一一
「わが心の中にものいふ戀は」と彼はこのときうたひいづるに、そのうるはしさ今猶耳に殘るばかりに妙《たへ》なりき 一一二―一一四
わが師も我も彼と共にありし民等もみないたくよろこびて、ほかに心に觸るゝもの一だになきごとくみゆ 一一五―一一七
我等すべてとゞまりて心を歌にとめゐたるに、見よ、かのけだかき翁さけびていふ。何事ぞ遲《おそ》き魂等よ 一一八―一二〇
何等の怠慢《おこたり》ぞ、何ぞかくとゞまるや、走《わし》りて山にゆきて穢《けがれ》を去れ、さらずば神汝等にあらはれたまはじ。 一二一―一二三
たとへば食をあさりてつどへる鳩の、聲もいださず、その習ひなる誇《ほこり》もみせで、麥や莠《はぐさ》の實を拾ふとき 一二四―一二六
おそるゝもののあらはるゝあれば、さきにもまさる願ひに攻められ、忽ち食を棄て去るごとく 一二七―一二九
かの新しき群《むれ》歌を棄て、山坂にむかひてゆきぬ、そのさま行けども行方《ゆくへ》をしらざる人に似たりき 一三〇―一三二
我等もまたこれにおくれずいでたてり 一三三―一三五
[#改ページ]

   第三曲

彼等忽ち馳せ、廣野《ひろの》をわけて散り、理性に促《うな
前へ 次へ
全396ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ダンテ アリギエリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング