一四四
一たるを失はざること始めの如くなればなり。 一四五―一四七
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第三十曲
第六時はおよそ六千|哩《ミーリア》のかなたに燃え、この世界の陰傾きてはや殆んど水平をなすに 一―三
いたれば、いや高き天の中央《たゞなか》白みはじめて、まづとある星、この世に見ゆる力を失ひ 四―六
かくて日のいと燦《あざや》かなる侍女《はしため》のさらに進み來るにつれ、天は光より光と閉ぢゆき、そのいと美しきものにまで及ぶ 七―九
己が包むものに包まると見えつゝわが目に勝ちし一點のまはりに永遠《とこしへ》に舞ふかの凱旋も、またかくの如く 一〇―一二
次第に消えて見えずなりき、是故に何をも見ざることゝ愛とは、我を促《うなが》して目をベアトリーチェに向けしむ 一三―一五
たとひ今にいたるまで彼につきていひたる事をみな一の讚美の中に含ましむとも、わが務《つとめ》を果すに足らじ 一六―一八
わが見し美は、豈《あに》たゞ人の理解《さとり》を超《こ》ゆるのみならんや、我誠に信ずらく、これを悉く樂しむ者その造主《つくりぬし》の外になしと 一九―二一
げに茲《こゝ》にいたり我は自らわが及ばざりしを認む、喜曲または悲曲の作者もその題《テーマ》の難きに處してかく挫《くぢ》けしことはあらじ 二二―二四
そは日輪の、いと弱き視力におけるごとく、かのうるはしき微笑の記憶は、わが心より心その物を掠むればなり 二五―二七
この世にはじめて彼の顏を見し日より、かく視るにいたるまで、我たえず歌をもてこれにともなひたりしかど 二八―三〇
今は歌ひつゝその美を追ひてさらに進むことかなはずなりぬ、いかなる藝術の士も力盡くればまたかくの如し 三一―三三
さてかれは、かく我をしてわが喇叭《らつぱ》(こはその難き歌をはや終へんとす)よりなほ大いなる音にかれを委《ゆだ》ねしむるほどになりつゝ 三四―三六
敏《と》き導者に似たる動作《みぶり》と聲とをもて重ねていふ。われらは最《いと》大いなる體を出でゝ、純なる光の天に來れり 三七―三九
この光は智の光にて愛これに滿《み》ち、この愛は眞《まこと》の幸《さいはひ》の愛にて悦びこれに滿ち、この悦び一切の樂しみにまさる 四〇―四二
汝はこゝにて天堂の二隊《ふたて》の軍《いくさ》をともに見るべし、而《しか》してその一隊《ひとて》をば最後《をはり》の審判《さばき》の時汝に現はるゝその姿にて見む。 四三―四五
俄に閃《ひらめ》く電光《いなづま》が、物見る諸※[#二の字点、1−2−22]の靈を亂し、いと強き物の與ふる作用《はたらき》をも目より奪ふにいたるごとく 四六―四八
生くる光わが身のまはりを照らし、その輝《かゞやき》の面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かほおほひ》をもて我を卷きたれば、何物も我に見えざりき 四九―五一
この天をしづむる愛は、常にかゝる會釋《ゑしやく》をもて己が許《もと》に歡《よろこ》び迎ふ、これ蝋燭をその焔に適《ふさ》はしからしめん爲なり。 五二―五四
これらのつゞまやかなる言葉わが耳に入るや否や、我はわが力の常よりも増しゐたるをさとりき 五五―五七
しかして新しき視力わが衷《うち》に燃え、いかなる光にてもわが目の防ぎえざるほど燦《あざ》やかなるはなきにいたれり 五八―六〇
さて我見しに、河のごとき形の光、妙《たへ》なる春をゑがきたる二つの岸の間にありていとつよく輝き 六一―六三
この流れよりは、諸※[#二の字点、1−2−22]の生くる火出でゝ左右の花の中《なか》に止まり、さながら紅玉《あかだま》を黄金《こがね》に嵌《はさ》むるに異ならず 六四―六六
かくて香に醉へるごとく再び奇《く》しき淵に沈みき、しかして入る火と出づる火と相亞《あひつ》げり 六七―六九
汝が見る物のことを知らんとて今汝を燃しかつ促《うなが》す深き願ひは、そのいよ/\切なるに從ひいよ/\わが心に適《かな》ふ 七〇―七二
されどかゝる渇《かわき》をとゞむるにあたり、汝まづこの水を飮まざるべからず。わが目の日輪かく我にいひ 七三―七五
さらに加ふらく。河、入り出る諸※[#二の字点、1−2−22]の珠《たま》、及び草の微笑《ほゝゑみ》は、その眞状《まことのさま》を豫《あらかじ》め示す象《かたち》なり 七六―七八
こはこれらの物その物の難《かた》きゆゑならず、汝に缺くるところありて視力未ださまで強からざるによる。 七九―八一
常よりもいと遲く目を覺しゝ嬰兒《をさなご》が、顏を乳の方《かた》にむけつゝ身を投ぐる疾《はや》ささへ 八二―八四
目をば優《まさ》る鏡とせんとてわがかの水(人をしてその中《なか》にて優れる者とならしめん爲流れ出《いづ》る)の方《かた》に身を屈《かゞ》めしその早さには如《し》かじ 八五―八七
しかしてわが瞼《まぶた》の縁《ふち》こ
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