、わがこゝにあるは一《ひとつ》の罪のためなるも汝の罪は鬼より多し 一一五―一一七
腹|脹《ふく》るゝ者答へて曰ふ、誓ひを破れる者よ、馬を思ひいで、この事全世界にかくれなきをしりて苦しめ 一一八―一二〇
ギリシアの者曰ふ、汝はまた舌を燒くその渇《かわき》と腹を目の前の籬《まがき》となすその腐水《くさりみづ》のために苦しめ 一二一―一二三
この時|贋金者《にせがねし》、汝の口は昔の如く己が禍ひのために開《あ》く、我渇き水氣によりて膨るるとも 一二四―一二六
汝は燃えて頭いためば、もしナルチッソの鏡だにあらば人のしふるをもまたで之を舐《ねぶ》らむ 一二七―一二九
我は彼等の言をきかんとのみ思ひたりしに、師我に曰ふ、汝少しく愼しむべし、われたゞちに汝と爭ふにいたらん 一三〇―一三二
彼怒りをふくみてかく我にいへるをきける時我は今もわが記憶に渦《うづま》くばかりの恥をおぼえて彼の方にむかへり 一三三―一三五
人凶夢を見て夢に夢ならんことをねがひ、すでに然るを然らざるごとく切《せち》に求むることあり 一三六―一三八
我亦斯くの如くなりき、我は口にていふをえざれば、たえず詫《わ》びつゝもなほ詫びなんことを願ひてわが既にしかせるを思ふことなかりき 一三九―一四一
師曰ふ、恥斯く大いならずともこれより大いなる過ちを洗ふにたる、されば一切の悲しみを脱れよ 一四二―一四四
若し民かくの如く爭ふところに命運汝を行かしむることあらば、わが常に汝の傍にあるをおもへ 一四五―一四七
かゝる事をきくを願ふはこれ卑しき願ひなればなり 一四八―一五〇
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   第三十一曲

同じ一の舌なれども先には我を刺して左右の頬を染め、後には藥を我にえさせき 一―三
聞くならくアキルレとその父の槍もまたかくのごとく始めは悲しみ後は幸ひを人に與ふる習ひなりきと 四―六
我等は背を幸《さち》なき大溪にむけ、之を繞れる岸の上にいで、言《ことば》も交《まじ》へで横ぎれり 七―九
さてこの邊《あたり》は夜たりがたく晝たりがたき處なれば、我は遠く望み見るをえざりしかど、はげしき雷《いかづち》をも微《かすか》ならしむるばかりに 一〇―
角笛《つのぶえ》高く耳にひゞきて我にその行方《ゆくへ》を溯りつゝ目を一の處にのみむけしめき ―一五
師《いくさ》いたましく敗れ、カルロ・マーニオその聖軍を失ひし後のオルラントもかくおそろしくは吹鳴らさゞりしなりけり 一六―一八
われ頭《かうべ》をかなたにめぐらしていまだほどなきに、多くの高き櫓《やぐら》をみしごとく覺えければ、乃ち曰ふ、師よ、告げよ、これ何の邑なりや 一九―二一
彼我に、汝はるかに暗闇の中をうかゞふがゆゑに量ることたゞしからざるにいたる 二二―二四
ひとたびかしこにいたらば遠き處にありては官能のいかに欺かれ易きものなるやをさだかに知るをえん、されば少しく足をはやめよ 二五―二七
かくてやさしく我手をとりていひけるは、我等かなたにゆかざるうち、この事汝にいとあやしとおもはれざるため 二八―三〇
しるべし、彼等は巨人にして櫓にあらず、またその臍《ほぞ》より下は坎《あな》の中岸のまはりにあり 三一―三三
水氣空に籠《こも》りて目にかくれし物の形、霧のはるゝにしたがひて次第に浮びいづるごとく 三四―三六
我次第に縁《ふち》にちかづきわが眼《まなこ》濃き暗き空を穿つにおよびて誤りは逃げ恐れはましぬ 三七―三九
あたかもモンテレッジオンが圓き圍《かこひ》の上に多くの櫓を戴く如く、おそろしき巨人等は 四〇―
その半身をもて坎をかこめる岸を卷けり(ジョーヴェはいまも雷《いかづち》によりて天より彼等を慴《おび》えしむ) ―四五
我は既にそのひとりの顏、肩、胸および腹のおほくと腋を下れる雙腕《もろかひな》とをみわけぬ 四六―四八
げに自然がかゝる生物を造るをやめてかゝる臣等《おみら》をマルテより奪へるは大いに善し 四九―五一
また彼象と鯨を造れるを悔いざれども、見ることさとき人はこれに依りて彼をいよいよ正しくいよ/\慮《おもんぱかり》あるものとなすべし 五二―五四
そは心の固めもし惡意と能力《ちから》に加はらばいかなる人もこれを防ぐあたはざればなり 五五―五七
顏は長く大きくしてローマなる聖ピエートロの松毯《まつかさ》に似、他《ほか》の骨みなこれに適《かな》へり 五八―六〇
されば下半身の裳《も》なりし岸は彼を高くその上に聳えしむ、おもふに三人《みたり》のフリジア人《びと》もその髮に屆《とゞ》くを 六一―
誇りえざりしなるべし、人の外套《うはぎ》を締合《しめあ》はすところより下方《した》わが目にうつれるもの裕《ゆたか》に三十パルモありき ―六六
ラフェル・マイ・アメク・ツアビ・アルミ、猛き口はかく叫べり、(これよりうるはしき聖歌はこの口にふさはし
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