れ》し顏は 一九―二一
かつて聖なる寺院を抱けり、彼はトルソの者なりき、いま斷食によりてボルセーナの鰻《うなぎ》とヴェルナッチヤを淨む。 二二―二四
その他《ほか》多くの者の名を彼一々我に告ぐるに、彼等皆名をいはるゝを厭はじとみえ、その一者《ひとり》だに憂《う》き状《さま》をなすはあらざりき 二五―二七
我はウバルディーン・デラ・ピーラと、杖にて多くの民を牧せしボニファーチョとが、饑ゑの爲に空しくその齒を動かすを見たり 二八―三〇
我はメッセル・マルケーゼを見たり、この者フォルリにありし頃はかく劇しき渇《かわき》なく且つ飮むに便宜《たより》多かりしかどなほ飽く事を知らざりき 三一―三三
されど恰も見てその中よりひとりを擇ぶ人の如く我はルッカの者をえらびぬ、彼我の事を知るを最《いと》希ふさまなりければ 三四―三六
彼はさゝやけり、我は彼がかく彼等を痩せしむる正義の苦痛《いたみ》を感ずるところにてゼントゥッカといふを聞きし如くなりき 三七―三九
我曰ふ。あゝかく深く我と語るを望むに似たる魂よ、請ふ汝のいへることを我にさとらせ、汝の言葉をもて汝と我の願ひを滿たせよ。 四〇―四二
彼曰ふ。女生れていまだ首※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《かしらぎぬ》を被《かづ》かず、この者わが邑《まち》を、人いかに誹るとも、汝の心に適《かな》はせむ 四三―四五
汝この豫言を忘るゝなかれ、もしわが低語《さゝやき》汝の誤解を招けるならば、この後まことの事汝にこれをときあかすべし 四六―四八
されど告げよ、かの新しき詩を起し、戀を知る淑女等とそのはじめにいへる者是即ち汝なりや。 四九―五一
我彼に。愛我を動かせば我これに意を留めてそのわが衷《うち》に口授《くじゆ》するごとくうたひいづ。 五二―五四
彼曰ふ。あゝ兄弟よ、我今かの公《おほやけ》の證人《あかしびと》とグイットネと我とをわが聞く麗はしき新しき調《しらべ》のこなたにつなぐ節《ふし》をみる 五五―五七
我よく汝等の筆が口授者《くじゆしや》にちかく附隨《つきしたが》ひて進むをみる、われらの筆にはげにこの事あらざりき 五八―六〇
またなほ遠く先を見んとつとむる者も彼と此との調《しらべ》の區別《けぢめ》をこの外にはみじ。かくいひて心足れるごとく默《もだ》しぬ 六一―六三
ニーロの邊《ほとり》に冬籠《ふゆごも》る鳥、空に群《むらが》り集《つど》ひて後、なほも速かに飛ばんため達《つらな》り行くことあるごとく 六四―六六
その痩すると願ひあるによりて身輕きかしこの民は、みな首《かうべ》をめぐらしつゝふたゝびその歩履《あゆみ》をはやめぬ 六七―六九
また走りて疲れたる人その侶におくれ、ひとり歩みて腰の喘《あへぎ》のしづまる時を待つごとく 七〇―七二
フォレーゼは聖なる群《むれ》をさきにゆかしめ、我とともにあとより來りていひけるは。我の再び汝に會ふをうるは何時《いつ》ぞや。 七三―七五
我彼に答ふらく。いつまで生くるや我知らず、されどわが歸ること早しとも、我わが願ひの中に、それよりはやくこの岸に到らむ 七六―七八
そはわが郷土《ふるさと》となりたる處は、日に日に自ら善を失ひ、そのいたましく荒るゝことはや定まれりとみゆればなり。 七九―八一
彼曰ふ。いざ行け、我見るに、この禍ひに關《かゝ》はりて罪の最も大いなるもの、一の獸の尾の下《もと》にて曳かれ、罪赦さるゝ例《ためし》なき溪にむかふ 八二―八四
獸はたえずはやさを増しつゝ一足毎にとくすゝみ、遂に彼を踏み碎きてその恥づべき躯《むくろ》を棄つ 八五―八七
これらの輪未だ長く※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》らざるまに(かくいひて目を天にむく)、わが言《ことば》のなほよく説明《ときあか》す能はざるもの汝に明《あきらか》なるにいたらむ 八八―九〇
いざ汝あとに殘れ、この王國にては時いと尊し、汝と斯く相並びてゆかば、わが失ふところ多きに過ぎむ。 九一―九三
たとへば先登《さきがけ》の譽をえんとて、馬上の群《むれ》の中より一人《ひとり》の騎士、馳せ出づることあるごとく 九四―九六
彼足をはやめて我等を離れ、我は世の大いなる軍帥《ぐんすゐ》なりし二者《ふたり》とともに路に殘れり 九七―九九
彼既に我等の前を去ること遠く、わが目の彼に伴ふさま、わが心の彼の詞にともなふごとくなりしとき 一〇〇―一〇二
いま一|本《もと》の樹の、果《み》饒《ゆたか》にして盛なる枝我にあらはる、また我この時はじめてかなたにめぐれるなればその處甚だ遠からざりき 一〇三―一〇五
我見しに民その下にて手を伸べつゝ葉にむかひて何事をかよばはりゐたり、罪なき嬰兒《をさなご》物を求めて 一〇六―
乞へども乞はるゝ人答へず、かへつて願ひを増さしめんためその乞ふ物をかくさずして高く擡《もた》ぐる
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