きてこゝにふたゝび己を清くす 六四―六六
果實《このみ》より、また青葉にかゝる飛沫《みづけぶり》よりいづる香氣《かをり》は飮食《のみくひ》の慾を我等の中《うち》に燃やすなり 六七―六九
しかして我等のこの處を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りて苦しみを新たにすることたゞ一|度《たび》にとゞまらず――われ苦しみといふ、まことに慰《なぐさめ》といはざるべからず 七〇―七二
そはクリストの己が血をもて我等を救ひたまへる時、彼をしてよろこびてエリ[#「エリ」に白丸傍点]といはしめし願ひ我等を樹下《このもと》に導けばなり。 七三―七五
我彼に。フォレーゼよ、汝世を變へてまさる生命《いのち》をえしよりこの方いまだ五|年《とせ》の月日經ず 七六―七八
若し我等を再び神に嫁《とつ》がしむる善き憂ひの時到らざるまに、汝の罪を犯す力既に盡きたるならんには 七九―八一
汝いかでかこゝに來れる、我は汝を下なる麓、時の時を補《おぎな》ふところに今も見るならんとおもへるなりき。 八二―八四
是に於てか彼我に。わがネルラそのあふるゝ涙をもて我をみちびき、苛責の甘き茵※[#「くさかんむり/陳」、第3水準1−91−23]《いんちん》を飮ましむ 八五―八七
彼心をこめし祈祷《いのり》と歎息《ためいき》をもて、かの魂の待つ處なる山の腰より我を引きまた我を他の諸※[#二の字点、1−2−22]の圓より救へり 八八―九〇
わが寡婦《やもめ》わが深く愛せし者はその善行《よきおこなひ》の類《たぐひ》少なきによりていよ/\神にめでよろこばる 九一―九三
そは婦人《をんな》の愼《つゝしみ》に於ては、サールディニアのバルバジアさへ、わがかの女を殘して去りしバルバジアよりはるかに上にあればなり 九四―九六
あゝなつかしき兄弟よ、我汝に何を告げんや、今を昔となさざる未來すでにわが前にあらはる 九七―九九
この時到らば教壇に立つ人、面皮《めんぴ》厚きフィレンツェの女等の、乳房《ちぶさ》と腰を露《あら》はしつゝ外《そと》に出るをいましむべし 一〇〇―一〇二
いかなる未開の女いかなるサラチーノの女なりとて、靈または他《ほか》の懲戒《こらしめ》なきため身を被はずして出でし例《ためし》あらんや 一〇三―一〇五
されどかの恥知らぬ女等、若し※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉《めぐり》早き天が彼等の爲に備ふるものをさだかに知らば、今既に口をひらきてをめくなるべし 一〇六―一〇八
そはわが先見に誤りなくば、今|子守歌《ナンナ》を聞きてしづかに眠る者の頬に鬚|生《お》ひぬまに彼等悲しむべければなり 一〇九―一一一
あゝ兄弟よ、今は汝の身の上を我にかくすことなかれ、見よ我のみかは、これらの者皆汝が日を覆ふところを凝視《みつ》む。 一一二―一一四
我即ち彼に。汝若し汝の我と我の汝といかに世をおくれるやをおもひいでなば、その記憶は今も汝をくるしめむ 一一五―一一七
わが前にゆく者我にかゝる生を棄てしむ、こは往日《さきつひ》これの――かくいひて日をさし示せり――姉妹の圓く現はれし時の事なり 一一八―一二〇
彼我を彼に從ひてゆくこの眞《まこと》の肉とともに導いて闌《ふ》けし夜《よ》を過ぎ、まことの死者をはなれたり 一二一―一二三
我彼に勵まされてかしこをいで、汝等世の爲に歪める者を直くするこの山を登りつつまた※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りつゝこゝに來れり 一二四―一二六
彼はベアトリーチェのあるところにわがいたらん時まで我をともなはむといふ、かしこにいたらば我ひとり殘らざるをえず 一二七―一二九
かく我にいふはこの者即ちヴィルジリオなり(我彼を指ざせり)、またこれなるは汝等の王國を去る魂なり、この地今 一三〇―一三二
その隅々《すみ/″\》までもゆるげるは彼のためなりき。
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   第二十四曲

言《ことば》歩《あゆみ》を、歩言をおそくせず、我等は語りつゝあたかも順風に追はるゝ船のごとく疾《と》く行けり 一―三
再び死にし者に似たる魂等はわが生くるを知り、我を見て驚愕《おどろき》を目の坎《あな》より吐けり 四―六
我續いてかたりていふ。彼若し伴侶《とも》のためならずは、おそらくはなほ速かに登らむ 七―九
されど知らば我に告げよ、ピッカルダはいづこにありや、また告げよ、かく我を視る民の中に心をとむべき者ありや。 一〇―一二
わが姉妹(その美その善いづれまされりや我知らず)は既に高きオリムポによろこびて勝利《かち》の冠をうく。 一三―一五
彼まづ斯くいひて後。我等の姿斷食のためにかく搾《しぼ》り取らるゝがゆゑに、こゝにては我等|誰《た》が名をも告ぐるをう 一六―一八
此は――指ざしつゝ――ボナジユンタ、ルッカのボナジユンタなり、またその先のきはだちて憔悴《やつれ》し顏は 一九―二一
かつて聖なる寺院を抱けり、彼はトルソの者なりき、いま斷食によりてボルセーナの鰻《うなぎ》とヴェルナッチヤを淨む。 二二―二四
その他《ほか》多くの者の名を彼一々我に告ぐるに、彼等皆名をいはるゝを厭はじとみえ、その一者《ひとり》だに憂《う》き状《さま》をなすはあらざりき 二五―二七
我はウバルディーン・デラ・ピーラと、杖にて多くの民を牧せしボニファーチョとが、饑ゑの爲に空しくその齒を動かすを見たり 二八―三〇
我はメッセル・マルケーゼを見たり、この者フォルリにありし頃はかく劇しき渇《かわき》なく且つ飮むに便宜《たより》多かりしかどなほ飽く事を知らざりき 三一―三三
されど恰も見てその中よりひとりを擇ぶ人の如く我はルッカの者をえらびぬ、彼我の事を知るを最《いと》希ふさまなりければ 三四―三六
彼はさゝやけり、我は彼がかく彼等を痩せしむる正義の苦痛《いたみ》を感ずるところにてゼントゥッカといふを聞きし如くなりき 三七―三九
我曰ふ。あゝかく深く我と語るを望むに似たる魂よ、請ふ汝のいへることを我にさとらせ、汝の言葉をもて汝と我の願ひを滿たせよ。 四〇―四二
彼曰ふ。女生れていまだ首※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かしらぎぬ》を被《かづ》かず、この者わが邑《まち》を、人いかに誹るとも、汝の心に適《かな》はせむ 四三―四五
汝この豫言を忘るゝなかれ、もしわが低語《さゝやき》汝の誤解を招けるならば、この後まことの事汝にこれをときあかすべし 四六―四八
されど告げよ、かの新しき詩を起し、戀を知る淑女等とそのはじめにいへる者是即ち汝なりや。 四九―五一
我彼に。愛我を動かせば我これに意を留めてそのわが衷《うち》に口授《くじゆ》するごとくうたひいづ。 五二―五四
彼曰ふ。あゝ兄弟よ、我今かの公《おほやけ》の證人《あかしびと》とグイットネと我とをわが聞く麗はしき新しき調《しらべ》のこなたにつなぐ節《ふし》をみる 五五―五七
我よく汝等の筆が口授者《くじゆしや》にちかく附隨《つきしたが》ひて進むをみる、われらの筆にはげにこの事あらざりき 五八―六〇
またなほ遠く先を見んとつとむる者も彼と此との調《しらべ》の區別《けぢめ》をこの外にはみじ。かくいひて心足れるごとく默《もだ》しぬ 六一―六三
ニーロの邊《ほとり》に冬籠《ふゆごも》る鳥、空に群《むらが》り集《つど》ひて後、なほも速かに飛ばんため達《つらな》り行くことあるごとく 六四―六六
その痩すると願ひあるによりて身輕きかしこの民は、みな首《かうべ》をめぐらしつゝふたゝびその歩履《あゆみ》をはやめぬ 六七―六九
また走りて疲れたる人その侶におくれ、ひとり歩みて腰の喘《あへぎ》のしづまる時を待つごとく 七〇―七二
フォレーゼは聖なる群《むれ》をさきにゆかしめ、我とともにあとより來りていひけるは。我の再び汝に會ふをうるは何時《いつ》ぞや。 七三―七五
我彼に答ふらく。いつまで生くるや我知らず、されどわが歸ること早しとも、我わが願ひの中に、それよりはやくこの岸に到らむ 七六―七八
そはわが郷土《ふるさと》となりたる處は、日に日に自ら善を失ひ、そのいたましく荒るゝことはや定まれりとみゆればなり。 七九―八一
彼曰ふ。いざ行け、我見るに、この禍ひに關《かゝ》はりて罪の最も大いなるもの、一の獸の尾の下《もと》にて曳かれ、罪赦さるゝ例《ためし》なき溪にむかふ 八二―八四
獸はたえずはやさを増しつゝ一足毎にとくすゝみ、遂に彼を踏み碎きてその恥づべき躯《むくろ》を棄つ 八五―八七
これらの輪未だ長く※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》らざるまに(かくいひて目を天にむく)、わが言《ことば》のなほよく説明《ときあか》す能はざるもの汝に明《あきらか》なるにいたらむ 八八―九〇
いざ汝あとに殘れ、この王國にては時いと尊し、汝と斯く相並びてゆかば、わが失ふところ多きに過ぎむ。 九一―九三
たとへば先登《さきがけ》の譽をえんとて、馬上の群《むれ》の中より一人《ひとり》の騎士、馳せ出づることあるごとく 九四―九六
彼足をはやめて我等を離れ、我は世の大いなる軍帥《ぐんすゐ》なりし二者《ふたり》とともに路に殘れり 九七―九九
彼既に我等の前を去ること遠く、わが目の彼に伴ふさま、わが心の彼の詞にともなふごとくなりしとき 一〇〇―一〇二
いま一|本《もと》の樹の、果《み》饒《ゆたか》にして盛なる枝我にあらはる、また我この時はじめてかなたにめぐれるなればその處甚だ遠からざりき 一〇三―一〇五
我見しに民その下にて手を伸べつゝ葉にむかひて何事をかよばはりゐたり、罪なき嬰兒《をさなご》物を求めて 一〇六―
乞へども乞はるゝ人答へず、かへつて願ひを増さしめんためその乞ふ物をかくさずして高く擡《もた》ぐるもこの類《たぐひ》なるべし ―一一一
かくて彼等はあたかも迷ひ覺めしごとく去り、我等はかく多くの請《こひ》と涙を卻《しりぞ》くる巨樹《おほき》のもとにたゞちにいたれり 一一二―一一四
汝等過ぎゆきて近づくなかれ、エーヴァのくらへる木この上にあり、これはもとかの樹よりいづ。 一一五―一一七
誰ならむ小枝の間よりかくいふ者ありければ、ヴィルジリオとスターツィオと我とは互ひに近く身を寄せつゝ聳ゆる岸の邊《ほとり》を行けり 一一八―一二〇
かの者またいふ。雲間に生れし詛《のろひ》の子等即ち飽いてその二重《ふたへ》の腰をもてテゼオと爭へる者を憶へ 一二一―一二三
また貪り飮みしため、マディアンにむかひて山を下れるゼデオンがその侶となさざりし希伯來人《エブレオびと》を憶へ。 一二四―一二六
かく我等は二の縁《へり》の一を傳ひて、幸《さち》なき報《むくい》のともなへる多食の罪の事をきゝつゝこゝを過ぎ 一二七―一二九
後身を寛《ゆるやか》にしてさびしき路を行き、いづれも言葉なく思ひに沈みて裕《ゆたか》に千餘の歩履《あゆみ》をはこべり 一三〇―一三二
汝等何ぞたゞみたり行きつゝかく物を思ふや。ふと斯くいへる聲ありき、是に於てか我は恰もおぢおそるゝ獸の如く顫《ふる》ひ 一三三―一三五
その誰なるやを見んとて首《かうべ》を擧ぐればひとりの者みゆ、爐の中なる玻璃または金屬《かね》といふとも斯く光り 一三六―
かく赤くみゆるはあらじ、彼曰ふ。汝等登らんことをねがはばこゝより折れよ、往いて平和をえんとする者みなこなたにむかふ。 ―一四一
彼の姿わが目の力を奪へるため、我は身をめぐらして、あたかも耳に導かるゝ人の如く、わがふたりの師の後《うしろ》にいたれり 一四二―一四四
曉告ぐる五月の輕風《そよかぜ》ゆたかに草と花とを含み、動きて佳《よ》き香《か》を放つごとくに 一四五―一四七
うるはしき風わが額の正中《たゞなか》にあたれり、我は神饌《アムプロージャ》の匂《にほ》ひを我に知らしめし羽の動くをさだかにしれり 一四八―一五〇
また聲ありていふ。大いなる恩惠《めぐみ》に照され、味《あぢはひ》の愛飽くなき慾を胸に燃やさず常に宜《よろ》しきに從ひて饑うる者は福《さいはひ》なり。 一五一―一五三
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   第二十五曲

時は昇《のぼり》の遲きを許さず、そは子午線を日は金牛に夜は天蠍にはや付《
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