四―三六
我若し汝が恰も人の性を憤るごとくさけびて、あゝ黄金《わうごん》の不淨の饑ゑよ汝人慾を導いていづこにか到らざらんと 三七―
いへる處に心をとめ、わが思ひを正さざりせば、今は轉《まろ》ばしつゝ憂《う》き牴觸を感ずるものを ―四二
かの時我は費《つひや》すにあたりて手のあまりにひろく翼を伸ぶるをうるを知り、これを悔ゆること他《ほか》の罪の如くなりき 四三―四五
それ無智のために生くる間も死に臨みてもこの罪を悔ゆるあたはず、後《のち》髮を削りて起き出づるにいたる者その數いくばくぞ 四六―四八
汝また知るべし、一の罪とともに、まさしくこれと相反する咎、その縁《みどり》をこゝに涸《か》らすを 四九―五一
是故にわれ罪を淨めんとてかの貪婪《むさぼり》のために歎く民の間にありきとも、これと反する愆《とが》のゆゑにこそこの事我に臨めるなれ。 五二―五四
牧歌の歌人いひけるは。汝ヨカスタの二重《ふたへ》の憂ひの酷《むご》き爭ひを歌へるころは 五五―五七
クリオがこの詩に汝と關渉《かゝりあ》ふさまをみるに、善行《よきおこなひ》にかくべからざる信仰未だ汝を信ある者となさざりしに似たり 五八―六〇
若し夫れ然らばいかなる日またはいかなる燭《ともしび》ぞや、汝がその後かの漁者に從ひて帆を揚ぐるにいたれるばかりに汝の闇を破りしは。 六一―六三
彼曰ふ。汝まづ我をパルナーゾの方《かた》にみちびきてその窟《いはや》に水を掬《むす》ぶをえしめ、後また我を照して神のみもとに向はしめたり 六四―六六
汝の爲すところはあたかも夜|燈火《ともしび》を己が後《うしろ》に携へてゆき、自ら益を得ざれどもあとなる人々をさとくする者に似たりき 六七―六九
そは汝のいへる詞に、世改まり義と人の古歸り新しき族《やから》天より降るとあればなり 七〇―七二
我は汝によりて詩人となり汝によりて基督教徒《クリスティアーノ》となれり、されどわが概略《おほよそ》に畫《ゑが》ける物を尚良く汝に現はさんため我今手を伸《の》べて彩色《いろど》らん 七三―七五
眞《まこと》の信仰は永久《とこしへ》の國の使者等《つかひたち》に播かれてすでにあまねく世に滿ちたりしに 七六―七八
わが今引ける汝の言《ことば》、新しき道を傳ふる者とその調《しらべ》を同じうせしかば、彼等を訪《おとづ》るることわが習ひとなり 七九―八一
かのドミチアーンが彼等を責めなやまししとき、わが涙彼等の歎《なげき》にともなふばかりに我は彼等を聖なる者と思ふにいたれり 八二―八四
われは世に在る間彼等をたすけぬ、彼等の正しき習俗《ならはし》は我をして他《ほか》の教へをあなどらしめぬ 八五―八七
かくてわが詩にギリシア人《びと》を導きてテーべの流れに到らざるさきにわれ洗禮《バッテスモ》をうけしかど、公《おほやけ》の基督教徒《クリスティアーン》となるをおそれて 八八―九〇
久しく異教の下《もと》にかくれぬ、この微温《ぬるみ》なりき我に四百年餘の間第四の圈をめぐらしめしは 九一―九三
されば汝、かゝる幸《さいはひ》をかくしし葢をわがためにひらける者よ、若し知らば、我等が倶に登るをうべき道ある間に、我等の年へし 九四―
テレンツィオ、チェチリオ、プラウト及びヴァリオの何處《いづこ》にあるやを我に告げよ、告げよ彼等罪せらるゝや、そは何の地方に於てぞや。 ―九九
わが導者答ふらく。彼等もペルシオも我もその他の多くの者も、かのムーゼより最も多く乳を吸ひしギリシア人《びと》とともに 一〇〇―一〇二
無明《むみやう》の獄《ひとや》の第一の輪の中にあり、我等は我等の乳母《めのと》等の常にとゞまる山のことをしばしばかたる 一〇三―一〇五
エウリピデ、アンティフォンテ、シモニーデ、アガートネそのほかそのかみ桂樹《ラウロ》をもて額を飾れる多くのギリシア人かしこに我等と倶にあり 一〇六―一〇八
汝が歌へる人々の中《うち》にては、アンティゴネ、デイフィレ、アルジア及び昔の如く悲しむイスメーネあり 一〇九―一一一
ランジアを示せる女あり、ティレジアの女《むすめ》とテーティ、デイダーミアとその姉妹等あり。 一一二―一一四
登りをはりて壁を離れしふたりの詩人は、ふたゝびあたりを見ることに心ひかれて今ともに默《もだ》し 一一五―一一七
晝の四人《よたり》の侍婢《はしため》ははやあとに殘されて、第五の侍婢|轅《ながえ》のもとにその燃ゆる尖《さき》をばたえず上げゐたり 一一八―一二〇
このときわが導者。思ふに我等は右の肩を縁《ふち》にむけ、山を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》ること常の如くにせざるをえざらむ。 一二一―一二三
習慣《ならはし》はかしこにてかく我等の導《しるべ》となれり、しかしてかの貴き魂の肯《うけが》へるため我等いよいよ疑はずして路に就けり
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