はこびの長く續きもあへぬころ 四―六
貯藏《たくはへ》盡きしひとりの農夫、おきいでゝながむるに、野は悉く白ければ、その腰をうちて 七―九
我家《わがや》にかへり、かなたこなたに呟《つぶや》くさまさながら幸なき人のせんすべしらぬごとくなれども、のち再びいづるにおよびて 一〇―
世の顏|束《つか》の間にかはれるを見、あらたに望みを呼び起してつゑをとり、小羊を追ひ牧場にむかふ ―一五
かくの如く師はその額に亂《みだれ》をみせて我をおそれしめ、またかくの如く痛みはたゞちに藥をえたりき 一六―一八
そは我等壞れし橋にいたれる時、導者はわがさきに山の麓に見たりし如きうるはしき氣色《けしき》にてわがかたにむかひたればなり 一九―二一
かれまづよく崩壞《くづれ》をみ、心に思ひめぐらして後その腕《かひな》をひらきて我をかゝへ 二二―二四
且つ行ひ且つ量り常に預め事に備ふる人の如く我を一の巨岩《おほいは》の頂《いただき》に上げつゝ 二五―
目をほかの岩片《いはくづ》にとめ、これよりかの岩に縋《すが》るべし、されどまづその汝を支へうべきや否やをためしみよといふ ―三〇
こは衣を着し者の路にはあらじ、岩より岩を上りゆくは我等(彼輕く我押さるゝも)にだに難きわざなりき 三一―三三
若しこの堤の一側《かたがは》對面《むかひ》の側《かは》より短かゝらずば、彼のことはしらねど、我は全く力盡くるにいたれるなるべし 三四―三六
されどマーレボルジェはみないと低き坎《あな》の口にむかひて傾くがゆゑに、いづれの溪もそのさまこの理にもとづきて 三七―三九
彼岸《かのきし》高く此岸ひくし、我等はつひに最後の石の碎け散りたる處にいたれり 四〇―四二
上り終れる時はわが氣息《いき》いたく肺より搾《しぼ》られ、我また進むあたはざれば、着くとひとしくかしこに坐れり 四三―四五
師曰ひけるは、今より後汝つとめて怠慢《おこたり》に勝たざるべからず、夫れ軟毛《わたげ》の上に坐し、衾《ふすま》の下に臥してしかも美名《よきな》をうるものはなし 四六―四八
人これをえず徒《いたづら》にその生命《いのち》を終らば地上に殘すおのが記念《かたみ》はたゞ空《そら》の烟《けぶり》水の泡抹《うたかた》のみ 四九―五一
此故に起きよ、萬《よろづ》の戰ひに勝つ魂もし重き肉體と共になやみくづほるゝにあらずば之をもて喘《あへぎ》に勝て 五二―五四
是よりも長き段《きだ》のなは上るべきあり、これらを離るゝのみにて足らず、汝わが言《ことば》をさとらばその益を失ふなかれ 五五―五七
我乃ち身を起し、くるしき呼吸《いき》をおしかくしていひけるは、願はくは行け、身は強く心は堅し 五八―六〇
我等石橋を渡りて進むに、このわたりの路岩多く狹く艱くはるかにさきのものよりも嶮し 六一―六三
我はよわみをみせざらんため語りつゝあゆみゐたるに、忽ち次の濠の中より語を成すにいたらざる一の聲いでぬ 六四―六六
この時我は既にこゝにかゝれる弓門《アルコ》の頂にありしかども、その何をいへるやをしらず、されど語れるものは怒りを起せし如くなりき 六七―六九
我は俯《うつむ》きたりき、されど闇のために生ける目底にゆくをえざれば、すなはち我、師よ請ふ次の堤にいたれ 七〇―
しかして我等石垣をくだらん、そはこゝにてはわれ聞けどもさとらず、見れども認《したゝ》むるものなければなり ―七五
彼曰ふ、行ふの外我に答なし、正しき願ひには所爲《わざ》たゞ默《もだ》して從ふべきなり 七六―七八
我等は橋をその一端、第八の岸と連れるところに下れり、この時|嚢《ボルジヤ》の状《さま》あきらかになりて 七九―八一
我見しに中にはおそろしき蛇の群ありき、類《たぐひ》いと奇《くす》しく、その記憶はいまなほわが血を凍らしむ 八二―八四
リビヤも此後その砂に誇らざれ、たとひこの地ケリドリ、ヤクリ、ファレー、チェンクリ、アムフィシベナを出すとも 八五―八七
またこれにエチオピアの全地または紅海の邊《ほとり》のものを加ふとも、かく多きかくあしき毒を流せることはあらじ 八八―九〇
この猛くしていとものすごき群のなかを孔をも血石《エリトロピア》をも求めうるの望みなき裸なる民おぢおそれて走りゐたり 九一―九三
蛇は彼等の手を後方《うしろ》に縛《いま》しめ、尾と頭にて腰を刺し、また前方《まへ》にからめり 九四―九六
こゝに見よ、こなたの岸近く立てるひとりの者にむかひて一匹の蛇飛び行き、頸と肩と結びあふところを刺せり 九七―九九
oまたはiを書くともかく早からじとおもはるゝばかりに彼は忽ち火をうけて燃え、全く灰となりて倒るゝの外すべなかりき 一〇〇―一〇二
彼かく頽《くづ》れて地にありしに、塵おのづからあつまりてたゞちにもとの身となれり 一〇三―一〇五
名高き聖等《ひじりたち》またかゝる
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