わた》したればなり 一―三
さればあたかも必要の鞭《むち》にむちうたるゝ人、いかなる物あらはるゝとも止まらずしてその路を行くごとく 四―六
我等はひとりづつ徑《こみち》に入りて階《きざはし》を登れり(階狹きため昇る者並び行くをえず) 七―九
たとへば鸛《こうづる》の雛、飛ぶをねがひて翼をあぐれど、巣を離るゝの勇なくして再びこれを收むるごとく 一〇―一二
わが問はんと欲する願ひ燃えてまた消え、我はたゞいひいださんと構ふる者の状《さま》をなすに過ぎざりき 一三―一五
歩《あゆみ》速かなりしかどもわがなつかしき父は默《もだ》さで、汝|鏃《やじり》までひきしぼれる言《ことば》の弓を射よといふ 一六―一八
この時我これにはげまされ、口を啓きていふ。滋養《やしなひ》をうくるに及ばざるものいかにして痩するを得るや。 一九―二一
彼曰ふ。汝若しメレアグロの身が、炬火《たいまつ》の燃え盡くるにつれて盡きたるさまを憶ひ出でなば、この事故にさとりがたきにあらざるべく 二二―二四
また鏡に映《うつ》る汝等の姿が、汝等の動くにつれて動くを思はば、今硬くみゆるもの汝に軟かにみゆるにいたらむ 二五―二七
されど汝望むがまゝに心を安んずることをえんため、見よ、こゝにスターツィオあり、我彼を呼び彼に請ひて汝の傷を癒さしむべし。 二八―三〇
スターツィオ答ふらく。我この常世《とこよ》の状態《ありさま》を汝のをる處にて彼に説明《ときあか》すとも、こは汝の請《こひ》をわが否む能はざるが爲なれば咎むるなかれ。 三一―三三
かくてまたいふ。子よ、汝の心わが詞を見てこれを受けなば、これは即ち汝の質《たゞ》す疑ひを照す光とならむ 三四―三六
それ血の完全にして、渇ける脈に吸はるゝことなく、あたかも食卓《つくゑ》よりはこびさらるゝ食物《くひもの》のごとく殘るもの 三七―三九
人の諸※[#二の字点、1−2−22]の肢體を營む力をば心臟の中に得《う》、これ此等の物とならんため脈を傳ひて出づるにいたるものなればなり 四〇―四二
いよ/\清くなるに及びて、この血は人のいふを憚かる處にくだり、後又そこより自然の器《うつは》の中なる異なる血の上にしたゝり 四三―四五
二の血こゝに相合ふ、その一には堪ふる性《さが》あり、また一にはその出づる處全きがゆゑに行ふ性あり 四六―四八
此《これ》彼と結びてはたらき、まづ凝固《こりかた》まらせ、後己が材としてその固《かた》め整《とゝの》へる物に生命《いのち》を與ふ 四九―五一
活動の力恰も草木の魂の如きものとなりて(但し一は道程にあり一は彼岸に達す、異なるところたゞこれのみ)後 五二―五四
なほその作用《はたらき》をとゞめず、この物動きかつ感ずること海の菌の如きにいたれば、さらに己を種として諸※[#二の字点、1−2−22]の力を組立てはじむ 五五―五七
子よ、生む者の心臟即ち自然が諸※[#二の字点、1−2−22]の肢體に意を用ゐる處よりいづる力は今や既に弘がりて延ぶ 五八―六〇
されど汝は未だ生物のいかにして人間となるやを聞かず、こは汝よりさとかりし者の嘗て誤れる一の點なり 六一―六三
そは彼靜智に當つべき何の機官をも見ざるによりて、その教への中にこれを魂より離れしめたればなり 六四―六六
汝わが陳ぶる眞《まこと》にむかひて胸をひらき、而して知るべし、胎兒における腦の組織《くみたて》全く成り終るや否や 六七―六九
第一の發動者、自然のかく大いなる技《わざ》をめでてこれにむかひ、力滿ちたる新しき靈を嘘入《ふきい》れたまひ 七〇―七二
靈はかしこにはたらきゐたるものを己が實體の中にひきいれ、たゞ一の魂となりて、且つ生き且つ感じ且つ自ら己をめぐる 七三―七五
汝この言《ことば》をふかくあやしむなからんため、思ひみよ、太陽の熱葡萄の樹よりしたゝる汁と相混《あひまじ》りて酒となるを 七六―七八
ラケージスの絲盡くる時は、この魂、肉の繋《つなぎ》を離れ、人と神とに屬するものをその實質において携ふ 七九―八一
他《ほか》の能力《ちから》はみな默《もだ》せども、記憶、了知及び意志の作用《はたらき》は却つてはるかに前よりも強し 八二―八四
かくて止まらずしてあやしくも自ら岸の一に落ち、こゝにはじめて己が行くべき路を知る 八五―八七
處一たび定まれば、構成《いとなみ》の力たゞちにあたりを輝かし、その状《さま》もその程《ほど》も、生くる肢體におけるに同じ 八八―九〇
しかしてたとへば空氣雨を含むとき、日の光これに映《うつ》るによりて多くの色に飾らるるごとく 九一―九三
あたりの空氣はそこにとゞまれる魂が己の力によりてその上に捺《お》す形をうく 九四―九六
かくてあたかも火の動くところ焔これにともなふごとく、新しき形靈にともなふ 九七―九九
この物この後これによりてその姿を現すがゆゑに影《オムブラ》と呼ばれ、またこれによりて凡ての官能をとゝのへ、見ることをさへ得るにいたる 一〇〇―一〇二
我等これによりて物言ひ、これによりて笑ふ、またこれによりて我等に涙あり歎息《なげき》あり(汝これをこの山の上に聞けるなるべし) 一〇三―一〇五
諸※[#二の字点、1−2−22]の願ひまたはその他の情の我等に作用《はたらき》を及ぼすにしたがひ、影も亦姿を異にす、是ぞ汝のあやしとする事の原因《もと》なる。 一〇六―一〇八
我等はこの時はや最後の曲路にいたりて右にむかひ、心を他《ほか》にとめゐたり 一〇九―一一一
こゝにては岸焔の矢を射、縁《ふち》は風を上におくりてこれを追返さしめ、そこに一の路を空《あ》く 一一二―一一四
されば我等は開きたる處を傳ひてひとり/″\に行かざるをえざりき、我はこなたに火を恐れかなたに下に落《おつ》るをおそれぬ 一一五―一一七
わが導者曰ふ。かたく目の手綱を緊《し》めてこゝを過ぎよ、たゞ些《すこし》の事のために足を誤るべければなり。 一一八―一二〇
この時こよなき[#「こよなき」に白丸傍点]憐憫《あはれみ》の神[#「の神」に白丸傍点]と猛火の懷《ふところ》にうたふ聲我にきこえてわが心をばまたかなたにもむかはしむ 一二一―一二三
かくて我見しに焔の中をゆく多くの靈ありければ、我は彼等を見またわが足元《あしもと》をみてたえずわが視力をわかてり 一二四―一二六
聖歌終れば、彼等は高くわれ夫を知らず[#「われ夫を知らず」に白丸傍点]とさけび、後低く再びこの聖歌をうたひ 一二七―一二九
これを終ふればまた叫びて、ディアーナ森にとゞまりて、かのヴェーネレの毒を嘗めしエリーチェを逐へりといふ 一三〇―一三二
かくて彼等歌に歸り、後またさけびて、徳と縁《えにし》の命ずる如く貞操《みさを》を守れる妻と夫の事を擧ぐ 一三三―一三五
おもふに火に燒かるゝ間は、彼等たえずかく爲すなるべし、かゝる藥かゝる食物《くひもの》によりてこそ 一三六―一三八
その傷《きず》つひにふさがるなれ 一三九―一四一
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第二十六曲
我等かく縁《ふち》を傳ひ一列《ひとつら》となりて歩める間に、善き師しば/\いふ。心せよ、わが誡めを空しうするなかれ。 一―三
はや光をもて西をあまねく蒼より白に變ふる日は、わが右の肩にあたれり 四―六
我は影によりて焔をいよ/\赤く見えしめ、また多くの魂のかゝる表徴《しるし》にのみ心をとめつゝ行くを見たり 七―九
彼等のわが事を語るにいたれるもこれが爲なりき、かれらまづ、彼は虚《むな》しき身のごとくならずといふ 一〇―一二
かくていくたりか、燒かれざる處に出でじとたえず心を用ゐつゝ、その進むをうるかぎりわが方《かた》に來れる者ありき 一三―一五
あゝ汝おそき歩履《あゆみ》のためならずして恐らくは敬《うやまひ》のために侶のあとより行く者よ、渇《かわき》と火に燃ゆる我に答へよ 一六―一八
汝の答を求むる者我獨りに非ず、此等の者皆これに渇く、そのはげしきに比《くら》ぶればインド人《びと》又はエチオピア人の冷《つめた》き水にかわくも及ばじ 一九―二一
請ふ我等に告げよ、汝未だ死の網《あみ》の中に入らざるごとく、身を壁として日を遮《さへぎ》るはいかにぞや。 二二―二四
その一《ひとり》斯く我にいへり、また若しこの時新しき物現はれて心をひくことなかりせば、我は既にわが身の上をあかせしなるべし 二五―二七
されどこの時顏をこの民にむけ燃ゆる路の正中《たゞなか》をあゆみて來る民ありければ、我は彼等をみんとて詞をとゞめぬ 二八―三〇
我見るにかなたこなたの魂みないそぎ、たがひに接吻《くちづけ》すれども短き會釋《ゑしやく》をもて足れりとして止まらず 三一―三三
あたかも蟻がその黒める群《むれ》の中にてたがひに口を觸れしむる(こはその路と幸《さち》とを探《さぐ》るためなるべし)に似たり 三四―三六
したしみの會釋をはれば、未だ一歩も進まざるまに、いづれも競うてその聲を高くし 三七―三九
新しき群《むれ》は、ソッドマ、ゴモルラといひ、殘りの群は、牡牛をさそひて己の慾を遂げんためパシフェの牝牛の中に入るといふ 四〇―四二
かくてたとへば群鶴《むらづる》の、一部はリフエの連山《やま/\》にむかひ、また一部は砂地《すなぢ》にむかひ、此《これ》氷を彼《かれ》日を厭ひて飛ぶごとく 四三―四五
民の一|群《むれ》かなたにゆき、一群こなたに來り、みな泣きつゝ、さきにうたへる歌と、彼等にいとふさはしき叫びに歸れり 四六―四八
また我に請へるかの魂等は、聽くの願ひをその姿にあらはしつゝ前の如く我に近づきぬ 四九―五一
我斯く再び彼等の望みを見ていひけるは。あゝいつか必ず平安を享くる魂等よ 五二―五四
熟《う》めるも熟まざるもわが身かの世に殘るにあらず、その血その骨節《ふし》みな我とともにこゝにあり 五五―五七
我こゝより登りてわが盲《めしひ》を癒さんとす、我等の爲に恩惠《めぐみ》を求むる淑女天に在り、是故にわれ肉體を伴ひて汝等の世を過ぐ 五八―六〇
ねがはくは汝等の大望速かに遂げ、愛の滿ち/\且ついと廣く弘がる天汝等を住《すま》はしむるにいたらんことを 六一―六三
請ふ我に告げてこの後紙にしるすをえしめよ、汝等は誰なりや、また汝等の背《せ》の方《かた》にゆく群《むれ》は何ぞや。 六四―六六
粗野なる山人《やまびと》都に上れば、心奪はれ思ひ亂れて、あたりをみつゝ言葉なし 六七―六九
かの魂等またみなかくのごとく見えき、されど驚愕《おどろき》(貴き心の中にてはそのしづまること早し)の重荷おろされしとき 七〇―七二
さきに我に問へる者またいひけるは。福なる哉汝生を善くせんとてこの地の經驗を船に載す 七三―七五
我等と共に來らざる民の犯せる罪は、そのかみ勝誇れるチェーザルをして王妃といへる罵詈《のゝしり》の叫びを聞くにいたらしめしものなりき 七六―七八
是故に汝等の聞けるごとく彼等自ら責めてソッドマとさけびて去り、その恥をもて焔をたすく 七九―八一
我等の罪は異性によれり、されど獸の如く慾に從ひ、人の律法《おきて》を守らざりしがゆゑに 八二―八四
我等彼等とわかるゝ時は、かの獸となれる板の内にて獸となれる女の名を讀み、自ら己をはづかしむ 八五―八七
汝既に我等の行爲《おこなひ》と我等の犯せる罪を知る、恐らくはさらに我等の名を知るを望むべけれど告ぐるに時なく又我|然《しか》するをえざるなるべし 八八―九〇
たゞわが身に就《つい》ては我汝の願ひを滿《みた》さむ、我はグイード・グィニツェルリなり、未だ最後《いまは》とならざる先に悔いしため今既に罪を淨む。 九一―九三
我及び我にまさりて愛のうるはしきけだかき調《しらべ》が奏《かな》でしことある人々の父かく己が名をいふを聞きしとき 九四―
我はさながらリクルゴの憂ひのうちに再び母をみしときの二人《ふたり》の男の子の如くなりき、されど彼等のごとく激せず ―九九
たゞ物を思ひつゝ長く彼を見てあゆみ、聞かず語らず、また火をおそれてかなたに近づくことをせざりき 一〇〇―一〇二
かくてわが目飽くにおよび、われかたく誓ひをたてて彼のために能くわが力を盡さんと告ぐ
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