とりと、碎けし光とを目守《まも》るをみたり 七―九
師曰ふ。汝何ぞ心ひかれて行くことおそきや、彼等の私語《さゝやき》汝と何の係《かゝはり》あらんや 一〇―一二
我につきて來れ、斯民《このたみ》をその言ふに任《まか》せよ、風吹くとも頂《いただき》搖《ゆる》がざるつよき櫓《やぐら》の如く立つべし 一三―一五
そは思ひ湧き出でて思ひに加はることあれば、後の思ひ先の思ひの力をよわめ、人その目的《めあて》に遠ざかる習ひなればなり。 一六―一八
我行かんといふの外また何の答へかあるべき、人にしば/\赦《ゆるし》をえしむる色をうかめてわれ斯くいへり 一九―二一
かゝる間に、山の腰にそひ、横方《よこあひ》より、かはる/″\憐れみたまへ[#「憐れみたまへ」に白丸傍点]を歌ひつゝ、我等のすこしく前に來れる民ありき 二二―二四
彼等光のわが身に遮《さへぎ》らるゝをみしとき、そのうたへる歌を長き嗄れたるあゝに變へたり 二五―二七
しかしてそのうちより使者《つかひ》とみゆるものふたり、こなたにはせ來り、我等にこひていふ。汝等いかなるものなりや我等に告げよ。 二八―三〇
わが師。汝等たちかへり、汝等を遣はせるものに告げて、彼の身は眞《まこと》の肉なりといへ 三一―三三
若しわが量《はか》るごとく、彼の影を見て彼等止まれるならば、この答へにて足る、彼等に彼をあがめしめよ、さらば彼等益をえむ。 三四―三六
夜の始めに澄渡る空《そら》を裂き、または日の落つるころ葉月《はづき》の叢雲《むらくも》を裂く光といふとも、そのはやさ 三七―三九
かなたに歸りゆきし彼等には及ばじ、さてかしこに着くや彼等は殘れる者とともに恰も力のかぎり走る群《むれ》の如く足をこなたに轉《めぐ》らせり 四〇―四二
詩人曰ふ。我等に押寄する民|數《かず》多し、彼等汝に請はんとて來る、されど汝止まることなく、行きつゝ耳をかたむけよ。 四三―四五
彼等來りよばはりていふ。あゝ幸《さいはひ》ならんため生れながらの身と倶に行く魂よ、しばらく汝の歩履《あゆみ》を停《とゞ》めよ 四六―四八
我等の中に汝嘗て見しによりてその消息《おとづれ》を世に傳ふるをうる者あるか、噫《あゝ》何すれぞ過行くや、汝何すれぞ止まらざるや 四九―五一
我等は皆そのかみ横死を遂げし者なり、しかして臨終《いまは》にいたるまで罪人《つみびと》なりしが、この時天の光我等をいましめ 五二―五四
我等は悔いつゝ赦しつゝ、神即ち彼を見るの願ひをもて我等の心をはげますものと和《やは》らぎて世を去れるなり。 五五―五七
我。われよく汝等の顏をみれども、一だにしれるはなし、されど汝等の心に適《かな》ひわが爲すをうる事あらば、良日《よきひ》の下《もと》に生れし靈よ 五八―六〇
汝等いへ、さらば我は、かゝる導者にしたがひて世より世にわが求めゆく平和を指してこれをなすべし。 六一―六三
一者《ひとり》曰ふ。汝誓はずとも我等みな汝の助けを疑はず、もし力及ばざるため意斷たるることなくば 六四―六六
この故に我まづひとりいひいでて汝に請ふ、汝ローマニアとカルロの國の間の國をみるをえば 六七―六九
汝の厚き志により、わがためにファーノの人々に請ひてよき祈りをささげしめ、我をしてわが重き罪を淨むるをえしめよ 七〇―七二
我はかしこの者なりき、されど我の宿れる血の流れいでし重傷《ふかで》をばわれアンテノリの懷《ふところ》に負へり 七三―七五
こはわがいと安全《やすらか》なるべしとおもへる處なりしを、エスティの者、正義の求むる範圍《かぎり》を超えて我を怨みこの事あるにいたれるなり 七六―七八
されどオリアーコにて追ひ及《し》かるゝとき、若しはやくラ・ミーラの方《かた》に逃げたらんには、我は息通《いきかよ》ふかなたに今もありしなるべし 七九―八一
われ澤に走りゆき、葦《あし》と泥《ひぢ》とにからまりて倒れ、こゝにわが血筋《ちすぢ》の地上につくれる湖《うみ》を見ぬ。 八二―八四
この時また一者《ひとり》いふ。あゝねがはくは汝を引きてこの高山《たかやま》に來らしむる汝の願ひ成就せんことを、汝善き憐《あはれみ》をもてわが願ひをたすけよ 八五―八七
我はモンテフェルトロの者なりき我はボンコンテなり、ジヨヴァンナも誰もわが事を思はず、此故にわれ顏を垂れて此等の者と倶に行く。 八八―九〇
我彼に。汝の墓の知られざるまで、カムパルディーノより汝を遠く離れしめしは、そも/\何の力何の運ぞや。 九一―九三
彼答ふらく。あゝカセンティーノの麓に、横さまに流るゝ水あり、隱家《かくれが》の上なるアペンニノより出で、名をアルキアーノといふ 九四―九六
われ喉を刺されし後、徒《かち》にて逃げつゝ野を血に染めて、かの流れの名消ゆる處に着けり 九七―九九
わが目こゝに見えずなりぬ、わが終焉《をはり》の
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