罪とを知るをうべし 三四―三六
我、汝の好むところみな我に好《よ》し、汝は主なり、わが汝の意《こゝろ》に違ふなきを知り、またわが默《もだ》して言はざるものを知る 三七―三九
かくて我等は第四の堤にゆき、折れて左にくだり、穴多き狹き底にいたれり 四〇―四二
善き師は我をかの脛《はぎ》にて歎けるものゝ罅裂《われめ》あるところに着かしむるまでその腰よりおろすことなかりき 四三―四五
我曰ふ、悲しめる魂よ、杙《くひ》の如く插されて逆《さか》さなる者よ、汝誰なりとももしかなはば言《ことば》を出《いだ》せ 四六―四八
我はあたかも埋《いけ》られて後なほ死を延べんとおもへる不義の刺客に呼戻されその懺悔をきく僧の如くたちゐたり 四九―五一
この時彼叫びていひけるは、汝既にこゝに立つや、ボニファーチョよ、汝既にこゝに立つや、書《ふみ》は僞りて數年を違へぬ 五二―五四
斯く早くもかの財寶《たから》に飽けるか、汝はそのため欺いて美しき淑女をとらへ後|虐《しひた》ぐるをさへ恐れざりしを 五五―五七
我はさながら答をきゝてさとりえずたゞ嘲りをうけし如く立ちてさらに應《こた》ふるすべを知らざる人のさまに似たりき 五八―六〇
この時ヴィルジリオいひけるは、速かに彼に告げて我は汝の思へる者にあらず汝の思へる者にあらずといへ、我乃ち命ぜられし如く答へぬ 六一―六三
是に於て魂足をこと/″\く搖《ゆる》がせ、さて歎きつゝ聲憂はしく我にいふ、さらば我に何を求むるや 六四―六六
もしわが誰なるを知るをねがふあまりに汝此岸を下れるならば知るべし、我は身に大いなる法衣《ころも》をつけし者なりしを 六七―六九
まことに我は牝熊《めぐま》の仔なりき、わが上《うえ》には財寶《たから》をこゝには己を嚢《ふくろ》に入るゝに至れるもたゞひたすら熊の仔等の榮《さかえ》を希へるによりてなり 七〇―七二
我頭の下には我よりさきにシモニアを行ひ、ひきいれられて石のさけめにかくるゝ者多し 七三―七五
わがゆくりなく問をおこせる時汝とおもひたがへたるもの來るにいたらば、我もかしこに落行かむ 七六―七八
されどわがかく足を燒き逆《さかさ》にて經し間の長さは、彼が足を赤くし插されて經ぬべき時にまされり 七九―八一
これその後《あと》に西の方より法《おきて》を無みしいよ/\醜き行ひありて彼と我とを蔽ふに足るべきひとりの牧者來ればなり 八二―八四
彼はマッカベエイの書《ふみ》のうちなるヤーソンの第二とならむ、また王これに甘《あま》かりし如くフランスを治むるもの彼に甘かるべし 八五―八七
我はこの時わがたゞかゝる歌をもて彼に答へし事のあまりに愚なるわざなりしや否やを知らず、曰く、あゝいま我に告げよ 八八―九〇
我等の主|鑰《かぎ》を聖ピエートロに委ぬるにあたりて幾許《いくばく》の財寶《たから》を彼に求めしや、げにその求めしものは我に從へ[#「我に從へ」に白丸傍点]の外あらざりき 九一―九三
また罪ある魂の失へる場所を補はんとて鬮《くじ》にてマッティアを選べる時、ピエルもほかの弟子達《でしたち》も彼より金銀をうけざりき 九四―九六
此故にこゝにとゞまれ、罰をうくるは宜《うべ》なればなり、かくして汝にカルロを侮らしめし不義の財貨《たから》をかたくまもれ 九七―九九
若し喜びの世にて汝が手にせし比類《たぐひ》なき鑰の敬《うやまひ》いまなほ我を控《ひか》ゆるなくば 一〇〇―一〇二
これより烈《はげ》しき言《ことば》をこそもちゐめ、汝等の貪りは世界に殃《わざはひ》し善《よき》を踏みしき悖《もと》れるを擧ぐ 一〇三―一〇五
女水の上に坐し淫を諸王に鬻ぐを見し時、かの聖傳を編める者汝等牧者を思へるなり 一〇六―一〇八
すなはち生れて七の頭あり、その夫の徳を慕ふ間十の角《つの》よりその證《あかし》をうけし女なり 一〇九―一一一
汝等は己の爲に金銀の神を造れり、汝等と偶像に事ふるものゝ異なる處いづこにかある、彼等一を拜し汝等百を拜す、これのみ 一一二―一一四
あゝコスタンティーンよ、汝の歸依ならず、最初の富める父が汝よりうけしその施物《せもつ》はそもいかなる禍ひの母となりたる 一一五―一一七
我この歌をうたへる間、彼は怒りに刺されしか或ひは恥に刺されしか、はげしく二の蹠《あしうら》を搖《ゆ》れり 一一八―一二〇
思ふにこの事必ずわが導者の意をえたりしなるべし、かれ氣色《けしき》いとうるはしくたえず耳をわがのべし眞《まこと》の言に傾けき 一二一―一二三
かくて雙腕《もろかひな》をもて我を抱き、我を全くその胸に載せ、さきにくだれる路をのぼれり 一二四―一二六
またかく抱きて疲るゝことなく、第四の堤より第五の堤に通ふ弓門《アルコ》の頂《いたゞき》まで我を載せ行き 一二七―一二九
石橋粗く嶮しくして山羊《やぎ》さへたやすく過ぐべきならねば、しづかにこゝにその荷をおろせり 一三〇―一三二
さてこゝよりみゆるは次の大いなる溪なりき 一三三―一三五
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   第二十曲

新《あらた》なる刑罰を詩に編《あ》み、これを第一の歌沈める者の歌のうちなる曲《カント》第二十の材となすべき時は至れり 一―三
こゝにわれよく心をとめて望み見しに、くるしみの涙を浴《あ》びし底あらはれ 四―六
まろき大溪《おほたに》に沿ひて來れる民泣いて物言はず、足のはこびはこの世の祈祷《いのり》の行列に似たりき 七―九
わが目なほひくゝ垂れて彼等におよべば、頤《おとがひ》と胸との間みな奇《く》しくゆがみて見ゆ 一〇―一二
すなはち顏は背《うしろ》にむかひ、彼等前を望むあたはで、たゞ後方《うしろ》に行くあるのみ 一三―一五
げに人|中風《ちゆうぶ》のわざによりてかく全くゆがむにいたれることもあるべし、されど我未だかゝることをみず、またありとも思ひがたし 一六―一八
讀者よ(願はくは神汝に讀みて實《み》を摘むことをえしめよ)、請ふ今自ら思へ、目の涙|背筋《せすぢ》をつたひて 一九―二一
臂《ゐさらひ》を洗ふばかりにいたくゆがめる我等の像《かたち》をしたしく見、我何ぞ顏を濡らさゞるをえん 二二―二四
我はげに堅き石橋の岩の一に凭《もた》れて泣けり、導者すなはち我に曰ふ、汝なほ愚者に等しきや 二五―二七
夫れこゝにては慈悲全く死してはじめて敬虔生く、神の審判《さばき》にむかひて憐みを起す者あらばこれより大いなる罪人あらんや 二八―三〇
首《かうべ》をあげよ、あげてかの者を見よ、テーベ人《びと》の目の前にて地そのためにひらけしはこれなり、この時人々皆叫びて、アンフィアラーオよ 三一―三三
何處《いづこ》におちいるや何ぞ軍《いくさ》を避くるやとよべるもおちいりて止まるひまなく、遂に萬民をとらふるミノスにいたれり 三四―三六
見よ彼は背を胸に代ふ、あまりに前《さき》をのみ見んことをねがへるによりていま後《あと》を見|後方《うしろ》にゆくなり 三七―三九
ティレージアを見よ、こは體《からだ》すべて變りて男より女となり、その姿あらたまるにいたれるものなり 四〇―四二
この事ありて後、再び雄々しき羽をうるため、彼まづ杖をもて二匹の縺《もつ》れあへる蛇をふたゝび打たざるをえざりき 四三―四五
背を彼の腹に向くるはアロンタなり、ルーニ山の中、その下に住むカルラーラ人の耕すところに 四六―四八
白き大理石のうちなる洞《ほら》を住居《すまゐ》とし、こゝより星と海とを心のまゝに見るをえき 四九―五一
みだれし髪をもて汝の見ざる乳房《ちぶさ》をおほひ、毛ある肌《はだへ》をみなかなたにむけしは 五二―五四
マントといへり、多くの國々をたづねめぐりて後わが生れし處にとどまりき、されば請ふ少しくわがこゝに陳《の》ぶることを聞け 五五―五七
その父世を逝《さ》りバーコの都|奴婢《はしため》となるにおよびてかれはひさしく世にさすらへり 五八―六〇
上《うへ》なる美しきイタリアの中、ティラルリに垂れて獨逸《ラーマニア》を閉すアルペの裾に一湖あり、ベナーコと名づく 六一―六三
ガルダとヴァル・カーモニカの間にはおもふに千餘の泉あるべし、その水みなアペンニノを洗ひてこの湖に湛ふ 六四―六六
湖の中央に一の處あり、トレント、ブレシヤ、ヴェロナの牧者等若しこの路を取ることあらば各※[#二の字点、1−2−22]こゝに祝福を與ふるをえん 六七―六九
美しき堅き城ペスキエーラはブレシヤ人ベルガーモ人を防がんとてまはりの岸のいと低き處にあり 七〇―七二
ベナーコの懷《ふところ》にあまるものみな必ずこゝに落ち、川となりて緑の牧場をくだる 七三―七五
この水流れはじむればベナーコと呼ばれず、ゴヴェルノにいたりてポーに入るまでミンチョとよばる 七六―七八
未だ遠く進まざるまにとある窪地《くぼち》をえて中にひろがり沼となり、夏はしば/\患ひを釀す恐れあり 七九―八一
さてこの處を過ぐとてかの猛き處女《をとめ》沼の中央に不毛無人の地あるを見 八二―八四
すべて世の交際《まじらひ》を避けおのが術《わざ》を行はんためその僕等と共にとゞまりてこゝに住みこゝにその骸《むくろ》を殘せり 八五―八七
この後あたりに散りゐたる人々みなこの處にあつまれり、これ四方に沼ありてその固《かため》強かりければなり 八八―九〇
彼等町を枯骨の上に建て、はじめてこの處をえらべるものに因《ちな》み、占《うら》によらずして之をマンツアと呼べり 九一―九三
カサロディの愚未だピナモンテの欺くところとならざりし頃は、この中なる民なほ多かりき 九四―九六
されど我汝を戒む、たとひ是と異なるわが邑《まち》の由來を聞くことありとも、汝|僞《いつはり》をもて眞《まこと》となすなかれ 九七―九九
我、師よ、汝の陳ぶること我にあきらかに、善くわが信をえたり、さればいかなる異説出づとも我には消えし炭に過ぎじ 一〇〇―一〇二
されど我に告げよ、汝は歩みゆく民の中に心をとむべきものを見ずや、そはわが思ひたゞこの事にのみむかへばなり 一〇三―一〇五
この時彼我に曰ふ、髯を頬より黯《くろず》める肩に垂るゝものはギリシアに男子なく 一〇六―一〇八
搖籃滿つるにいたらざりし頃の卜者にて、カルカンタと共にアウリーデに最初の纜《ともづな》解かるべき時を卜せり 一〇九―一一一
彼名をエウリピロといひき、わが高き悲曲の調《しらべ》はいづこにか彼をかく歌へることあり、汝この詩を知り盡せばまたよくこの事を知らん 一一二―一一四
雙脇《もろわき》いたく痩せたるはミケーレ・スコットといひ、惑はし欺く無益《むやく》の術《わざ》にまことに長けし者なりき 一一五―一一七
見よグイード・ボナッティを、見よアスデンテを(彼革と絲とに心をむけし事を願ひ今悔ゆれどもおそし) 一一八―一二〇
針、杼《ひ》、紡錘《つむ》を棄てゝ卜者となりし幸なき女等を見よ、彼等は草と偶人《ひとがた》をもてその妖術を行へり 一二一―一二三
されどいざ來れ、カイーノと茨《いばら》は既に兩半球の境を占め、ソビリアのかなたの波に觸る 一二四―一二六
昨夜既に月は圓かりき、こは低き林の中にてしば/\汝に益をえさせしものなれば汝いかでか忘るべき 一二七―一二九
かく彼我に語り、語る間も我等は歩めり 一三〇―一三二
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   第二十一曲

このほかわが喜曲《コメディア》の歌ふを好まざる事どもかたりつゝ、かく橋より橋にゆき、頂《いたゞき》にいたるにおよびて 一―三
我等はマーレボルジェなる次の罅裂《われめ》と次の空しき歎きを見んとてとゞまれり、我見しにこの處あやしく暗かりき 四―六
たとへば冬の日ヴェネーツィア人の船廠《アールセーナ》に、健《すこや》かならぬ船を塗替へんとて、粘《ねば》き脂《やに》煮ゆるごとく 七―九
(こは彼等海に浮ぶをえざるによる、すなはち之に代へてひとりは新《あらた》に船を造り、ひとりはあまたの旅をかさねし船の側《わき》を塞ぎ 一〇―一二
ひとりは舳《へさき》ひとりは艫《とも》に釘うち、彼櫂を造り是綱を縒《よ》り、ひとりは大小の帆を繕《つくら》ふ) 一三―一五
下には濃き脂《やに》火によらず神の
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