きれ/″\》にす 一六―一八
雨はかれらを犬のごとくさけばしむ、かれら幸《さち》なき神なき徒《ともがら》、片脇《かたわき》をもて片脇の防禦《ふせぎ》とし、またしば/\反側す 一九―二一
大いなる蟲チェルベロ我等を見し時、口をひらき牙をいだしぬ、その體《からだ》にはゆるがぬ處なかりき 二二―二四
わが導者|雙手《もろて》をひらきて土を取り、そのみちたる土を飽くことなき喉の中に投げ入れぬ 二五―二七
鳴いてしきりに物乞ふ犬も、その食物《くひもの》を噛むにおよびてしづまり、たゞこれを喰ひ盡さんとのみおもひてもだゆることあり 二八―三〇
さけびて魂等を驚かし、かれらに聾《みゝしひ》ならんことをねがはしめし鬼チェルベロの汚《きたな》き顏もまたかくのごとくなりき 三一―三三
我等ははげしき雨にうちふせらるゝ魂をわたりゆき、體《からだ》とみえてしかも空《くう》なるその象《かたち》を踏みぬ 三四―三六
かれらはすべて地に臥しゐたるに、こゝにひとり我等がその前を過ぐるをみ、坐《すわ》らんとてたゞちに身を起せる者ありき 三七―三九
この者我にいひけるは、導かれてこの地獄を過行くものよ、もしかなはゞわが誰なるを思ひ出でよ、わが毀たれぬさきに汝は造られき 四〇―四二
我これに、汝のうくる苦しみは汝をわが記憶より奪へるか、われいまだ汝を見しことなきに似たり 四三―四五
然《され》ど告げよ、汝いかなる者なればかく憂き處におかれ又かゝる罰を受くるや、たとひ他《ほか》に之より重き罰はありともかく厭はしき罰はあらじ 四六―四八
彼我に、嫉み盈ち/\てすでに嚢《ふくろ》に溢るゝにいたれる汝の邑《まち》は、明《あか》き世に我を收めし處なりき 四九―五一
汝等|邑民《まちびと》われをチヤッコとよびなせり、害多き暴食の罪によりてわれかくの如く雨にひしがる 五二―五四
また悲しき魂の我ひとりこゝにあるにあらず、これらのものみな同じ咎によりて同じ罰をうく、かくいひてまた言《ことば》なし 五五―五七
われ答へて彼に曰けるは、チヤッコよ、汝の苦しみはわが心をいたましめわが涙を誘《いざな》ふ、されどもし知らば、分れし邑《まち》の邑人《まちびと》の行末 五八―六〇
一人《ひとり》だにこゝに義者《たゞしきもの》ありや、またかく大いなる不和のこゝを襲ふにいたれる源《もと》を我に告げよ 六一―六三
かれ我に、長き爭ひの後彼等は血を見ん、鄙《ひな》の徒黨《ともがら》いたく怨みて敵を逐ふべし 六四―六六
かくて三年《みとせ》の間にこれらは倒れ、他はいま操縱《あやな》すものゝ力によりて立ち 六七―六九
ながくその額を高うし、歎き、憤りいかに大いなりとも敵を重き重荷の下に置くべし 七〇―七二
義者|二人《ふたり》あり、されどかへりみらるゝことなし、自負、嫉妬、貪婪は人の心に火を放てる三の火花なり 七三―七五
かくいひてかれその斷腸の聲をとゞめぬ、我彼に、願はくはさらに我に教へ、わがために言《ことば》を惜しむなかれ 七六―七八
世に秀でしファーリナータ、テッギアイオ、またヤーコポ・ルスティクッチ、アルリーゴ、モスカそのほか善を行ふ事にその才をむけし者 七九―八一
何處にありや、我に告げ我に彼等をしらしめよ、これ大いなる願ひ我を促し、天彼等を甘くするや地獄彼等を毒するやを知るを求めしむればなり 八二―八四
彼、彼等は我等より黒き魂の中にあり、異なる罪その重さによりて彼等を深處《ふかみ》に沈ましむ、汝下りてそこに至らば彼等をみるをえん 八五―八七
されど麗しき世にいづる時、ねがはくは汝我を人の記憶に薦めよ、われさらに汝に告げず、またさらに汝に答へず 八八―九〇
かくてかれその直《すぐ》なりし目を横に歪め、少しく我を見て後|頭《かうべ》をたれ、これをほかの盲《めしひ》等とならべて倒れぬ 九一―九三
導者我に曰ふ、天使の喇叭《らつぱ》ひゞくまで彼ふたゝび身を起すことなし、仇なる權能《ちから》來るとき 九四―九六
かれら皆悲しき墓にたちかへり、ふたゝびその肉その形をとりてとこしへに鳴渡るものをきくべし 九七―九九
少しく後世《ごせ》のことをかたりつゝ我等は斯く魂と雨と汚《きたな》く混《まじ》れるなかを歩《あゆみ》しづかにわけゆきぬ 一〇〇―一〇二
我すなはちいふ、師よ、かゝる苛責の苦しみは大いなる審判《さばき》の後増すべきか減《へ》るべきかまたはかく燃ゆべきか 一〇三―一〇五
彼我に汝の教にかへるべし、曰く、物いよ/\全きに從ひ、幸を感ずるいよ/\深し、苦しみを感ずるまた然りと 一〇六―一〇八
たとひこの詛ひの民|眞《まこと》の完全《まつたき》にいたるをえずとも、その後は前よりこれにちかゝらむ 一〇九―一一一
我等迂囘してこの路をゆき、こゝにのべざる多くの事をかたりつゝ降るべき處にいたり 一一二―一一四
こゝに大敵プルートを見き 一一五―一一七
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   第七曲

パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ、聲を嗄らしてプルートは叫べり、萬《よろづ》のことを知りたまへるやさしき聖《ひじり》 一―三
我を勵まさんとていひけるは、汝おそれて自ら損ふなかれ、彼にいかなる力ありとも、汝にこの岩を降らしめざることあらじ 四―六
またかの膨るゝ顏にむかひいひけるは、默《もだ》せ、冥罰《みやうばつ》重き狼よ、その怒りをもて己が心を滅ぼし盡せ 七―九
かく深處《ふかみ》にゆくは故なきにあらず、こはミケーレが仇を不遜の非倫にかへせる天にて思ひ定められしなり 一〇―一二
たとへば風にはらめる帆の檣碎けて縺れ落つるごとく、かの猛き獸地に倒れぬ 一三―一五
かくして我等は宇宙一切の惡をつゝむ憂ひの岸をすゝみゆき、第四の坎《あな》に下れり 一六―一八
あゝ神の正義よ、かく多くの新なる苦しみと痛みとを押填《おしつ》むるは誰ぞ、我等の罪何ぞ我等をかく滅ぼすや 一九―二一
かの逆浪《さかなみ》に觸れてくだくるカリッヂの浪の如く、斯民《このたみ》またこゝにリッダを舞はではかなはじ 二二―二四
我はこゝに何處よりも多くの民のかなたこなたにありていたくわめき、胸の力によりて重荷をまろばすをみき 二五―二七
かれらは互に打當り、あたればたゞちに身を飜し、何ぞ溜むるや何ぞ投ぐるやと叫び、もときしかたにまろばせり 二八―三〇
かくて彼等はかなたこなたより異なる方向《むき》をとりてまたも恥づべき歌をうたひ、暗き獄《ひとや》を傳ひてかへり 三一―三三
かくして圈の半《なかば》にいたればふたゝびこゝに渡り合ひ、各※[#二の字点、1−2−22]その身をめぐらせり、心刺さるゝばかりなりしわれ 三四―三六
いひけるは、わが師よ、これ何の民なりや、また我等の左なる髮を削れるものらすべてこれ僧なりしや、いま我に示したまへ 三七―三九
彼我に、かれらは悉く第一の世に心ゆがみて程よく費すことをなさざりしものなり 四〇―四二
こはこの地獄の中|表裏《うらうへ》なる咎かれらを分つ二の點にいたる時かれらその吠ゆる聲によりていと明かならしむ 四三―四五
頭に毛の蔽物《おほひ》なき者は僧なりき、また法王、カルディナレあり、慾その衷に權を行ふ 四六―四八
我、師よ、わが識れるものにてこの罪咎に汚るゝものかならずかれらの中にあらん 四九―五一
かれ我に、汝空しき思ひを懷けり、彼等を汚せる辨別《わきまへ》なき生命《いのち》はいまかれらを昧《くらま》し、何者もかれらをわきまへがたし 五二―五四
かれら限りなくこの二の牴觸をみん、此等は手を閉ぢ、これらは髮を短くして墓よりふたゝび起きいづべし 五五―五七
あしく費しあしく貯へしことは美しき世をかれらより奪ひ、かれらにこの爭ひあらしむ、われこゝに言《ことば》を飾りてそのさまをいはじ 五八―六〇
子よ、汝いま知りぬらん、命運に委ねられ、人みなの亂《みだれ》の本なる世の富貴のただ苟且《かりそめ》の戲《たはぶれ》を 六一―六三
そは月の下に今ありまた昔ありし黄金《こがね》こと/″\く集まるともこれらよわれる魂の一にだに休みをえさすることはよくせじ 六四―六六
我彼に曰ふ、師よ、さらにいま我に告げよ、汝謂ふ所の命運とはこれいかなるものにて斯く世の富貴をその手の裡にをさむるや 六七―六九
彼我に、あゝ愚《おろか》なる人々よ、汝等を躓かすは何等の無智ぞや、いざ汝この事についてわがいふところのことを含め 七〇―七二
夫れその智萬物に超ゆるもの諸天を造りてこれに司るものを與へたまへり、かくて各部は各部にかゞやき 七三―七五
みな分に應じてその光を頒つ、これと同じく世にありてもまたその光輝をすべをさめ且つ導く者を立てたまへり 七六―七八
このもの時至れば空しき富貴を民より民に血より血に移し人智もこれを防ぐによしなし 七九―八一
此故にその定《さだめ》にしたがひて一の民榮え一の民衰ふ、またその定の人にかくるゝこと草の中なる蛇の如し 八二―八四
汝等の智何ぞこれに逆《さから》ふことをえん、彼先を見て定めおのが權を行ふことなほ神々のしかするに似たり 八五―八七
その推移には休歇《やすみ》なし、已むなきの力かれをはやむ、その流轉《るてん》にあふもの屡※[#二の字点、1−2−22]と出づるも宜なるかな 八八―九〇
彼を讚むべきもの却つて彼を十字架につけ、故なきに難《なん》じ、汚名を負はしむ 九一―九三
されどかれ祝福《めぐみ》をうけてこれを聞かず、はじめて造られしものと共にこゝろよくその輪を轉らし、まためぐまるゝによりて喜び多し 九四―九六
いざ今より我等は尚大いなる憂ひにくだらん、わが進みしとき登れる星はみな既にかたむきはじむ、我等ながくとゞまる能はず 九七―九九
我等この獄《ひとや》を過ぎてかなたの岸にいたれるに、こゝに一の泉ありて湧きこゝより起れる一の溝《みぞ》にそゝげり 一〇〇―一〇二
水の黒《くろ》きことはるかにペルソにまさりき、我等|黯《くろず》める波にともなひ慣れざる路をつたひてくだりぬ 一〇三―一〇五
この悲しき小川はうす黒き魔性の坂の裾にくだりてスティージェとよばるゝ一の沼となれり 一〇六―一〇八
こゝにわれ心をとめて見んとて立ち、この沼の中に、泥にまみれみなはだかにて怒りをあらはせる民を見き 一〇九―一一一
かれらは手のみならず、頭、胸、足をもて撃ちあひ、齒にて互に噛みきざめり 一一二―一一四
善き師曰ふ、子よ、今汝は怒りに負《ま》けしものゝ魂を見るなり、汝またかたく信すべし 一一五―一一七
この水の下に民あることを、かれらその歎息《ためいき》をもて水の面に泡立たしむ、こはいづこにむかふとも汝の目汝に告ぐる如し 一一八―一二〇
泥《ひぢ》の中にて彼等はいふ、日を喜ぶ麗しき空氣のなかにも無精《ぶせい》の水氣を衷にやどして我等鬱せり 一二一―一二三
今我黒き泥水《どろみづ》のなかに鬱すと、かれらこの聖歌によりて喉に嗽《うがひ》す、これ全き言《ことば》にてものいふ能はざればなり 一二四―一二六
かくして我等は乾ける土と濡れたる沼の間をあゆみ、目を泥を飮む者にむかはしめ、汚《きたな》き瀦《みづたまり》の大なる孤をめぐりて 一二七―一二九
つひに一の城樓《やぐら》の下《もと》にいたれり 一三〇―
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   第八曲

續いて語るらく、高き城樓《やぐら》の下《もと》を距るなほいと遠き時、我等は目をその頂に注げり 一―三
これ二《ふたつ》の小さき焔のこゝにおかるゝをみしによりてなり、又|他《ほか》に一《ひとつ》之と相圖を合せしありしも距離《あはひ》大なれば我等よく認むるをえざりき 四―六
こゝにわれ全智の海にむかひ、いひけるは、この火何といひ、かの火何と答ふるや、またこれをつくれるものは誰なりや 七―九
彼我に、既に汝は來らんとすることを汚《けが》れし波の上に辨《わか》ちうべし、若し沼の水氣これを汝に隱さずば 一〇―一二
矢の絃《つる》に彈《はじ》かれ空を貫いて飛ぶことはやきもわがこの時見し一の小舟には如かじ 一三―一五
舟は水を渡りて、我等のかたにすゝめり、これを操《あやつ》れるひとりの舟子《ふなこ》よばゝりて、惡しき魂よ
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