からず) 六七―六九
彼にむかひてわが導者、愚なる魂よ、怒り生じ雜念起らばその角笛に縋りて之をこころやりとせよ 七〇―七二
あわたゞしき魂よ、頸をさぐりてつなげる紐をえ、また笛のその大いなる胸にまつはるをみよ 七三―七五
かくてまた我に曰ひけるは、彼己が罪を陳ぶ、こはネムブロットなり、世に一の言語《ことば》のみ用ゐられざるは即ちそのあしき思ひによれり 七六―七八
我等彼を殘して去り、彼と語るをやめん、これ益なきわざなればなり、人その言《ことば》をしらざる如く彼また人の言をさとらじ 七九―八一
かくて左にむかひて我等遠くすゝみゆき弩《いしゆみ》とゞく間《あひ》をへだてゝまたひとりいよ/\猛くかつ大いなる者をみき 八二―八四
縛《しば》れる者の誰なりしや我はしらねど、彼|鏈《くさり》をもてその腕を左はまへに右はうしろに繋《つな》がれ 八五―
この鏈頸より下をめぐりてその身のあらはれしところを絡《ま》くこと五囘《いつまき》に及べり ―九〇
わが導者曰ふ、この傲《たかぶ》る者|比類《たぐひ》なきジョーヴェにさからひておのが能力《ちから》をためさんとおもへり、此故にこの報《むくい》をうく 九一―九三
彼名をフィアルテといふ、巨人等が神々の恐るゝところとなりし頃大いなる試《こゝろみ》をなし、その腕を振へるも、今や再び動かすによしなし 九四―九六
我彼に、若しかなはゞ願はくは量り知りがたきブリアレオのわが目に觸れなんことを 九七―九九
彼すなはち答へて曰ふ、汝はこゝより近き處にアンテオを見ん、彼語るをえて身に縛《いましめ》なし、また我等を凡ての罪の底におくらん 一〇〇―一〇二
汝の見んとおもふ者は遠くかなたにありてかくの如く繋がれ形亦同じ、たゞその姿いよ/\猛きのみ 一〇三―一〇五
フィアルテ忽ち身を搖《ゆ》れり、いかに強き地震《なゐ》といへどもその塔をゆるがすことかく劇しきはなし 一〇六―一〇八
此時我は常にまさりて死を恐れぬ、また若し繋《つなぎ》を見ることなくば怖れはすなはち死なりしなるべし 一〇九―一一一
我等すゝみてアンテオに近づけり、彼は岩窟《いはあな》より外にいづること頭を除きて五アルラを下らざりき 一一二―一一四
あゝアンニバールがその士卒と共に背《そびら》を敵にみせし時、シピオンを譽の嗣《よつぎ》となせし有爲《うゐ》の溪間に 一一五―一一七
そのかみ千匹の獅子の獲物《えもの》をはこべる者よ(汝若し兄弟等のゆゝしき師《いくさ》に加はりたらば地の子等|勝利《かち》をえしものをと 一一八―
いまも思ふものあるに似たり)、願はくは我等を寒さコチートを閉すところにおくれ、これをいとひて ―一二三
我等をティチオにもティフォにも行かしむる勿れ、この者よく汝等のこゝに求むるものを與ふるをうるがゆゑに身を屈《かゞ》めよ、顏を顰《しか》むる勿れ 一二四―一二六
彼はこの後汝の名を世に新にするをうるなり、彼は生く、また時未だ至らざるうち恩惠《めぐみ》彼を己が許によぶにあらずばなほ永く生くべし 一二七―一二九
師かく曰へり、彼速かに嘗てエルクレにその強《つよみ》をみせし手を伸べてわが導者を取れり 一三〇―一三二
ヴィルジリオはおのが取られしをしりて我にむかひ、こゝに來《こ》よ、我汝をいだかんといひ、さて己と我とを一の束《たば》とせり 一三三―一三五
傾ける方《かた》よりガーリセンダを仰ぎ見れば、雲その上を超ゆる時これにむかひてゆがむかと疑はる 一三六―一三八
われ心をとめてアンテオの屈むをみしにそのさままた斯くの如くなりき、さればほかの路を行かんとの願ひもげにこれ時に起れるなるを 一三九―一四一
彼は我等をかるやかにジユダと共にルチーフェロを呑める底におき、またかくかゞみて時ふることなく 一四二―一四四
船の檣の如く身を上げぬ 一四五―一四七
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   第三十二曲

若し我にすべての巖壓《いはほお》しせまる悲しみの坎《あな》にふさはしきあらきだみたる調《しらべ》あらば 一―三
我わが想《おもひ》の汁《しる》をなほも漏れなく搾《しぼ》らんものを、我に是なきによりて語るに臨み心後る 四―六
夫れ全宇宙の底を説くは戲れになすべき業《わざ》にあらず、阿母阿父とよばゝる舌また何ぞよくせんや 七―九
たゞ願はくはアムフィオネをたすけてテーべを閉せる淑女等わが詩をたすけ、言《ことば》の事と配《そ》はざるなきをえしめんことを 一〇―一二
あゝ萬の罪人にまさりて幸なく生れし民、語るも苦《つら》き處に止まる者等よ、汝等は世にて羊または山羊《やぎ》なりしならば猶善かりしなるべし 一三―一五
我等は暗き坎《あな》の中巨人の足下《あしもと》よりはるかに低き處におりたち、我猶高き石垣をながめゐたるに 一六―一八
汝心して歩め、あしうらをもて幸なき弱れる兄弟等の
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