たりしもその距離《へだゝり》大ならねば、我はまたこの處の一部にたふとき民の據れるを認めき 七〇―七二
汝學藝のほまれよ、かくあがめをうけてそのさま衆と異なるは誰ぞや 七三―七五
彼我に、汝の世に響くかれらの美名《よきな》はその惠みを天にうけ、かれらかく擢んでらる 七六―七八
この時聲ありて、いとたふとき詩人を敬へ、出でゝいにしその魂はかへれりといふ 七九―八一
聲止みしづまれるとき我見しに四《よつ》の大いなる魂ありて我等のかたに來れり、その姿には悲しみもまた喜びもみえざりき 八二―八四
善き師曰ひけるは、手に劒《つるぎ》を執りて三者《みたり》にさきだち、あたかも王者《わうじや》のごとき者をみよ 八五―八七
これならびなき詩人オーメロなり、その次に來るは諷刺家オラーチオ、オヴィディオ第三、最後はルカーノなり 八八―九〇
かの一の聲の稱《とな》へし名はかれらみな我と等しくえたるものなればかれら我をあがむ、またしかするは善し 九一―九三
我はかく衆を超えて鷲の如く天翔《あまがけ》る歌聖の、うるはしき一族のあつまれるを見たり 九四―九六
しばらくともにかたりて後、かれらは我にむかひて會釋す、わが師これを見て微笑《ほゝゑ》みたまへり 九七―九九
かれらはまた我をその集《つどひ》のひとりとなしていと大いなる譽を我にえさせ、我はかゝる大智に加はりてその第六の者となりにき 一〇〇―一〇二
かくて我等はかの時かたるに適《ふさ》はしくいまは默《もだ》すにふさはしき多くの事をかたりつゝ光ある處にいたれり 一〇三―一〇五
我等は一の貴き城のほとりにつけり、七重《なゝへ》の高壘これを圍み、一の美しき流れそのまはりをかたむ 一〇六―一〇八
我等これを渡ること堅き土に異ならず、我は七《なゝつ》の門を過ぎて聖《ひじり》の群《むれ》とともに入り、緑新しき牧場《まきば》にいたれば 一〇九―一一一
こゝには眼《まなこ》緩《ゆるや》かにして重く、姿に大いなる權威をあらはし、云ふことまれに聲うるはしき民ありき 一一二―一一四
我等はこゝの一隅《かたほとり》、廣き明《あかる》き高き處に退きてすべてのものを見るをえたりき 一一五―一一七
對面《むかひ》の方《かた》には緑の※[#「さんずい+幼」、34−3]藥《えうやく》の上にわれ諸※[#二の字点、1−2−22]の大いなる魂をみき、またかれらをみたるによりていまなほ心に喜び多し 一一八―一二〇
我はエレットラとその多くの侶《とも》をみき、その中に我はエットル、エーネア、物具《ものゝぐ》身につけ眼《まなこ》鷹の如きチェーザレを認めぬ 一二一―一二三
またほかの處に我はカムミルラとパンタシレアを見き、また女《むすめ》ラヴィーナとともに坐したる王ラティーノを見き 一二四―一二六
我はタルクイーノを逐へるブルート、またルクレーチア、ユーリア、マルチア、コルニーリアを見き、また離れてたゞひとりなる 一二七―
サラディーノを見き、我なほ少しく眉をあげ、哲人の族《やから》の中に坐したる智者の師を見き ―一三二
衆皆かれを仰ぎ衆皆かれを崇む、われまたこゝに群《むれ》にさきだちて彼にいとちかきソクラーテとプラートネを見き 一三三―一三五
世界の偶成を説けるデモクリート、またディオジェネス、アナッサーゴラ、ターレ、エムペドクレス、エラクリート、ツェノネ 一三六―一三八
我また善く特性を集めしもの即ちディオスコリーデを見き、またオルフェオ、ツルリオ、リーノ、道徳を設けるセネカ 一三九―一四一
幾何學者エウクリーデまたトロメオ、イポクラーテ、アヴィチェンナ、ガリエーノ、註の大家アヴェルロイスを見き 一四二―一四四
いま脱《おち》なくすべての者を擧げがたし、これ詩題の長きに驅られ、事あまりて言足らざること屡※[#二の字点、1−2−22]なればなり 一四五―一四七
六者《むたり》の伴侶《なかま》は減《へ》りて二者《ふたり》となれり、智《さと》き導者異なる路によりて我を靜なる空より震ひゆらめく空に導き 一四八―一五〇
我は光る物なき處にいたれり 一五一―一五三
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第五曲
斯く我は第一の獄《ひとや》より第二の獄に下れり、是は彼よりをさむる地少なく苦患《なやみ》ははるかに大いにして突いて叫喚を擧げしむ 一―三
こゝにミノス恐ろしきさまにて立ち、齒をかみあはせ、入る者あれば罪業《ざいごふ》を糺《たゞ》し刑罰を定め身を卷きて送る 四―六
すなはち幸《さち》なく世に出でし魂その前に來れば一切を告白し、罪を定むる者は 七―九
地獄の何處《いづこ》のこれに適《ふさは》しきやをはかり、送らむとする獄《ひとや》の數《かず》にしたがひ尾をもて幾度も身をめぐらしむ 一〇―一二
彼の前には常に多くの者の立つあり、かはる/″\出でゝ審判をうけ、陳べ、聞きて後下に投げらる 一三―一五
ミノス我を見し時、かく重き任務《つとめ》を棄てゝ我にいひけるは、憂ひの客舍に來れる者よ 一六―一八
汝みだりに入るなかれ、身を何者に委ぬるや思ひ見よ、入口ひろきによりて欺かるるなかれ、わが導者彼に、汝何ぞまた叫ぶや 一九―二一
彼定命に從ひてゆく、之を妨ぐる勿れ、思ひ定めたる事を凡て行ふ能力《ちから》あるところにてかく思ひ定められしなり、汝また問ふこと勿れ 二二―二四
苦患《なやみ》の調《しらべ》はこの時あらたに我にきこゆ、我はこの時多くの歎聲《なげき》の我を打つところにいたれり 二五―二七
わがいたれる處には一切の光|默《もだ》し、その鳴ることたとへば異なる風に攻められ波たちさわぐ海の如し 二八―三〇
小止《をやみ》なき地獄の烈風吹き荒れて魂を漂はし、旋《めぐ》りまた打ちてかれらをなやましむ 三一―三三
かれら荒ぶる勢ひにあたれば、そこに叫びあり、憂ひあり、歎きあり、また神の權能《ちから》を誹る言《ことば》あり 三四―三六
我はさとりぬ、かゝる苛責の罰をうくるは、理性を慾の役《えき》となせし肉の罪人《つみびと》なることを 三七―三九
たとへば寒き時|椋鳥《むくどり》翼に支へられ、大いなる隙《すき》なき群をつくりて浮び漂ふごとく、風惡靈を漂はし 四〇―四二
こゝまたかしこ下また上に吹送り、身をやすめまたは痛みをかろむべき望みのその心を慰むることたえてなし 四三―四五
またたとへば群鶴《むらづる》の一線長く空《そら》に劃し、哀歌をうたひつゝゆくごとく、我は哀愁の聲をあげ 四六―
かの暴風《はやち》に負《お》はれて來る魂を見き、すなはちいふ、師よ、黒き風にかく懲さるゝ此等の民は誰なりや ―五一
この時彼我にいふ、汝が知るをねがふこれらの者のうち最初《はじめ》なるは多くの語《ことば》の皇后《きさい》なりき 五二―五四
かれ淫慾の非に耽り、おのが招ける汚辱を免かれんため律法《おきて》をたてゝ快樂《けらく》を囘護《かば》へり 五五―五七
かれはセミラミスなり、書にかれニーノの後を承く、即ちその妻なる者なりきといへるは是なり、かれはソルダンの治むる地をその領とせり 五八―六〇
次は戀のために身を殺しシケーオの灰にむかひてその操を破れるもの、次は淫婦クレオパトラースなり 六一―六三
エレーナを見よ、長き禍ひの時めぐり來れるもかれのためなりき、また戀と戰ひて身ををへし大いなるアキルレを見よ 六四―六六
見よパリスを、トリスターノを、かくいひてかれ千餘の魂の戀にわが世を逐はれし者を我にみせ、指さして名を告げぬ 六七―六九
わが師かく古の淑女騎士の名を告ぐるをきける時、我は憐みにとらはれ、わが神氣《こゝろ》絶えいるばかりになりぬ 七〇―七二
我曰ふ、詩人よ、願はくはわれかのふたりに物言はん、彼等相連れてゆき、いと輕く風に乘るに似たり 七三―七五
かれ我に、かれらのなほ我等に近づく時をみさだめ、彼等を導く戀によりて請ふべし、さらば來らむ 七六―七八
風彼等をこなたに靡かしゝとき、われはたゞちに聲をいだして、あはれなやめる魂等よ、彼もし拒まずば來りて我等に物言へといふ 七九―八一
たとへば鳩の、願ひに誘《さそ》はれ、そのつよき翼をたかめ、おのが意《こゝろ》に身を負はせて空《そら》をわたり、たのしき巣にむかふが如く 八二―八四
情《なさけ》ある叫びの力つよければ、かれらはディドの群《むれ》を離れ魔性《ましやう》の空《そら》をわたりて我等にむかへり 八五―八七
あゝやさしく心あたゝかく、世を紅に染めし我等をもかへりみ、暗闇《くらやみ》の空をわけつつゆく人よ 八八―九〇
汝我等の大いなる禍ひをあはれむにより、宇宙の王若し友ならば、汝のためにわれら平和をいのらんものを 九一―九三
すべて汝が聞きまたかたらんとおもふことは我等汝等にきゝまた語らむ、風かく我等のために默《もだ》す間《あひだ》に 九四―九六
わが生れし邑《まち》は海のほとり、ポーその從者《ずさ》らと平和を求めてくだるところにあり 九七―九九
いちはやく雅心《みやびごゝろ》をとらふる戀は、美しきわが身によりて彼を捉へき、かくてわれこの身を奪はる、そのさまおもふだにくるし 一〇〇―一〇二
戀しき人に戀せしめではやまざる戀は、彼の慕はしきによりていと強く我をとらへき、されば見給ふ如く今猶我を棄つることなし 一〇三―一〇五
戀は我等を一の死にみちびきぬ、我等の生命《いのち》を斷てる者をばカイーナ待つなり、これらの語を彼等われらに送りき 一〇六―一〇八
苦しめる魂等のかくかたるをきゝし時、我はたゞちに顏をたれ、ながく擧ぐるをえざりしかば詩人われに何を思ふやといふ 一〇九―一一一
答ふるにおよびて我曰ひけるは、あはれ幾許《いくそ》の樂しき思ひ、いかに切《せち》なる願ひによりてかれらこの憂ひの路にみちびかれけん 一一二―一一四
かくてまた身をめぐらしてかれらにむかひ、語りて曰ひけるは、フランチェスカよ、我は汝の苛責を悲しみかつ憐みて泣くにいたれり 一一五―一一七
されど我に告げよ、うれしき大息《といき》たえぬころ、何によりいかなるさまにていまだひそめる胸の思ひを戀ぞと知れる 一一八―一二〇
かれ我に、幸《さち》なくて幸ありし日をしのぶよりなほ大いなる苦患《なやみ》なし、こは汝の師しりたまふ 一二一―一二三
されど汝かくふかく戀の初根《うひね》をしるをねがはゞ、我は語らむ、泣きつゝかたる人のごとくに 一二四―一二六
われら一日こゝろやりとて戀にとらはれしランチャロットの物語を讀みぬ、ほかに人なくまたおそるゝこともなかりき 一二七―一二九
書《ふみ》はしば/\われらの目を唆《そゝの》かし色を顏よりとりされり、されど我等を從へしはその一節《ひとふし》にすぎざりき 一三〇―一三二
かの憧《あこが》るゝ微笑《ほゝゑみ》がかゝる戀人の接吻《くちづけ》をうけしを讀むにいたれる時、いつにいたるも我とはなるゝことなきこの者 一三三―一三五
うちふるひつゝわが口にくちづけしぬ、ガレオットなりけり書《ふみ》も作者も、かの日我等またその先《さき》を讀まざりき 一三六―一三八
一《ひとつ》の魂かくかたるうち、一はいたく泣きたれば、我はあはれみのあまり、死に臨めるごとく喪神し 一三九―一四一
死體の倒るゝごとくたふれき 一四二―一四四
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第六曲
所縁の兩者をあはれみ、心悲しみによりていたくみだれ、そのため萎《な》えしわが官能、また我に返れる時 一―三
我わがあたりをみれば、わが動く處、わが向ふ處、わが目守《まも》る處すべて新《あらた》なる苛責|新《あらた》なる苛責を受くる者ならぬはなし 四―六
我は第三の獄《ひとや》にあり、こは永久《とこしへ》の詛ひの冷たきしげき雨の獄なり、その法《のり》と質《さが》とは新なることなし 七―九
大粒《おほつぶ》の雹、濁れる水、および雪はくらやみの空よりふりしきり、地はこれをうけて惡臭《をしう》を放てり 一〇―一二
猛き異樣の獸チェルベロこゝに浸れる民にむかひ、その三《みつ》の喉によりて吠ゆること犬に似たり 一三―一五
これに紅の眼、脂ぎりて黒き髯、大いなる腹、爪ある手あり、このもの魂等を爬き、噛み、また裂きて片々《
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