一二四―一二六
彼等はさきに我ひとり後《あと》よりゆけり、我は彼等のかたる言葉に耳を傾け、詩作についての教へをきくをえたりしかど 一二七―一二九
このうるはしき物語たゞちにやみぬ、そは我等路の中央《たゞなか》に、香《にほひ》やはらかくして良き果《み》ある一本《ひともと》の木を見たればなり 一三〇―一三二
あたかも樅《もみ》の、枝また枝と高きに從つて細きが如く、かの木は思ふに人の登らざるためなるべし、低きに從つて細かりき 一三三―一三五
われらの路の塞がれる方《かた》にては、清き水高き岩より落ちて葉の上にのみちらばれり 一三六―一三八
ふたりの詩人樹にちかづけるに、一の聲葉の中よりさけびていふ。汝等はこの食物《くひもの》に事缺かむ。 一三九―一四一
又曰ふ。マリアは己が口(今汝等のために物言ふ)の事よりも、婚筵のたふとくして全からむことをおもへり 一四二―一四四
昔のローマの女等はその飮料《のみもの》に水を用ゐ、またダニエルロは食物《くひもの》をいやしみて知識をえたり 一四五―一四七
古《いにしへ》の代《よ》は黄金《こがね》の如く美しかりき、饑ゑて橡《つるばみ》を味《あぢ》よくし、渇きて小川を聖酒《ネッタレ》となす 一四八―一五〇
蜜と蝗蟲《いなご》とはかの洗禮者《バテイスタ》を曠野《あらの》にやしなへる糧《かて》なりき、是故に彼榮え、その大いなること 一五一―一五三
聖史の中にあらはるゝごとし。 一五四―一五六
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第二十三曲
我はあたかも小鳥を逐ひて空しく日を送る者の爲すごとくかの青葉に目をとめゐたれば 一―三
父にまさる者いひけるは。子よ、いざ來れ、我等は定まれる時をわかちて善く用ゐざるをえざればなり。 四―六
われ目と歩《あゆみ》を齊《ひと》しく移して聖達《ひじりたち》に從ひ、その語ることを聞きつゝ行けども疲れをおぼえざりしに 七―九
見よ、歎《なげき》と歌ときこえぬ、主よわが唇を[#「主よわが唇を」に白丸傍点]と唱ふるさま喜びとともに憂ひを生めり 一〇―一二
あゝやさしき父よ、我にきこゆるものは何ぞや。我斯くいへるに彼。こは魂なり、おそらくは行きつゝその負債《おひめ》の纈《むすび》を解くならむ。 一三―一五
たとへば物思ふ異郷の族人《たびびと》、路にて知らざる人々に追及《おひし》き、ふりむきてこれをみれども、その足をとゞめざるごとく 一六―一八
信心深き魂の一|群《むれ》、もだしつゝ、我等よりもはやく歩みて後方《うしろ》より來り、過ぎ行かんとして我等を目安《まも》れり 一九―二一
彼等はいづれも眼《まなこ》窪みて光なく、顏あをざめ、その皮《かは》骨の形をあらはすほどに痩せゐたり 二二―二四
思ふに饑《う》ゑを恐るゝこといと大いなりしときのエリシトネといふともそのためにかく枯れて皮ばかりとはならざりしならむ 二五―二七
我わが心の中にいふ。マリアその子を啄《ついば》みしときイエルサレムを失へる民を見よ。 二八―三〇
眼窩《めあな》は珠《たま》なき指輪に似たりき、OMO《オモ》を人の顏に讀む者M《エムメ》をさだかに認めしなるべし 三一―三三
若しその由來を知らずば誰か信ぜん、果實《このみ》と水の香《かをり》、劇しき慾を生みて、かく力をあらはさんとは 三四―三六
彼等の痩すると膚《はだ》いたはしく荒るゝ原因《もと》未だ明《あきら》かならざりしため、その何故にかく饑ゑしやを我今|異《あや》しみゐたりしに 三七―三九
見よ、一の魂、頭《かうべ》の深處《ふかみ》より目を我にむけてつら/\視、かくて高くさけびて、こはわがためにいかなる恩惠《めぐみ》ぞやといふ 四〇―四二
我何ぞ顏を見て彼の誰なるを知るをえむ、されどその姿の毀てるものその聲にあらはれき 四三―四五
この火花はかの變れる貌《かたち》にかゝはるわが凡ての記憶を燃やし、我はフォレーゼの顏をみとめぬ 四六―四八
彼請ひていふ。あゝ、乾ける痂《かさぶた》わが膚《はだ》の色を奪ひ、またわが肉乏しとも、汝これに心をとめず 四九―五一
故に汝の身の上と汝を導くかしこの二の魂の誰なるやを告げよ、我に物言ふを否むなかれ。 五二―五四
我答へて彼に曰ふ。死《しに》てさきに我に涙を流さしめし汝の顏は、かく變りて見ゆるため、かの時に劣らぬ憂ひを今我に與へて泣かしむ 五五―五七
然《され》ば告げよ、われ神を指《さ》して請ふ、汝等をかく枯《か》らす物は何ぞや、わが異《あやし》む間我に言《い》はしむる勿れ、心に他《ほか》の思ひ滿つればその人いふ事|宜《よろ》しきをえず。 五八―六〇
彼我に。永遠《とこしへ》の思量《はからひ》によりて我等の後方《うしろ》なるかの水の中樹の中に力くだる、わがかく痩するもこれがためなり 六一―六三
己が食慾に耽れるため泣きつゝ歌ふこの民はみな饑ゑ渇
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