たくわが手にあるを見ぬ、また新たに得たる大いなる力とあふるゝばかりの友ありければ 五五―五七
わが子の首《かうべ》擢《ぬき》んでられて、寡《やもめ》となれる冠を戴き、かの受膏《じゅかう》の族《やから》彼よりいでたり 五八―六〇
大いなる聘物《おくりもの》プロヴェンツァがわが血族より羞恥の心を奪はざりし間は、これに美《ほ》むべき業《わざ》もなくさりとてあしき行ひもなかりしに 六一―六三
かの事ありしよりこの方、暴《あらび》と僞《いつはり》をもて掠《かす》むることをなし、後|贖《あがな》ひのためにポンティ、ノルマンディア及びグアスコニアを取れり 六四―六六
カルロ、イタリアに來れり、しかして贖のためにクルラディーノを犧牲《いけにへ》となし、後また贖のためにトムマーゾを天に歸らしむ 六七―六九
我見るに、今より後程なく來る一の時あり、この時到らば他《ほか》のカルロは己と己が族《やから》の事を尚《なほ》よく人に知らせんとてフランスを出づべし 七〇―七二
かれ身を固めず、ジュダの試《ため》せし槍を提《ひつさ》げてひとりかしこをいで、これにて突きてフィレンツェの腹を壞《やぶ》らむ 七三―七五
かれかくして國を得ず、罪と恥をえむ、これらは彼が斯《かゝ》る禍ひを輕んずるにより、彼にとりていよ/\重し 七六―七八
我見るに、嘗てとらはれて船を出でしことあるカルロは、己が女《むすめ》を賣りてその價を爭ふこと恰も海賊が女の奴隷をあしらふに似たり 七九―八一
あゝ貪慾《むさぼり》よ、汝わが血族《ちすぢ》を汝の許にひきてこれに己が肉をさへ顧みざらしめしほどなれば、この上《うへ》何をなすべきや 八二―八四
我見るに、過去《こしかた》未來《ゆくすゑ》の禍ひを小《ちひ》さくみえしめんとて、百合《フイオルダリーゾ》の花アラーニアに入り、クリストその代理者の身にてとらはれたまふ 八五―八七
我見るに、彼はふたゝび嘲られ、ふたゝび醋《す》と膽《い》とを嘗《な》め、生ける盜人の間に殺されたまふ 八八―九〇
我見るに、第二のピラート心殘忍なればこれにてもなは飽かず、法によらずして強慾の帆をかの殿《みや》の中まで進む 九一―九三
あゝ我主よ、聖意《みこゝろ》の奧にかくれつゝ聖怒《みいかり》をうるはしうする復讎を見てわがよろこぶ時いつか來らむ 九四―九六
聖靈のたゞひとりの新婦《はなよめ》についてわが語り、汝をしてその解説《ときあかし》を聞かんためわが方にむかはしめしかの詞は 九七―九九
晝の間我等の凡ての祈りにつゞく唱和なり、されど夜いたれば我等これに代へてこれと反する聲をあぐ 一〇〇―一〇二
そのとき我等はかの黄金《こがね》をいたく貪りて背信、盜竊、殺人の罪を犯せるピグマリオンと 一〇三―一〇五
飽くなきの求めによりて患艱《なやみ》をえ常に人の笑ひを招く慾深きミーダのことをくりかへし 一〇六―一〇八
また分捕物《えもの》を盜みとれるため今もこゝにてヨスエの怒りに刺さるとみゆる庸愚《おるか》なるアーカンのことを憶《おも》ひ 一〇九―一一一
次にサフィーラとその夫を責め、エリオドロの蹴られしことを讚《ほ》む、我等はまたポリドロを殺せるポリネストルの汚名をして 一一二―
あまねく山をめぐらしめ、さて最後にさけびていふ、クラッソよ、黄金《こがね》の味《あぢ》はいかに、告げよ、汝知ればなりと ―一一七
ひとりの聲高くひとりの聲低きことあり、こは情の我等を策《むちう》ちて或ひはつよく或ひは弱く語らしむるによる 一一八―一二〇
是故に晝の間我等のこゝにて陳ぶべき徳を我今ひとりいへるにあらず、たゞこのあたりにては我より外に聲を上ぐる者なかりしのみ。 一二一―一二三
我等既に彼を離れ、今はわれらの力を盡して路に勝たんとつとめゐたるに 一二四―一二六
このとき我は山の震ひ動くこと倒るゝ物に似たるを覺えき、是に於てかわが身恰も死に赴く人の如く冷ゆ 一二七―一二九
げにラートナが天の二の目を生まんとて巣を營める時よりさきのデロといふともかく強くはゆるがざりしなるべし 一三〇―一三二
ついではげしき喊聲《さけびごゑ》四方に起れり、師即ち我に近づき、わが導く間は汝恐るゝなかれといふ 一三三―一三五
至高處《いとたかきところ》には榮光神にあれ[#「には榮光神にあれ」に白丸傍点]。衆皆斯くいひゐたり、かくいひゐたるを我は身に近くしてその叫びの聞分《きゝわ》けうべき魂によりてさとれるなりき 一三六―一三八
我等はかの歌を最初に聞ける牧者のごとく、あやしみとゞまりて動かず、震動《ふるひ》止み歌終るにおよびて 一三九―一四一
こゝに再び我等の聖なる行路《たびぢ》にいでたち、既にいつもの歎《なげき》にかへれる多くの地に伏す魂をみたり 一四二―一四四
若しわが記憶に誤りなくば、いかなる疑ひもわがかの時の思ひのうちにありとみえしもののごとく大いなる軍《いくさ》を起して 一四五―
その解説《ときあかし》を我に求めしことあらじ、されどいそぎのためにはゞかりてこれを質《たゞ》さず、さりとて自から何事をも知るをえざれば ―一五〇
我は臆しつゝ思ひ沈みて歩みにき 一五一―一五三
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第二十一曲
サマーリアの女の乞ひ求めたる水を飮まではとゞまることなき自然の渇《かわき》に 一―三
なやまされ、かつは急《いそぎ》に策《むちう》たれつゝ、我わが導者に從ひて障《さゝはり》多き道を歩み、正しき刑罰を憐みゐたるに 四―六
見よ、はや墓窟《はかあな》より起き出でたまへるクリストが途をゆく二人《ふたり》の者に現はれしこと路加《ルーカ》の書《ふみ》に録《しる》さるゝごとく 七―九
一の魂我等にあらはる、我等かの伏したる群《むれ》を足元に見ゐたりしときこの者|後《うしろ》に來りしかど我等これを知らざりければ彼まづ語りて 一〇―一二
わが兄弟達よ、神平安を汝等に與へたまへといふ、我等直ちに身をめぐらしぬ、而してヴィルジリオは適《ふさ》はしき表示《しるし》をもてこれに答へて 一三―一五
後曰ひけるは。我を永遠《とこしへ》の流刑《るけい》に處せし眞《まこと》の法廷願はくは汝を福なる集會《つどひ》の中に入れ汝に平和を受けしめんことを。 一六―一八
そは如何《いかに》、汝等神に許されて登るをうる魂に非ずば誰に導かれてその段《きだ》をこゝまで踏みしや。彼かくいひ、いふ間《ま》も我等は疾《と》く行けり 一九―二一
わが師。この者天使の描く標《しるし》を着く、汝これを見ば汝は彼が善き民と共に治むるにいたるをさだかに知らむ 二二―二四
されど夜晝|紡《つむ》ぐ女神《めがみ》は、クロートが人各※[#二の字点、1−2−22]のために掛けかつ押固《おしかた》むる一|束《たば》を未だ彼のために繰《く》り終らざるがゆゑに 二五―二七
汝と我の姉妹なるその魂は登り來るにあたり獨りにて來る能はざりき、そは物を見ること我等と等しからざればなり 二八―三〇
是故に彼に路を示さんため我は曳《ひ》かれて地獄の闊《ひろ》き喉を出づ、またわが教《をし》への彼を導くをうる間は我彼に路を示さむ 三一―三三
然《され》ど汝若し知らば我等に告げよ、山今かの如く搖《ゆる》げるは何故ぞや、またその濡《ぬ》るゝ据に至るまで衆|齊《ひと》しく叫ぶと見えしは何故ぞや。 三四―三六
この問ひよくわが願ひの要《かなめ》にあたれり、されば望みをいだけるのみにてわが渇《かわき》はやうすらぎぬ 三七―三九
彼曰ふ。この山の聖なる律法《おきて》はすべて秩序なきことまたはその習ひにあらざることを容《ゆる》さず 四〇―四二
この地一切の變異をまぬかる、たゞその原因《もと》となるをうべきは天が自ら與へて自ら受くるところの者のみ、この外にはなし 四三―四五
是故に雨も雹も雪も露もまた霜も、かの三の段《きだ》より成れる短き階《きざはし》のこなたに落ちず 四六―四八
濃《こ》き雲も淡《うす》き雲も電光《いなづま》も、またかの世に屡※[#二の字点、1−2−22]處を變ふるタウマンテの女《むすめ》も現はれず 四九―五一
乾ける氣は、わがいへる三の段の頂、ピエートロの代理者がその足をおくところよりうへに登らず 五二―五四
かしこより下は或ひは幾許《いくばく》か震ひ動かむ、されど上は、我その次第を知らざれども、地にかくるゝ風のために震ひ動けることたえてなし 五五―五七
たゞ魂の中に己が清きを感ずる者ありて起《た》ちまたは昇らんとして進む時、この地震ひ、かのごとき喊《さけび》次ぐ 五八―六〇
清きことの證左《あかし》となるものは意志のみ、魂既に全く自由にその侶を變ふるをうるにいたればこの意志におそはれ且つこれを懷くを悦ぶ 六一―六三
意志はげに始めよりあり、されど願ひこれを許さず、こはさきに罪を求めし如く今神の義に從ひ意志にさからひて苛責を求むる願ひなり 六四―六六
我この苦患《なやみ》の中に伏すこと五百年餘に及びこゝにはじめてまされる里に到らんとの自由の望みをいだけるがゆゑに 六七―六九
汝地の震ふを覺え、また山の信心深き諸※[#二の字点、1−2−22]の靈の主(願はくは速かに彼等に登るをえさせたまへ)を讚《ほ》めまつるを聞けるなり。 七〇―七二
彼斯く我等にいへり、しかして渇《かわき》劇しければ飮むの喜び亦從ひて大いなるごとく、彼の言は我にいひがたき滿足を與へき 七三―七五
智《さと》き導者。汝等をこゝに捕ふる網、その解くる状《さま》、地のこゝに震ふ所以、汝等の倶に喜ぶところの物、我今皆これを知る 七六―七八
いざねがはくは汝の誰なりしやを我にしらしめ、また何故にこゝに伏してかく多くの代《よ》を經たるやを汝の詞にて我にあらはせ。 七九―八一
かの靈答へて曰ふ。いと高き王の助けをうけて善きティトがジユダの賣りし血流れ出たる傷の仇をむくいし頃 八二―
最も人にあがめられかつ長く殘る名をえて我ひろく世に知らる、されど未だ信仰なかりき ―八七
わが有聲《うせい》の靈の麗しければ我はトロサ人《びと》なるもローマに引かれ、かしこにミルトをもて額を飾るをうるにいたれり 八八―九〇
世の人わが名を今もスターツィオと呼ぶ、われテーべを歌ひ、後また大いなるアキルレをうたへり、されど第二の荷を負ひて路に倒れぬ 九一―九三
さてわが情熱の種は、千餘の心を燃やすにいたれるかの聖なる焔よりいでて我をあたゝめし火花なりき 九四―九六
わがかくいふは「エーネイダ」の事なり、こは我には母なりき詩の乳母《めのと》なりき、これなくば豈我に一ドラムマの重《おもさ》あらんや 九七―九九
我若しヴィルジリオと代《よ》を同じうするをえたらんには、わが流罪《るざい》の期《とき》滿つること一年《ひととせ》後《おく》るゝともいとはざらんに。 一〇〇―一〇二
これらの詞を聞きてヴィルジリオ我にむかひ聲なき顏にて默《もだ》せといへり、されど意志は萬事《よろづのこと》を爲しがたし 一〇三―一〇五
そは笑《ゑみ》も涙もまづその源なる情に從ひ、その人いよ/\誠實なればいよ/\意志に背けばなり 一〇六―一〇八
我たゞ微笑《ほゝゑ》めるのみ、されどその状《さま》※[#「目+旬」、第3水準1−88−80]《めくばせ》する人に似たれば、かの魂口を噤み、心のいとよくあらはるゝ處なる目を見て 一〇九―一一一
いふ。願はくは汝|幸《さいはひ》の中にかく大いなる勞苦を終《を》ふるをえんことを、汝の顏今|笑《ゑみ》の閃《ひらめき》を我に見せしは何故ぞや。 一一二―一一四
我今左右に檢束をうく、かなたは我に默《もだ》せといひ、こなたは我にいへと命ず、是に於てか大息すれば 一一五―
わが師さとりて我に曰ふ。汝語るをおそるゝなかれ、語りて彼にそのかく心をこめて尋ぬるところの事を告ぐべし。 ―一二〇
是に於てか我。年へし靈よ、思ふに汝はわがほゝゑめるをあやしむならむ、されど我汝の驚きをさらに大いならしめんとす 一二一―一二三
わが目を導いて高きに到らしむるこの者こそは、かのヴィルジリオ、人と神々をうたふにあたりて汝に力を與へし者なれ 一二四―一二六
若しわが笑《ゑみ》の原因《も
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