詞はマリアの名なりき、われこゝに倒れ、殘れるものはたゞわが肉のみ 一〇〇―一〇二
われ眞《まこと》を汝に告げむ、汝これを生者《しやうじや》に傳へよ、神の使者《つかひ》我を取れるに地獄の使者よばはりて、天に屬する者よ 一〇三―
汝何ぞ我物を奪ふや、唯一|滴《しづく》の涙の爲に彼我を離れ、汝彼の不朽の物を持行くとも我はその殘りをばわが心のまゝにあしらはんといふ ―一〇八
濕氣空に集りて昇り、冷えて凝る處にいたれば、直ちに水にかへること、汝のさだかに知るごとし 一〇九―一一一
さてかの者たゞ惡をのみ圖る惡意を智に加へ、その性《さが》よりうけし力によりて霧と風とを動かせり 一一二―一一四
かくて日暮れしとき、プラートマーニオよりかの大いなる連山にいたるまで、彼霧をもて溪を蔽ひ、上なる天を包ましむれば 一一五―一一七
密雲變じて水となり、雨|降《ふ》りぬ、その地に吸はれざるものみな狹間《はざま》に入れ 一一八―一二〇
やがて多くの大いなる流れと合し、たふとき川に向ひて下るに、その馳することいとはやくして、何物もこれをひきとむをえざりき 一二一―一二三
たくましきアルキアーンははや強直《こはばり》しわが體をその口のあたりに見てこれをアルノに押流し、わが苦しみにたへかねしとき 一二四―
身をもて造れる十字架を胸の上より解き放ち、岸に沿ひまた底に沿ひて我を轉《まろ》ばし、遂に己が獲物《えもの》をもて我を被ひ且つ卷けり。 ―一二九
この時第三の靈第二の靈に續いて曰ふ。あゝ汝世に歸りて遠き族程《たびぢ》の疲れより身を休めなば 一三〇―一三二
われピーアを憶へ、シエーナ我を造りマレムマ我を毀《こぼ》てるなり、こは縁《えにし》の結ばるゝころまづ珠の指輪をば 一三三―一三五
我に與へしものぞしるなる 一三六―一三八
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第六曲
ヅァーラの遊戲《あそび》果つるとき、敗者《まくるもの》は悲しみて殘りつゝ、くりかへし投げて憂ひの中に學び 一―三
人々は皆|勝者《かつもの》とともに去り、ひとり前《まへ》に行きひとり後《うしろ》よりこれを控《ひか》へひとり傍《かたへ》よりこれに己を憶はしむるに 四―六
かの者止まらず、彼に此に耳を傾け、また手を伸べて與ふればその人再び迫らざるがゆゑに、かくして身をまもりて推合《おしあ》ふことを避《さ》く 七―九
我亦斯の如く、かのこみあへる群《むれ》の中にてかなたこなたにわが顏をめぐらし、約束をもてその絆《きづな》を絶てり 一〇―一二
こゝにはアレッツオ人《びと》にてギーン・ディ・タッコの猛《たけ》き腕《かひな》に死せるもの及び追ひて走りつゝ水に溺れし者ゐたり 一三―一五
こゝにはフェデリーゴ・ノヴェルロ手を伸べて乞ひ、善きマルヅッコにその強きをあらはさしめしピサの者またしかなせり 一六―一八
我は伯爵《コンテ》オルソを見き、また自らいへるごとく犯せる罪の爲にはあらで怨みと嫉みの爲に己が體《からだ》より分たれし魂を見き 一九―二一
こはピエール・ダ・ラ・ブロッチアの事なり、ブラバンテの淑女はこれがためこれより惡しき群《むれ》の中に入らざるやう世に在る間に心構《こゝろがまへ》せよ 二二―二四
さてすべてこれ等の魂即ちはやくその罪を淨むるをえんとてたゞ人の祈らんことを祈れる者を離れしとき 二五―二七
我曰ひけるは。あゝわが光よ、汝はあきらかに詩の中にて、祈りが天の定《さだめ》を枉ぐるを否むに似たり 二八―三〇
しかしてこの民これをのみ請ふ、さらば彼等の望み空なるか、さらずば我よく汝の言《ことば》をさとらざるか。 三一―三三
彼我に。健《すこやか》なる心をもてよくこの事を思ひみよ、わが筆|解《げ》し易く、彼等の望み徒《あだ》ならじ 三四―三六
そは愛の火たとひこゝにおかるゝもののたらはすべきことをたゞしばしのまに滿すとも、審判《さばき》の頂垂れざればなり 三七―三九
またわがこの理《ことわり》を陳べし處にては、祈り、神より離れしがゆゑに、祈れど虧處《おちど》補はれざりき 四〇―四二
されどかく奧深き疑ひについては、眞《まこと》と智《さとり》の間の光となるべき淑女汝に告ぐるにあらずば心を定むることなかれ 四三―四五
汝さとれるや否や、わがいへるはベアトリーチェのことなり、汝はこの山の巓《いただき》に、福《さいはひ》にしてほゝゑめる彼の姿をみるをえむ。 四六―四八
我。主よいそぎてゆかむ、今は我さきのごとく疲れを覺えず、また山のはやその陰を投ぐるをみよ。 四九―五一
答へて曰ふ。我等は日のある間に、我等の進むをうるかぎりすゝまむ、されど事汝の思ふところと違ふ 五二―五四
いまだ巓にいたらざるまに、汝は今山腹にかくれて汝のためにその光を碎かれざる物また歸り來るを見む 五五―五七
されど見よ、かしこにたゞひとりゐて我等の
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