ニりて汝は愛の亭午《まひる》の燈火《ともしび》、下界人間のなかにては望みの活泉《いくるいづみ》なり 一〇―一二
淑女よ、汝いと大いにしていと強し、是故に恩惠《めぐみ》を求めて汝に就かざる者あらば、これが願ひは翼なくして飛ばんと思ふに異《こと》ならじ 一三―一五
汝の厚き志はたゞ請ふ者をのみ助くるならで、自ら進みて求めに先んずること多し 一六―一八
汝に慈悲あり、汝に哀憐惠與《あいれんえいよ》あり、被造物《つくられしもの》のうちなる善といふ善みな汝のうちに集まる 一九―二一
今こゝに、宇宙のいと低き沼よりこの處にいたるまで、靈の三界を一々《ひとつ/″\》見し者 二二―二四
伏して汝に請ひ、恩惠《めぐみ》によりて力をうけつゝ、終極《いやはて》の救ひの方にいよ/\高くその目を擧ぐるをうるを求む 二五―二七
また彼の見んことを己が願ふよりも深くは、己自ら見んと願ひし事なき我、わが祈りを悉く汝に捧げかつその足らざるなきを祈る 二八―三〇
願はくは汝の祈りによりて浮世《ふせい》一切の雲を彼より拂ひ、かくして彼にこよなき悦びを現はしたまへ 三一―三三
我またさらに汝に請ふ、思ひの成らざるなき女王よ、かく見まつりて後かれの心を永く健全《すこやか》ならしめたまへ 三四―三六
願はくは彼を護りて世の雜念に勝たしめ給へ、見よベアトリーチェがすべての聖徒達と共にわが諸※[#二の字点、1−2−22]の祈りを扶《たす》け汝に向ひて合掌するを。 三七―三九
神に愛《め》でられ尊まるゝ目は、祈れる者の上に注ぎて、信心深き祈りのいかばかりかの淑女の心に適《かな》ふやを我等に示し 四〇―四二
後|永遠《とこしへ》の光にむかへり、げに被造物《つくられしもの》の目にてその中《うち》をかく明らかに見るはなしと思はる 四三―四五
また我は凡ての望みの極《はて》に近づきゐたるがゆゑに、燃ゆる願ひおのづから心の中にて熄《や》むをおぼえき 四六―四八
ベルナルドは、我をして仰がしめんとて、微笑《ほゝゑ》みつゝ表示《しるし》を我に與へしかど、我は自らはやその思ふごとくなしゐたり 四九―五一
そはわが目明らかになり、本來|眞《まこと》なる高き光の輝のうちにいよ/\深く入りたればなり 五二―五四
さてこの後わが見しものは人の言葉より大いなりき、言葉はかゝる姿に及ばず、記憶はかゝる大いさに及ばじ 五五―五七
我はあたかも夢に物を見てしかして醒むれば、餘情のみさだかに殘りて他は心に浮び來らざる人の如し 五八―六〇
そはわが見しもの殆んどこと/″\く消え、これより生るゝうるはしさのみ今猶心に滴《したゝ》ればなり 六一―六三
雪、日に溶くるも、シビルラの託宣、輕き木葉《このは》の上にて風に散り失するも、またかくやあらむ 六四―六六
あゝ至上の光、いと高く人の思ひを超ゆる者よ、汝の現はれしさまをすこしく再びわが心に貸し 六七―六九
わが舌を強くして、汝の榮光の閃《きらめき》を、一なりとも後代《のちのよ》の民に遺すをえしめよ 七〇―七二
そはいさゝかわが記憶にうかび、すこしくこの詩に響くによりて、汝の勝利はいよ/\よく知らるゝにいたるべければなり 七三―七五
わが堪へし活光《いくるひかり》の鋭《するど》さげにいかばかりなりしぞや、さればもしこれを離れたらんには、思ふにわが目くるめきしならむ 七六―七八
想ひ出れば、我はこのためにこそ、いよ/\心を堅《かた》うして堪《た》へ、遂にわが目を無限《かぎりなき》威力《ちから》と合はすにいたれるなれ 七九―八一
あゝ我をして視る力の盡くるまで、永遠《とこしへ》の光の中に敢て目を注《そゝ》がしめし恩惠《めぐみ》はいかに裕《ゆたか》なるかな 八二―八四
我見しに、かの光の奧には、遍《あまね》く宇宙に枚《ひら》となりて分れ散るもの集り合ひ、愛によりて一《ひとつ》の卷《まき》に綴《つゞ》られゐたり 八五―八七
實在、偶在、及びその特性相|混《まじ》れども、その混る状《さま》によりて、かのものはたゞ單一の光に外ならざるがごとくなりき 八八―九〇
萬物を齊《とゝの》へこれをかく結び合はすものをば我は自ら見たりと信ず、そはこれをいふ時我わが悦びのいよ/\さはなるを覺ゆればなり 九一―九三
たゞ一の瞬間《またゝくま》さへ、我にとりては、かのネッツーノをしてアルゴの影に驚かしめし企圖《くはだて》における二千五百年よりもなほ深き睡りなり 九四―九六
さてかくわが心は全く奪はれ、固く熟視《みつめ》て動かず移らず、かつ視るに從つていよ/\燃えたり 九七―九九
かの光にむかへば、人甘んじて身をこれにそむけつゝ他の物を見るをえざるにいたる 一〇〇―一〇二
これ意志の目的《めあて》なる善みなこのうちに集まり、この外《そと》にては、こゝにて完《まつた》き物も完からざるによりてなり 一〇
前へ 次へ
全121ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ダンテ アリギエリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング