にやどりて獸または人の身を驅るテーベ、トロイアの怒りの猛きも 二二―
わが蒼ざめて裸なる二の魂の中にみし怒りには及ばじ、彼等は恰も欄《をり》を出でたる豚の如く且つ噛み且つ走れり ―二七
その一はカポッキオにちかづき、牙を項《うなじ》にたてゝ彼を曳き、堅き底を腹に磨《す》らしむ 二八―三〇
震ひつゝ殘れるアレッツオの者我に曰ひけるは、かの魔性の魑魅《すだま》はジャンニ・スキッキなり、狂ひめぐりてかく人をあしらふ 三一―三三
我彼に曰ふ、(願はくはいま一の者汝に齒をたつるなからんことを)請ふ此者の誰なるやをそのはせさらぬまに我に告げよ 三四―三六
彼我に、こはいとあしきミルラの舊《ふり》し魂なり、彼正しき愛を超えてその父を慕ひ 三七―三九
おのれを人の姿に變へてこれと罪を犯すにいたれり、あたかもかなたにゆく者が 四〇―
獸の群の女王をえんとて己をブオソ・ドナーティといつはり、その遺言書《ゆゐごんしよ》を作りてこれを法例《かた》の如く調《とゝの》ふるにいたれるに似たり ―四五
狂へる二の者過ぎ去りて後、我は此等に注げる目をめぐらし、ほかの幸《さち》なく世に出でし徒《ともがら》を見たり 四六―四八
我見しにこゝにひとり人の叉生《またさ》すあたりより股の附根《つけね》を切りとるのみにて形琵琶に等しかるべき者ありき 四九―五一
同化しえざる水氣によりて顏腹と配《そ》はざるばかりに身に權衡《けんかう》を失はせ、また之を重からしむる水腫《すゐしゆ》の病は 五二―五四
たえずその唇をひらかしめ、そのさまエチカをやめる者の渇きて一を頤《おとがひ》に一を上にむくるに似たりき 五五―五七
彼我等に曰ふ、あゝいぶかしくも苦患《なやみ》の世にゐて何の罰をもうけざる者よ、心をとめてマエストロ・アダモの幸なきさまを見よ 五八―
生ける時は我ゆたかにわが望めるものをえたりしに、いまはあはれ水の一滴《ひとしづく》をねぎもとむ ―六三
カセンティーンの緑の丘《をか》よりアルノにくだり、水路涼しく軟かき多くの小川は 六四―六六
常にわがまへにあらはる、またこれ徒《いたづら》にあらず、その婆の我を乾すことわが顏の肉を削《そ》ぐこの病よりはるかに甚しければなり 六七―六九
我を責むる嚴《おごそか》なる正義は、我に歎息《ためいき》をいよ/\しげく飛ばさしめんとてその手段《てだて》をわが罪を犯せる處に得たり 七〇―七二
即ちかしこにロメーナとてわがバッティスタの像《かた》ある貨幣《かね》の模擬《まがひ》を造り、そのため燒かれし身を世に殘すにいたれる處あり 七三―七五
されど我若しこゝにグイード、アレッサンドロまたは彼等の兄弟の幸《さち》なき魂をみるをえばその福《さいはひ》をフォンテ・ブラングにもかへじ 七六―七八
狂ひめぐる魂等の告ぐること眞《まこと》ならば、ひとりはすでにこの中にあり、されど身|繋《つな》がるゝがゆゑに我に益なし 七九―八一
たとひ百年《もゝとせ》の間に一|吋《オンチヤ》をゆきうるばかりなりともこの身輕くば、この處|周圍《めぐり》十一|哩《ミーリア》あり 八二―八四
幅半哩を下らざれども、我は既に出立ちて彼をこの見苦しき民の間に尋ねしなるべし 八五―八七
我は彼等の爲にこそ斯かる家族《やから》の中にあるなれ、我を誘ひて三カラートの合金《まぜがね》あるフィオリーノを鑄らしめしは乃ち彼等なればなり 八八―九〇
我彼に、汝の右に近く寄りそひて臥し、冬の濡手《ぬれて》のごとく烟《けぶ》るふたりの幸なき者は誰ぞや 九一―九三
答へて曰ふ、我この巖間《いわま》に降《ふ》り下れる時彼等すでにこゝにありしが其後一|度《たび》も身を動かすことなかりき、思ふに何時《いつ》に至るとも然《しか》せじ 九四―九六
ひとりはジユセッポを讒《しこづ》りし僞りの女、一はトロイアにありしギリシア人《びと》僞りのシノンなり、彼等劇しき熱の爲に臭き烟を出すことかく夥《おびたゞ》し 九七―九九
この時そのひとり、かくあしざまに名をいはれしを怨めるなるべし、拳《こぶし》をあげて彼の硬き腹を打ちしに 一〇〇―一〇二
その音恰も太鼓の如くなりき、マエストロ・アダモはかたさこれにも劣らじとみゆるおのが腕をもてかの者の顏を打ち 一〇三―一〇五
これにいひけるは、たとひこの身重くして動くあたはずともかゝる用《もちゐ》にむかひては自在の肱《かひな》我にあり 一〇六―一〇八
かの者即ち答へて曰ふ、火に行ける時汝の腕かくはやからず、貨幣《かね》を造るにあたりてはかく早く否これよりも早かりき 一〇九―一一一
水氣を病める者、汝のいへるは眞《まこと》なり、されどトロイアにて眞を問はれし時汝はかかる眞の證人《あかしびと》にあらざりき 一一二―一一四
シノネ曰ふ、我は言《ことば》にて欺けるも汝は貨幣《かね》にて欺けるなり
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