ことあるをいへり、曰く、靈鳥《フエニーチエ》はその齡《よはひ》五百年に近づきて死し、後再び生る 一〇六―一〇八
この鳥世にあるや、草をも麥をも食《は》まず、たゞ薫物《たきもの》の涙とアモモとを食む、また甘松と沒藥《もつやく》とはその最後の壽衣《じゆい》となると 一〇九―一一一
人或ひは鬼の力によりて地にひかれ、或ひは塞《ふさぎ》にさへられて倒れ、やがて身を起せども、おのがたふれし次第をしらねば 一一二―
うけし大いなる苦しみのためいたくまどひて目をうちひらき、あたりを見つゝ歎くことあり ―一一七
起き上れる罪人《つみびと》のさままた斯くの如くなりき、あゝ仇を報いんとてかくはげしく打懲す神の威力《ちから》はいかにきびしきかな 一一八―一二〇
導者この時彼にその誰なるやを問へるに、答へて曰ひけるは、我は往日《さきつひ》トスカーナよりこのおそろしき喉の中に降《ふ》り下れる者なり 一二一―一二三
我は騾馬なりければまたこれに傚ひて人にはあらで獸の如く世をおくるを好めり、我はヴァンニ・フッチといふ獸なり、しかして 一二四―
ピストイアは我に應《ふさは》しき岩窟《いはあな》なりき、われ導者に、彼に逃《にぐ》る勿れといひ、また彼をこゝに陷らしめしは何の罪なるやを尋ねたまへ
わが見たるところによれば彼は血と怒りの人なりき、この時罪人これを聞きて佯《いつは》らず、心をも顏をも我にむけ、悲しき恥に身を彩色《いろど》りぬ ―一三二
かくて曰ひけるは、かゝる禍ひの中にて汝にあへる悲しみは、わがかの世をうばゝれし時よりも深し 一三三―一三五
我は汝の問を否むあたはず、わがかく深く沈めるは飾美しき寺の寶藏《みくら》の盜人たりし故なりき 一三六―一三八
またこの罪嘗てあやまりて人に負はされしことあり、されど汝此等の暗き處をいづるをえてわがさまをみしを喜びとなすなからんため 一三九―一四一
耳を開きてわがうちあかすことを聞け、まづピストイアは黒黨《ネーリ》を失ひて痩せ、次にフィオレンツァは民と習俗《ならはし》を新《あらた》にすべし 一四二―一四四
マルテはヴァル・ヂ・マーグラより亂るゝ雲に裹《つゝ》まれし一の火氣をひきいだし、嵐劇しくすさまじく 一四五―一四七
カムポ・ピチェンに戰起りて、この者たちまち霧を擘《つんざ》き、白黨《ビアンキ》悉くこれに打たれん 一四八―一五〇
我これをいふは汝に憂ひあらしめんためなり 一五一―一五三
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第二十五曲
かたりをはれる時かの盜人|雙手《もろて》を握りて之を擧げ、叫びて曰ひけるは、受けよ神、我汝にむかひてこれを延ぶ 一―三
此時よりこの方蛇はわが友なりき、一匹《ひとつ》はこの時彼の頸にからめり、そのさまさながら我は汝にまた口をきかしめずといへるに似たりき 四―六
また一匹《ひとつ》はその腕にからみてはじめの如く彼を縛《いまし》め、かつ身をかたくその前に結びて彼にすこしも之を動かすをゆるさゞりき 七―九
あゝピストイアよ、ピストイアよ、汝の惡を行ふこと己《おの》が祖先の上に出づるに、何ぞ意を決して己を灰し、趾《あと》を世に絶つにいたらざる 一〇―一二
我は地獄の中なる諸※[#二の字点、1−2−22]の暗き獄《ひとや》を過ぎ、然も神にむかひてかく不遜なる魂を見ず、テーべの石垣より落ちし者だに之に及ばじ 一三―一五
かれ物言はで逃去りぬ、此時我は怒り滿々《みち/\》し一のチェンタウロ、何處《いづこ》にあるぞ、執拗《かたくな》なる者何處にあるぞとよばはりつゝ來るを見たり 一六―一八
思ふに彼が人の容《かたち》の連《つらな》れるところまでその背に負へるとき多くの蛇はマレムマの中にもあらぬなるべし 一九―二一
肩の上|項《うなじ》の後《うしろ》には一の龍翼をひらきて蟠まり、いであふ者あればみなこれを燒けり 二二―二四
わが師曰ひけるは、こはカーコとてアヴェンティーノ山の巖の下にしばしば血の湖《うみ》を造れるものなり 二五―二七
彼はその兄弟等と一の路を行かず、こは嘗てその近傍《あたり》にとゞまれる大いなる家畜《けもの》の群を謀りて掠めし事あるによりてなり 二八―三〇
またこの事ありしため、その歪《ゆが》める行《おこなひ》はエルクレの棒に罹りて止みたり、恐らくは彼百を受けしなるべし、然もその十をも覺ゆる事なかりき 三一―三三
彼斯く語れる間(彼過ぎゆけり)三《みつ》の魂我等の下に來れるを我も導者もしらざりしに 三四―三六
彼等さけびて汝等は誰ぞといへり、我等すなはち語ることをやめ、今は心を彼等にのみとめぬ 三七―三九
我は彼等を識らざりき、されど世にはかゝること偶然《ふと》ある習ひとて、そのひとり、チヤンファはいづこに止まるならんといひ 四〇―四二
その侶の名を呼ぶにいたれり、この故に我は導者の心をひかんためわ
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