七九―八一
かの靈答へて曰ふ。いと高き王の助けをうけて善きティトがジユダの賣りし血流れ出たる傷の仇をむくいし頃 八二―
最も人にあがめられかつ長く殘る名をえて我ひろく世に知らる、されど未だ信仰なかりき ―八七
わが有聲《うせい》の靈の麗しければ我はトロサ人《びと》なるもローマに引かれ、かしこにミルトをもて額を飾るをうるにいたれり 八八―九〇
世の人わが名を今もスターツィオと呼ぶ、われテーべを歌ひ、後また大いなるアキルレをうたへり、されど第二の荷を負ひて路に倒れぬ 九一―九三
さてわが情熱の種は、千餘の心を燃やすにいたれるかの聖なる焔よりいでて我をあたゝめし火花なりき 九四―九六
わがかくいふは「エーネイダ」の事なり、こは我には母なりき詩の乳母《めのと》なりき、これなくば豈我に一ドラムマの重《おもさ》あらんや 九七―九九
我若しヴィルジリオと代《よ》を同じうするをえたらんには、わが流罪《るざい》の期《とき》滿つること一年《ひととせ》後《おく》るゝともいとはざらんに。 一〇〇―一〇二
これらの詞を聞きてヴィルジリオ我にむかひ聲なき顏にて默《もだ》せといへり、されど意志は萬事《よろづのこと》を爲しがたし 一〇三―一〇五
そは笑《ゑみ》も涙もまづその源なる情に從ひ、その人いよ/\誠實なればいよ/\意志に背けばなり 一〇六―一〇八
我たゞ微笑《ほゝゑ》めるのみ、されどその状《さま》※[#「目+旬」、第3水準1−88−80]《めくばせ》する人に似たれば、かの魂口を噤み、心のいとよくあらはるゝ處なる目を見て 一〇九―一一一
いふ。願はくは汝|幸《さいはひ》の中にかく大いなる勞苦を終《を》ふるをえんことを、汝の顏今|笑《ゑみ》の閃《ひらめき》を我に見せしは何故ぞや。 一一二―一一四
我今左右に檢束をうく、かなたは我に默《もだ》せといひ、こなたは我にいへと命ず、是に於てか大息すれば 一一五―
わが師さとりて我に曰ふ。汝語るをおそるゝなかれ、語りて彼にそのかく心をこめて尋ぬるところの事を告ぐべし。 ―一二〇
是に於てか我。年へし靈よ、思ふに汝はわがほゝゑめるをあやしむならむ、されど我汝の驚きをさらに大いならしめんとす 一二一―一二三
わが目を導いて高きに到らしむるこの者こそは、かのヴィルジリオ、人と神々をうたふにあたりて汝に力を與へし者なれ 一二四―一二六
若しわが笑《ゑみ》の原因《もと》と思へるもの他にあらば、眞《まこと》ならずとしてこれを棄て、彼が事をいへる汝の言《ことば》を眞《まこと》の原因《もと》とおもふべし。 一二七―一二九
わが師の足を抱かんとて彼既に身をかゞめゐたりき、されど師彼に曰ふ。兄弟よ、しかするなかれ、汝も魂汝の見る者も魂なれば。 一三〇―一三二
彼|立上《たちあが》りつゝ。今汝は汝のために燃ゆるわが愛の大いなるをさとるをえむ、そは我等の身の空しきを忘れて 一三三―一三五
我はあたかも固體のごとく魂をあしらひたればなり 一三六―一三八
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   第二十二曲

我等すでに天使をあとにす(こは我等を第六の圓にむかはせ、わが顏より一の疵をとりのぞける天使なり 一―三
彼は我等に義を慕ふ者の福なる[#「福なる」に白丸傍点]ことを告げたり、而してその詞はたゞシチウントをもてこれを結びき) 四―六
また我は他《ほか》の徑《こみち》を通れる時より身輕ければ、疲勞《つかれ》を覺ゆることなくしてかの足早き二の靈に從ひつゝ歩みゐたるに 七―九
このときヴィルジリオ曰ふ。徳の燃やせし愛はその焔一たび外にあらはるればまた他の愛を燃やすを常とす 一〇―一二
是故にジヨヴェナーレが地獄のリムボの中なる我等の間にくだりて汝の情愛を我に明《あか》せし時よりこの方 一三―一五

汝に對してわれ大いなる好意《よしみ》を持てり、實《げに》これより固くはまだ見ぬ者と結べる人なし、かかれば今は此等の段《きだ》も我に短しと見ゆるなるべし 一六―一八
されど告げよ――若し心安きあまりにわが手綱|弛《ゆる》みなば請ふ友として我を赦し、今より友いとして我とかたれ 一九―二一
貪婪《むさぼり》はいかで汝の胸の中、汝の勵みによりて汝に滿ちみちしごとき大なる智慧の間に宿るをえしや。 二二―二四
これらの詞をききてスターツィオまづ少しく笑を含み、かくて答へて曰ひけるは。汝の言葉はみな我にとりて愛のなつかしき表象《しるし》なり 二五―二七
それまことの理《ことわり》かくるゝがゆゑに我等に誤りて疑ひを起さしむる物げにしば/\現はるゝことあり 二八―三〇
汝が我をば世に慾深かりし者なりきと信ずることは汝の問ひよく我に證《あかし》す、これ思ふにわがかの圈にゐたるによらむ 三一―三三
知るべし、我は却つてあまりに貪婪《むさぼり》に遠ざかれるため、幾千の月この放縱を罰せるなり 三
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