝ちていかなる業《わざ》をなしゝやを 四〇―四二
知る、この物秀でしローマ人等の手にありてブレンノ、ピルロ、その他の君主等及び共和の國々と戰ひ、いかなる業《わざ》をなしゝやを 四三―四五
(是等の戰ひにトルクァート、己が蓬髮《おどろのかみ》に因《ちな》みて名を呼ばれたるクインツィオ、及びデーチとファービとはわが悦びて甚《いた》く尊《たふと》む譽《ほまれ》を得たり) 四六―四八
アンニバーレに從ひて、ポーよ汝の源なるアルペの岩々を越えしアラビア人《びと》等の誇りをくじけるもこの物なりき 四九―五一
この物の下《もと》に、シピオネとポムペオとは年若うして凱旋したり、また汝の郷土に臨《のぞ》みて聳《そび》ゆる山にはこの物|酷《つら》しと見えたりき 五二―五四
後、天が全世界を己の如く晴和《のどか》ならしめんと思ひし時に近き頃、ローマの意に從ひて、チェーザレこれを取りたりき 五五―五七
ヴァーロよりレーノに亘りてこの物の爲しゝことをばイサーラもエーラもセンナも見、ローダノを滿たすすべての溪《たに》もまた見たり 五八―六〇
ラヴェンナを出でゝルビコンを越えし後このものゝ爲しゝ事はいとはやければ、詞《ことば》も筆も伴《ともな》ふ能《あた》はじ 六一―六三
士卒を轉《めぐ》らしてスパーニアに向ひ、後ドゥラッツオにむかひ、またファルサーリアを撃《う》ちて熱きニーロにも痛みを覺えしむるにいたれり 六四―六六
そが出立ちし處なるアンタンドロとシモエンタ、またかのエットレの休《やすら》ふところを再び見、後、身を震《ふる》はして禍ひをトロメオに與へ 六七―六九
そこよりイウバの許《もと》に閃《ひらめ》き下り、後、汝等の西に轉《めぐ》りてかしこにポムペオの角《らつぱ》を聞けり 七〇―七二
次の旗手と共にこの物の爲しゝことをば、ブルートとカッシオ地獄に證《あかし》す、このものまたモーデナとペルージヤとを憂へしめたり 七三―七五
うれはしきクレオパトラは今もこの物の爲に泣く、彼はその前より逃げつゝ、蛇によりて俄《にはか》なる慘《むご》き死を遂《と》げき 七六―七八
かの旗手とともにこの物遠く紅の海邊《うみべ》に進み、彼とともに世界をば、イアーノの神殿《みや》の鎖《とざ》さるゝほどいと安泰《やすらか》ならしめき 七九―八一
されどわが語種《かたりぐさ》なるこの旗が、これに屬する世の王國の全體《すべて》に亘りて、さきに爲したりし事も後に爲すべかりし事も 八二―八四
小《さゝや》かにかつ朧《おぼろ》に見ゆるにいたらむ、人この物を、目を明らかにし思ひを清うして、第三のチェーザレの手に視なば 八五―八七
そはこの物彼の手にありしとき、我をはげます生くる正義は、己が怒りに報《むく》ゆるの譽《ほまれ》をこれに與へたればなり 八八―九〇
いざ汝わが反復語《くりかへしごと》を聞きて異《あや》しめ、この後この物ティトとともに、昔の罪を罰せんために進めり 九一―九三
またロンゴバルディの齒、聖なる寺院を嚼《か》みしとき、この物の翼の下にて勝ちつゝ、カルロ・マーニオこれを救へり 九四―九六
今や汝は、わがさきに難じし如き人々の何者なるやと凡《すべ》て汝等の禍ひの本なる彼等の罪のいかなるやとを自ら量《はか》り知るをえむ 九七―九九
彼《かれ》黄の百合を公《おほやけ》の旗に逆《さか》らはしむれば此《これ》一黨派の爲にこれを己が有《もの》となす、いづれか最も非なるを知らず 一〇〇―一〇二
ギベルリニをして行はしめよ、他の旗の下《もと》にその術を行はしめよ、この旗を正義と離す者何ぞ善《よ》くこれに從ふことあらむ 一〇三―一〇五
またこの新しきカルロをして己がグエルフィと共にこれを倒さず、かれよりも強き獅子より皮を奪ひしその爪を恐れしめよ 一〇六―一〇八
子が父の罪の爲に泣くこと古來例多し、彼をして神その紋所を彼の百合の爲に變へ給ふと信ぜしむる勿《なか》れ 一〇九―一一一
さてこの小さき星は、進みて多くの業《わざ》を爲しゝ諸※[#二の字点、1−2−22]の善き靈にて飾らる、彼等のかく爲しゝは譽と美名《よきな》をえん爲なりき 一一二―一一四
しかして願ひ斯く路を誤りてかなたに昇れば、上方《うへ》に昇る眞《まこと》の愛、光を減ぜざるをえじ 一一五―一一七
されどわれらの報《むくい》が功徳と量を等しうすることわれらの悦びの一部を成す、われら彼の此より多からず少からざるを見ればなり 一一八―一二〇
生くる正義はこの事によりてわれらの情をうるはしうし、これをして一|度《たび》も歪《ゆが》みて惡に陷るなからしむ 一二一―一二三
さま/″\の聲下界にて麗《うる》はしき節《ふし》となるごとく、さま/″\の座《くらゐ》わが世にてこの諸※[#二の字点、1−2−22]の球の間のうるはしき詞《しらべ》を整《とゝの》ふ 一二四―一二六
またこの眞珠の中にはロメオの光の光るあり、彼の美しき大いなる業《わざ》は正しく報《むく》いられざりしかど 一二七―一二九
彼を陷れしプロヴェンツァ人《びと》等笑ふをえざりき、是故に他人《ひと》の善行をわが禍ひとなす者は即ち邪道を歩む者なり 一三〇―一三二
ラモンド・ベリンギエーリには四人《よたり》の女《むすめ》ありて皆王妃となれり、しかしてこは賤しき旗客ロメオの力によりてなりしに 一三三―一三五
後《のち》かれ讒者の言に動かされ、この正しき人(十にて七と五とをえさせし)に清算を求めき 一三六―一三八
是においてか老いて貧しき身をもちて彼去りぬ、世もし一口《ひとくち》一口と食を乞ひ求めし時のその固き心を知らば 一三九―一四一
(今もいたく讚《ほ》むれども)今よりもいたく彼をほむべし。 一四二―一四四
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第七曲
オザンナ、萬軍の聖なる神、己が光をもてこれらの王國の惠まるゝ火を上より照らしたまふ者。 一―三
二重《ふたへ》の光を重《かさ》ね纏《まと》ひしかの聖者は、その節《ふし》にあはせてめぐりつゝ、かく歌ふと見えたりき 四―六
しかしてこれもその他の者もみなまた舞ひいで、さていとはやき火花の如く、忽ちへだゝりてわが目にかくれぬ 七―九
われ疑ひをいだき、心の中にいひけるは。いへ、いへ、わが淑女にいへ、彼甘き雫《しづく》をもてわが渇《かわき》をとゞむるなれば。 一〇―一二
されどたゞ「ベ」と「イーチェ」のみにて我を統治《すべをさ》むる敬《うやまひ》我をして睡りに就く人の如く再びわが頭《かうべ》を垂れしむ 一三―一五
ベアトリーチェはたゞ少時《しばし》我をかくあらしめし後、火の中にさへ人を福《さいはひ》ならしむる微笑《ほゝゑみ》をもて我を照らしていひけるは 一六―一八
わが量《はか》るところ(こは謬《あやま》ることあらじ)によれば、汝思へらく、正しき罰いかにして正しく罰せらるゝをうるやと 一九―二一
されど我は速に汝の心を釋放《ときはな》つべし、いざ耳を傾けよ、そはわが詞《ことば》、大いなる教へを汝にさづくべければなり 二二―二四
それかの生れしにあらざる人は、己が益なる意志の銜《くつわ》に堪《た》へかねて、己を罪しつゝ、己がすべての子孫を罪せり 二五―二七
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