もこの類《たぐひ》なるべし ―一一一
かくて彼等はあたかも迷ひ覺めしごとく去り、我等はかく多くの請《こひ》と涙を卻《しりぞ》くる巨樹《おほき》のもとにたゞちにいたれり 一一二―一一四
汝等過ぎゆきて近づくなかれ、エーヴァのくらへる木この上にあり、これはもとかの樹よりいづ。 一一五―一一七
誰ならむ小枝の間よりかくいふ者ありければ、ヴィルジリオとスターツィオと我とは互ひに近く身を寄せつゝ聳ゆる岸の邊《ほとり》を行けり 一一八―一二〇
かの者またいふ。雲間に生れし詛《のろひ》の子等即ち飽いてその二重《ふたへ》の腰をもてテゼオと爭へる者を憶へ 一二一―一二三
また貪り飮みしため、マディアンにむかひて山を下れるゼデオンがその侶となさざりし希伯來人《エブレオびと》を憶へ。 一二四―一二六
かく我等は二の縁《へり》の一を傳ひて、幸《さち》なき報《むくい》のともなへる多食の罪の事をきゝつゝこゝを過ぎ 一二七―一二九
後身を寛《ゆるやか》にしてさびしき路を行き、いづれも言葉なく思ひに沈みて裕《ゆたか》に千餘の歩履《あゆみ》をはこべり 一三〇―一三二
汝等何ぞたゞみたり行きつゝかく物を思ふや。ふと斯くいへる聲ありき、是に於てか我は恰もおぢおそるゝ獸の如く顫《ふる》ひ 一三三―一三五
その誰なるやを見んとて首《かうべ》を擧ぐればひとりの者みゆ、爐の中なる玻璃または金屬《かね》といふとも斯く光り 一三六―
かく赤くみゆるはあらじ、彼曰ふ。汝等登らんことをねがはばこゝより折れよ、往いて平和をえんとする者みなこなたにむかふ。 ―一四一
彼の姿わが目の力を奪へるため、我は身をめぐらして、あたかも耳に導かるゝ人の如く、わがふたりの師の後《うしろ》にいたれり 一四二―一四四
曉告ぐる五月の輕風《そよかぜ》ゆたかに草と花とを含み、動きて佳《よ》き香《か》を放つごとくに 一四五―一四七
うるはしき風わが額の正中《たゞなか》にあたれり、我は神饌《アムプロージャ》の匂《にほ》ひを我に知らしめし羽の動くをさだかにしれり 一四八―一五〇
また聲ありていふ。大いなる恩惠《めぐみ》に照され、味《あぢはひ》の愛飽くなき慾を胸に燃やさず常に宜《よろ》しきに從ひて饑うる者は福《さいはひ》なり。 一五一―一五三
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   第二十五曲

時は昇《のぼり》の遲きを許さず、そは子午線を日は金牛に夜は天蠍にはや付《わた》したればなり 一―三
さればあたかも必要の鞭《むち》にむちうたるゝ人、いかなる物あらはるゝとも止まらずしてその路を行くごとく 四―六
我等はひとりづつ徑《こみち》に入りて階《きざはし》を登れり(階狹きため昇る者並び行くをえず) 七―九
たとへば鸛《こうづる》の雛、飛ぶをねがひて翼をあぐれど、巣を離るゝの勇なくして再びこれを收むるごとく 一〇―一二
わが問はんと欲する願ひ燃えてまた消え、我はたゞいひいださんと構ふる者の状《さま》をなすに過ぎざりき 一三―一五
歩《あゆみ》速かなりしかどもわがなつかしき父は默《もだ》さで、汝|鏃《やじり》までひきしぼれる言《ことば》の弓を射よといふ 一六―一八
この時我これにはげまされ、口を啓きていふ。滋養《やしなひ》をうくるに及ばざるものいかにして痩するを得るや。 一九―二一
彼曰ふ。汝若しメレアグロの身が、炬火《たいまつ》の燃え盡くるにつれて盡きたるさまを憶ひ出でなば、この事故にさとりがたきにあらざるべく 二二―二四
また鏡に映《うつ》る汝等の姿が、汝等の動くにつれて動くを思はば、今硬くみゆるもの汝に軟かにみゆるにいたらむ 二五―二七
されど汝望むがまゝに心を安んずることをえんため、見よ、こゝにスターツィオあり、我彼を呼び彼に請ひて汝の傷を癒さしむべし。 二八―三〇
スターツィオ答ふらく。我この常世《とこよ》の状態《ありさま》を汝のをる處にて彼に説明《ときあか》すとも、こは汝の請《こひ》をわが否む能はざるが爲なれば咎むるなかれ。 三一―三三
かくてまたいふ。子よ、汝の心わが詞を見てこれを受けなば、これは即ち汝の質《たゞ》す疑ひを照す光とならむ 三四―三六
それ血の完全にして、渇ける脈に吸はるゝことなく、あたかも食卓《つくゑ》よりはこびさらるゝ食物《くひもの》のごとく殘るもの 三七―三九
人の諸※[#二の字点、1−2−22]の肢體を營む力をば心臟の中に得《う》、これ此等の物とならんため脈を傳ひて出づるにいたるものなればなり 四〇―四二
いよ/\清くなるに及びて、この血は人のいふを憚かる處にくだり、後又そこより自然の器《うつは》の中なる異なる血の上にしたゝり 四三―四五
二の血こゝに相合ふ、その一には堪ふる性《さが》あり、また一にはその出づる處全きがゆゑに行ふ性あり 四六―四八
此《これ》彼と結びてはたらき、まづ凝固《こりかた》ま
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