く》らるゝ光或ひは自ら或ひはこれを地に導く意志によりて汝を動かす 一六―一八
歌ふを最もよろこぶ鳥に己が形を變へたる女の殘忍なりし事の蹟《あと》わが想像の中にあらはれぬ 一九―二一
このときわが魂はみな己の中にあつまり外部《そと》より來るところのものを一だに受けざりき 二二―二四
次にひとりの十字架にかゝれる者わが高まれる想像の中に降《ふ》りぬ、侮蔑と兇猛を顏にあらはし、死に臨めどもこれを變へず 二五―二七
そのまはりには大いなるアッスエロとその妻エステル、及び言《ことば》行《おこなひ》倶に全き義人マルドケオゐたり 二八―三〇
あたかも覆《おほ》へる水の乏しくなれる一の泡《あわ》のごとくこの象《かたち》おのづから碎けしとき 三一―三三
わが幻の中にひとりの處女《をとめ》あらはれ、いたく泣きつゝいひけるは。あゝ王妃よ、何とて怒りのために無に歸するを願ひたまひたる 三四―三六
汝ラヴィーナを失はじとて身を殺し、今我を失ひたまへり、母上よ、かの人の死よりさきに汝の死を悼《いた》むものぞ我なる。 三七―三九
新しき光閉ぢたる目を俄かに射れば睡りは破れ、破れてしかしてその全く消えざるさきに搖《ゆら》めくごとく 四〇―四二
我等の見慣るゝ光よりもなほはるかに大いなるものわが顏にあたるに及びてかの想像の象《かたち》消えたり 四三―四五
我はわがいづこにあるやを知らんとて身をめぐらせるに、この時一の聲、登る處はこゝぞといひて凡ての他《ほか》の思ひよりわが心を引離し 四六―四八
語れる者の誰なるをみんとのわが願ひを、顏を合すにあらざれば絶えて鎭《しづ》まることなきばかり深くせしかど 四九―五一
あたかも我等の視力を壓《あつ》し、強きに過ぐる光によりてその形を被ひかくす日にむかふ時のごとくにわが力足らざりき 五二―五四
こは天の靈なり、己が光の中にかくれ、我等の請ふを待たずして我等に登《のぼり》の道を示す 五五―五七
彼人を遇《あしら》ふこと人の自己《おのれ》をあしらふに似たり、そは人は乏しきを見て乞はるゝを待つ時、その惡しき心より早くも拒まんとすればなり 五八―六〇
いざ我等かゝる招きに足をあはせて暮れざるさきにいそぎ登らむ、暮れなば再び晝となるまでしかするあたはじ。 六一―六三
わが導者かくいへり、我は彼と、足を一の階《きざはし》にむけたり、かくてわれ第一の段《きだ》を踏みしとき 六四―六六
我は身の邊《ほとり》に翼の如く動きてわが顏を扇ぐものあるを覺え、また、平和を愛する者[#「平和を愛する者」に白丸傍点](惡しき怒りを起さざる)は福なり[#「は福なり」に白丸傍点]といふ聲をききたり 六七―六九
夜をともなふ最後の光ははや我等をはなれて高き處を照し、かなたこなたに星あらはれぬ 七〇―七二
あゝわが能力《ちから》よ、汝何ぞかく消ゆるや。我自らかくいへり、そは我わが脛《はぎ》の作用《はたらき》の歇《や》むを覺えたればなり 七三―七五
我等はかの階《きざはし》登り果てしところに立てり、しかして動かざること岸に着ける船に似たりき 七六―七八
また我はこの新しき圓に音する物のあらんをおもひてしばし耳を傾けし後、わが師にむかひていふ 七九―八一
わがやさしき父よ告げたまへ、この圓に淨めらるゝは何の咎ぞや、たとひ足はとゞめらるとも汝の言《ことば》をとどむるなかれ。 八二―八四
彼我に。幸《さいはひ》を愛する愛、その義務《つとめ》に缺くるところあればこゝにて補《おぎな》はる、怠りて遲《おそ》くせる櫂《かい》こゝにて再び早めらる 八五―八七
されど汝なほ明かにさとらんため心を我にむかはしめよ、さらば我等の止まる間に汝善き果《み》を摘むをうべし。 八八―九〇
かくて又曰ふ。子よ、造主《つくりぬし》にも被造物《つくられしもの》にも未だ愛なきことなかりき、これに自然の愛あり、魂より出づる愛あり、汝これを知る 九一―九三
自然の愛は常に誤らず、されど他はよからぬ目的《めあて》または強さの過ぐるか足らざるによりて誤ることあり 九四―九六
愛第一の幸《さいはひ》をめざすか、ほどよく第二の幸をめざす間は、不義の快樂《けらく》の原因《もと》たるあたはず 九七―九九
されど逸《そ》れて惡に向ふか、または幸を追ふといへどもその熱|適《よろしき》を失ひて或ひは過ぎ或ひは足らざる時は即ち被造物《つくられしもの》己を造れる者に逆《さから》ふ 一〇〇―一〇二
是故に汝さとるをうべし、愛は必ず汝等の中にて凡ての徳の種となり、また罰をうくるに當るすべての行爲《おこなひ》の種となるを 一〇三―一〇五
さてまた愛はその主體の福祉より目をめぐらすをえざるがゆゑにいかなる物にも自ら憎むの恐れあるなく 一〇六―一〇八
いかなる物も第一者とわかれて自ら立つの理なきがゆゑにその情はみなこれを憎むことより斷たる 一〇九―一一一
わがかく説分《ときわく》る處正しくば、愛せらるゝ禍ひは即ち隣人《となりびと》の禍ひなる事亦|自《おのづ》から明かならむ、而して汝等の泥《ひぢ》の中にこの愛の生ずる状《さま》三あり 一一二―一一四
己が隣人の倒るゝによりて自ら秀でんことを望み、たゞこのためにその高きより墜つるを希ふ者あり 一一五―一一七
人の高く登るを見て己が權《ちから》、惠《めぐみ》、譽《ほまれ》及び名を失はんことをおそれ悲しみてその反對《うら》を求むる者あり 一一八―一二〇
また復讐を貪るほどに損害《そこなひ》を怨むとみゆる者あり、かゝる者は必ず人の禍ひをくはだつ 一二一―一二三
この三樣の愛この下に歎かる、汝これよりいま一の愛即ち程度《ほど》を誤りて幸を追ふもののことを聞け 一二四―一二六
それ人各※[#二の字点、1−2−22]己が魂を安んぜしむる一の幸をおぼろにみとめてこれを望み、皆爭ひてこれに就《つ》かんとす 一二七―一二九
これを見または求むるにあたりて汝等を引くところの愛|鈍《にぶ》ければ、この臺《うてな》は汝等を、正しく悔いし後に苛責す 一三〇―一三二
また一の幸《さいはひ》あり、こは人を幸にせざるものにて眞《まこと》の幸にあらず、凡ての幸の果《み》またその根なる至上の善にあらず 一三三―一三五
かゝる幸に溺るゝ愛この上なる三の圈にて歎かる、されどその三に分るゝ次第は 一三六―一三八
我いはじ、汝自らこれをたづねよ。 一三九―一四一
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第十八曲
説きをはりて後たふとき師わが足れりとするや否やをしらんと心をとめてわが顏を見たり 一―三
我はすでに新しき渇《かわき》に責められたれば、外《そと》に默《もだ》せるも内《うち》に曰ふ。恐らくは問ふこと多きに過ぎて我彼を累《わづら》はすならむ。 四―六
されどかの眞《まこと》の父はわが臆して闢《ひら》かざる願ひをさとり、自ら語りつゝ、我をはげましてかたらしむ 七―九
是に於てか我。師よ、汝の光わが目をつよくし、我は汝の言《ことば》の傳ふるところまたは陳ぶるところをみな明かに認むるをう 一〇―一二
されば請ふ、わが愛する麗しき父よ、すべての善惡の行の本《もと》なりと汝がいへる愛の何物なるやを我にときあかしたまへ。 一三―一五
彼曰ふ。智の鋭き目をわが方にむけよ、しかせば汝は、かの己を導者となす瞽《めしひ》等の誤れることをさだかに見るべし 一六―一八
夫れ愛し易く造られし魂樂しみのためにさめてそのはたらきを起すにいたればたゞちに動き、凡て己を樂します物にむかふ 一九―二一
汝等の會得《ゑとく》の力は印象を實在よりとらへ來りて汝等の衷《うち》にあらはし魂をこれにむかはしむ 二二―二四
魂これにむかひ、しかしてこれに傾けば、この傾《かたむき》は即ち愛なり、樂しみによりて汝等の中に新たに結ばるゝ自然なり 二五―二七
かくて恰も火がその體《たい》の最や永く保たるゝところに登らんとする素質によりて高きにむかひゆくごとく 二八―三〇
とらはれし魂は靈の動《うごき》なる願ひの中に入り、愛せらるゝものこれをよろこばすまでは休まじ 三一―三三
汝是に依りてさとるをえむ、いかなる愛にても愛そのものは美《ほ》むべきものなりと斷ずる人々いかに眞《まこと》に遠ざかるやを 三四―三六
これ恐らくはその客體常に良《よし》と見ゆるによるべし、されどたとひ蝋は良とも印影《かた》悉くよきにあらず。 三七―三九
我答へて彼に曰ふ。汝の言《ことば》とこれに附隨《つきしたが》へるわが智とは我に愛をあらはせり、されどわが疑ひは却つてこのためにいよ/\深し 四〇―四二
そは愛|外部《そと》より我等に臨み、魂|他《ほか》の足にて行かずば、直く行くも曲りてゆくも己が業《ごふ》にあらざればなり。 四三―四五
彼我に。理性のこれについて知るところは我皆汝に告ぐるをう、それより先は信仰に關《かゝ》はる事なればベアトリーチェを待つべし 四六―四八
それ物質と分れてしかしてこれと結び合ふ一切の靈體は特殊の力をその中にあつむ 四九―五一
この力はその作用によらざれば知られず、あたかも草木《くさき》の生命《いのち》の縁葉《みどりのは》に於ける如くその果《くわ》によらざれば現はれず 五二―五四
是故に最初の認識の智と、慾の最初の目的《めあて》を求むる情とは恰も蜜を造る本能蜂の中にある如く汝等の中にありて 五五―
そのいづこより來るや人知らず、しかしてこの最初の願ひは譽《ほめ》をも毀《そしり》をもうくべきものにあらざるなり ―六〇
さてこれに他《ほか》の凡ての願ひの集まるためには、謀りて而して許諾《うけがひ》の閾《しきみ》をまもるべき力自然に汝等の中に備はる 六一―六三
是即ち評價の源《みなもと》なり、是が善惡二の愛をあつめ且つ簸《ひ》るの如何によりて汝等の價値《かち》定まるにいたる 六四―六六
理をもて物を究めし人々この本然の自由を認めき、このゆゑに彼等徳義を世界に遣《のこ》せるなり 六七―六九
かかればたとひ汝等の衷《うち》に燃ゆる愛みな必須より起ると見做すも、汝等にはこれを抑《おさ》ふべき力あり 七〇―七二
ベアトリーチェはこの貴き力をよびて自由の意志といふ、汝これを憶ひいでよ、彼若しこの事について汝に語ることあらば。 七三―七五
夜半《よは》近くまでおくれし月は、その形白熱の釣瓶《つるべ》のごとく、星を我等にまれにあらはし 七六―七八
ローマの人がサールディニアとコルシーカの間に沈むを見る頃の日の炎をあぐる道に沿ひ天に逆ひて走れり 七九―八一
マントヴァの邑《まち》よりもピエートラを名高くなせる貴き魂わが負はせし荷をはやときおろし 八二―八四
我わが問ひをもて明《あきら》かにして解《げ》し易き説をはや刈り收めたれば、我は恰も睡氣《ねむけ》づきて思ひ定まらざる人の如く立ちゐたり 八五―八七
されど此時|後方《うしろ》よりはやこなたにめぐり來れる民ありて忽ちわが睡氣《ねむけ》をさませり 八八―九〇
テーベ人《びと》等バッコの助けを求むることあれば、イスメーノとアーソポがそのかみ夜その岸邊《きしべ》に見しごとき狂熱と雜沓とを 九一―九三
我はかの民に見きとおぼえぬ、彼等は善き願ひと正しき愛に御せられつゝかの圓に沿ひてその歩履《あゆみ》を曲ぐ 九四―九六
かの大いなる群《むれ》こと/″\く走り進めるをもて、彼等たゞちに我等の許に來れり、さきの二者《ふたり》泣きつゝ叫びていひけるは。 九七―九九
マリアはいそぎて山にはせゆけり。また。チェーザレはイレルダを服《したが》へんとて、マルシリアを刺しし後イスパニアに走れり。 一〇〇―一〇二
衆つゞいてさけびていふ。とく來れとく、愛の少なきために時を失ふなかれ、善行《よきおこなひ》をつとめて求めて恩惠《めぐみ》を新たならしめよ。 一〇三―一〇五
あゝ善を行ふにあたりて微温《ぬるみ》のためにあらはせし怠惰《おこたり》と等閑《なほざり》を恐らくは今強き熱にて償ふ民よ 一〇六―一〇八
この生くる者(我決して汝等を欺かず)登り行かんとてたゞ日の再び輝くを待つ、されば請ふ徑《こみち》に近きはいづ方なりや我等に告げよ。 一〇九―一一一
是わが導者の詞なりき、かの靈の
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