一曰ふ。我等と同じ方《かた》に來れ、しかせば汝徑を見む 一一二―一一四
進むの願ひいと深くして我等止まることをえず、このゆゑに我等の義務《つとめ》もし無禮《むらい》とみえなば宥《ゆる》せ 一一五―一一七
我は良きバルバロッサが(ミラーノ彼の事を語れば今猶愁ふ)帝國に君たりし頃ヴェロナのサン・ヅェノの院主なりき 一一八―一二〇
既に隻脚《かたあし》を墓に入れしひとりの者程なくかの僧院のために歎き、權をその上に揮《ふる》ひしことを悲しまむ 一二一―一二三
彼はその子の身全からず、心さらにあしく、生《うまれ》正しからざるものをその眞《まこと》の牧者に代らしめたればなり。 一二四―一二六
彼既に我等を超えて遠く走り行きたれば、そのなほ語れるやまたは默《もだ》せるや我知らず、されどかくいへるをきき喜びてこれを心にとめぬ 一二七―一二九
すべて乏しき時のわが扶《たすけ》なりし者いふ。汝こなたにむかひて、かのふたりの者の怠惰《おこたり》を噛みつゝ來るを見よ。 一三〇―一三二
凡ての者の後方《うしろ》にて彼等いふ。ひらかれし海をわたれる民は、ヨルダンがその嗣子《よつぎ》を見ざりしさきに死せり。 一三三―一三五
また。アンキーゼの子とともに終りまで勞苦を忍ばざりし民は、榮《はえ》なき生に身を委ねたり。 一三六―一三八
かくてかの魂等遠く我等を離れて見るをえざるにいたれるとき、新しき想ひわが心に起りて 一三九―一四一
多くの異なる想ひを生めり、我彼より此とさまよひ、迷ひのためにわが目を閉づれば 一四二―一四四
想ひは夢に變りにき 一四五―一四七
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第十九曲
晝の暑《あつさ》地球のために、またはしば/\土星のために消え、月の寒《さむさ》をはややはらぐるあたはざるとき 一―三
地占者《ゼオマンテイ》等が、夜の明けざるさきに、その大吉と名《な》づくるものの、ほどなく白む道を傳ひて、東に登るを見るころほひ 四―六
ひとりの女夢にわが許に來れり、口|吃《ども》り目|眇《すが》み足|曲《まが》り手|斷《た》たれ色蒼し 七―九
われこれに目をとむれば、夜の凍《こゞ》えしむる身に力をつくる日のごとくわが目その舌をかろくし 一〇―
後また程なくその全身を直くし、そのあをざめし顏を戀の求むるごとく染めたり ―一五
さてかく詞の自由をえしとき、彼歌をうたひいづれば、我わが心をほかに移しがたしとおもひぬ 一六―一八
その歌にいふ。我はうるはしきシレーナなり、耳を樂しましむるもの我に滿ちみつるによりて海の正中《たゞなか》に水手《かこ》等を迷はす 一九―二一
我わが歌をもてウリッセをその漂泊《さすらひ》の路より引けり、およそ我と親しみて後去る者少なし、心にたらはぬところなければ。 二二―二四
その口未だ閉ぢざる間に、ひとりの聖なる淑女、これをはぢしめんとてわが傍《かたへ》にあらはれ 二五―二七
あゝヴィルジリオよ、ヴィルジリオよ、これ何者ぞやとあららかにいふ、導者即ち淑女にのみ目をそゝぎつゝ近づけり 二八―三〇
さてかの女をとらへ、衣《ころも》の前を裂き開きてその腹を我に見すれば、惡臭《をしう》これよりいでてわが眠りをさましぬ 三一―三三
われ目を善き師にむかはしめたり、彼いふ。少なくも三たび我汝を呼びぬ、起きて來れ、我等は汝の過ぎて行くべき門を尋ねむ。 三四―三六
我は立てり、高き光ははや聖なる山の諸※[#二の字点、1−2−22]の圓に滿てり、我等は新しき日を背にして進めり 三七―三九
我は彼に從ひつゝ、わが額をば、あたかもこれに思ひを積み入れ身を反橋《そりはし》の半《なかば》となす者のごとく垂れゐたるに 四〇―四二
この人界にては開くをえざるまでやはらかくやさしく、來れ、道こゝにありといふ聲きこえぬ 四三―四五
かく我等に語れるもの、白鳥のそれかとみゆる翼をひらきて、硬き巖の二の壁の間より我等を上にむかはしめ 四六―四八
後羽を動かして、哀れむ者[#「哀れむ者」に白丸傍点]はその魂|慰《なぐさめ》の女主となるがゆゑに福なることを告げつつ我等を扇《あふ》げり 四九―五一
我等ふたり天使をはなれて少しく登りゆきしとき、わが導者我にいふ。汝いかにしたりとて地をのみ見るや。 五二―五四
我。あらたなる幻《まぼろし》はわが心をこれにかたむかせ、我この思ひを棄つるをえざれば、かく疑ひをいだきてゆくなり。 五五―五七
彼曰ふ。汝はこの後唯|一者《ひとり》にて我等の上なる魂を歎かしむるかの年へし妖女を見しや、人いかにしてこれが紲《きづな》を斷つかを見しや 五八―六〇
足れり、いざ汝|歩履《あゆみ》をはやめ、永遠《とこしへ》の王が諸天をめぐらして汝等に示す餌に目をむけよ。 六一―六三
はじめは足をみる鷹も聲かゝればむきなほり、心|食物《くひもの》のためにかなたにひかれ、これをえんとの願ひを起して身を前に伸ぶ 六四―六六
我亦斯の如くになりき、かくなりて、かの岩の裂け登る者に路を與ふるところを極め、環《めぐ》りはじむる處にいたれり 六七―六九
第五の圓にいでしとき、我見しにこゝに民ありき、彼等みな地に俯《うつむ》き伏して泣きゐたり 七〇―七二
わが魂は塵につきぬ[#「わが魂は塵につきぬ」に白丸傍点]、我はかく彼等のいへるをききしかど、詞ほとんど解《げ》しがたきまでその歎息《なげき》深かりき 七三―七五
あゝ神に選ばれ、義と望みをもて己が苦しみをかろむる者等よ、高き登の道ある方《かた》を我等にをしへよ。 七六―七八
汝等こゝに來るといへども伏すの憂ひなく、たゞいと亟《すみや》かに道に就かんことをねがはば、汝等の右を常に外《そと》とせよ。 七九―八一
詩人斯く請ひ我等かく答へをえたり、こは我等の少しく先にきこえしかば、我その言《ことば》によりてかのかくれたる者を認め 八二―八四
目をわが主にむけたるに、主は喜悦《よろこび》の休徴《しるし》をもて、顏にあらはれしわが願ひの求むるところを許したまへり 八五―八七
我わが身を思ひのまゝになすをえしとき、かの魂即ちはじめ詞をもてわが心を惹ける者にちかづき 八八―九〇
いひけるは。神のみ許《もと》に歸るにあたりて缺くべからざるところの物を涙に熟《う》ましむる魂よ、わがために少時《しばらく》汝の大いなる意《こゝろばせ》を抑へて 九一―九三
我に告げよ、汝誰なりしや、汝等何ぞ背を上にむくるや、汝わが汝の爲に世に何物をか求むるを願ふや、我は生《いき》ながら彼處《かしこ》よりいづ。 九四―九六
彼我に。何故に我等の背を天が己にむけしむるやは我汝に告ぐべきも、汝まづ我はペトルスの繼承者なりしことを知るべし[#「我はペトルスの繼承者なりしことを知るべし」に白丸傍点] 九七―九九
一の美しき流れシェストリとキアーヴェリの間をくだる、しかしてわが血族《やから》の稱呼《となへ》はその大いなる誇をばこの流れの名に得たり 一〇〇―一〇二
月を超ゆること數日、我は大いなる法衣《ころも》が、これを泥《ひぢ》に汚さじと力《つと》むる者にはいと重くして、いかなる重荷もたゞ羽と見ゆるをしれり 一〇三―一〇五
わが歸依はあはれおそかりき、されどローマの牧者となるにおよびて我は生の虚僞《いつはり》多きことをさとれり 一〇六―一〇八
かく高き地位をえて心なほしづまらず、またかの生をうくる者さらに高く上《のぼ》るをえざるをみたるがゆゑにこの生の愛わが衷《うち》に燃えたり 一〇九―一一一
かの時にいたるまで、我は幸《さち》なき、神を離れし、全く慾深き魂なりき、今は汝の見るごとく我このためにこゝに罰せらる 一一二―一一四
貪婪《むさぼり》の爲すところのことは我等悔いし魂の罪を淨むる状《さま》にあらはる、そも/\この山にこれより苦《にが》き罰はなし 一一五―一一七
我等の目地上の物に注ぎて、高く擧げられざりしごとくに、正義はこゝにこれを地に沈ましむ 一一八―一二〇
貪婪《むさぼり》善を求むる我等の愛を消して我等の働をとゞめしごとくに、正義はこゝに足をも手をも搦《から》めとらへて 一二一―
かたく我等を壓《おさ》ふ、正しき主の好みたまふ間は、我等いつまでも身を伸べて動かじ。 ―一二六
我は既に跪きてゐたりしが、このとき語らんと思へるに、わが語りはじむるや彼ただ耳を傾けて我の尊敬《うやまひ》をあらはすをしり 一二七―一二九
いひけるは。汝何ぞかく身をかゞむるや。我彼に。汝の分《きは》貴《たか》ければわが良心は我の直く立つを責めたり。 一三〇―一三二
彼答ふらく。兄弟よ、足を直くして身を起すべし、誤るなかれ、我も汝等とおなじく一の權威《ちから》の僕《しもべ》なり 一三三―一三五
汝若しまた嫁せず[#「また嫁せず」に白丸傍点]といへる福音の聲をきけることあらば、またよくわがかく語る所以《ゆゑん》をさとらむ 一三六―一三八
いざ往《ゆ》け、我は汝の尚長く止まるを願はず、我泣いて汝のいへるところのものを熟《う》ましむるに汝のこゝにあるはその妨《さまたげ》となればなり 一三九―一四一
我には世に、名をアラージヤといふひとりの姪《めひ》あり、わが族《うから》の惡に染まずばその氣質《こゝろばへ》はよし 一四二―一四四
わがかしこに殘せる者たゞかの女のみ。 一四五―一四七
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第二十曲
一の意これにまさる意と戰ふも利なし、是故に我は彼を悦ばせんためわが願ひに背きて飽かざる海絨《うみわた》を水よりあげぬ 一―三
我は進めり、わが導者はたえず岩に沿ひて障礙《しやうげ》なき處をゆけり、そのさま身を女墻《ひめがき》に寄せつゝ城壁の上をゆく者に似たりき 四―六
そは片側《かたがは》には、全世界にはびこる罪を一|滴《しづく》また一滴、目より注ぎいだす民、あまりに縁《ふち》近くゐたればなり 七―九
禍ひなるかな汝年へし牝の狼よ、汝ははてしなき饑《う》ゑのために獲物《えもの》をとらふること凡ての獸の上にいづ 一〇―一二
あゝ天よ(人或ひは下界の推移を汝の運行に歸するに似たり)、これを逐ふ者いつか來らむ 一三―一五
我等はおそくしづかに歩めり、我は魂等のいたはしく歎き憂ふる聲をききつゝこれに心をとめゐたるに 一六―一八
ふと我等の前に、産《うみ》にくるしむ女のごとく悲しくさけぶ聲きこえて、うるはしきマリアよといひ 一九―二一
續いてまた、汝の貧しかりしことは汝が汝の聖なる嬰兒《をさなご》を臥さしめしかの客舍にあらはるといひ 二二―二四
また次に、あゝ善きファーブリツィオよ、汝は不義と大いなる富を得んより貧と徳をえんと思へりといふ 二五―二七
これらの詞よくわが心に適《かな》ひたれば、我はかくいへりとみゆる靈の事をしらんとてなほさきに進めるに 二八―三〇
彼はまたニッコロが小女《をとめ》等の若き生命《いのち》を導きて貞淑《みさを》に到らしめんため彼等にをしまず物を施せしことをかたれり 三一―三三
我曰ふ。あゝかく大いなる善を語る魂よ、汝は誰なりしや、何ぞたゞひとりこれらの讚《ほ》むべきわざを新たに陳ぶるや、請ふ告げよ 三四―三六
果《はて》をめざして飛びゆく生命《いのち》の短き旅を終へんためわれ世に歸らば、汝の詞|報酬《むくい》をえざることあらじ。 三七―三九
彼。我はかしこに慰《なぐさめ》をうるを望まざれども、かく大いなる恩惠《めぐみ》いまだ死せざる汝の中に輝くによりてこれを告ぐべし 四〇―四二
一の惡しき木その蔭をもてすべてのクリスト數國をおほひ、良果《よきみ》これより採らるゝこと罕《まれ》なり、そも/\我はかの木の根なりき 四三―四五
されどドアジォ、リルラ、ガンド、及びブルーゼスの力足りなば報《むくい》速かにこれに臨まむ、我また萬物を裁《さば》き給ふ者にこの報を乞ひ求む 四六―四八
我は世に名をウーゴ・チャペッタといへり、多くのフィリッピとルイージ我よりいでて近代《ちかきよ》のフランスを治む 五二―五四
我は巴里《パリージ》のとある屠戸《にくや》の子なりき、昔の王達はやみな薨《かく》れて、灰色の衣を着る者獨り殘れるのみなりし頃 五二―五四
我は王國の統御の手綱のか
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