なりき 六四―六六
その怒りあらだつさまはさながら立止《たちど》まりてうちつけに物乞ふ乞食《かたゐ》にむかひて群犬《むらいぬ》はせいづる時の如く 六七―六九
小橋の下より出でし鬼共みなその鐡搭《くまで》を彼にむけたり、されど彼よばゝりていふ、汝等いづれも惡意をいだくことなかれ 七〇―七二
鐡搭《くまで》の我をとらふる前に、汝等のひとりすゝみいでゝわがいふところのことをきゝ、のち相謀りて我を之にかくべきや否やをさだめよ 七三―七五
彼等皆叫びてマラコダ行くべしといふ、即ちその一者《ひとり》進み出で(他《ほか》はみな止まれり)かくするも彼に何の益かあるといひつゝ彼に近づけり 七六―七八
わが師曰ひけるは、マラコダよ、われ天意冥助によらずして今に至るまですべて汝等の障礙《しやうげ》をまのかれ 七九―
こゝに來るをうべしと汝思ふや、我等を行かしめよ、わがこの荒れたる路をひとりの者に教ふるも天の定むるところなればなり ―八四
此時彼の慢心折れ、彼は鐡搭《くまで》をあしもとにおとして彼等にいふ、かくては彼を撃ちがたし 八五―八七
導者我に、橋の岩間にうづくまる者よ、いまは安らかにわがもとにかへれ 八八―九〇
我いでゝいそぎて彼の處にいたれば、鬼こと/″\く進みいづ、我はすなはち彼等が約を履まざらんことをおそれぬ 九一―九三
嘗て契約によりてカープロナをいでし歩兵の一軍群がる敵の間にありてまたかく恐るゝを見しことあり 九四―九六
我は全身を近くわが導者によせ、目をよからぬ彼等の姿より放つことなかりき 九七―九九
彼等は鐡鉤《かぎ》をおろせり、その一者《ひとり》他《ほか》の一者《ひとり》にいふ、汝わが彼の臀《しり》に觸るゝをねがふや、彼等答へて、然り一撃《ひとうち》彼にあつべしといふ
されどわが導者と言《ことば》をまじへし鬼たゞちにふりかへりて、措《お》け措け、スカルミリオネといひ 一〇三―一〇五
さて我等に曰ひけるは、是より先はこの石橋をゆきがたし、第六の弓門《アルコ》悉く碎けて底にあればなり 一〇六―一〇八
されば汝等なほさきに行くをねがはゞこの堤を傳ひてゆくべし、近き處にいま一の石橋あり、これぞ路なる 一〇九―一一一
昨日《きのふ》は今より五時の後にてこの路こゝにくづれしこのかた千二百六十六年を滿たせり 一一二―一一四
我は此等の部下を分ちてかなたに遣はし、身を干《ほ》す者のありや否やを見せしむべければ、汝等之と共に行け、彼等禍ひをなすことあらじ 一一五―一一七
又曰ひけるは、出でよアーリキーノ、カルカブリーナ、汝も出でよカーニヤッツオ、バルバリッチヤ汝は十の者を率ゐよ 一一八―一二〇
進めリビコッコ、ドラギニヤッツォ、牙《きんば》のチリアット、グラッフィアカーネ、ファールファレルロ、狂へるルビカンテ 一二一―一二三
煮ゆる黐《もち》の邊《ほとり》を巡視《みめぐ》り、またこの多くの岩窟《いはあな》の上に隙《すき》なく懸れる次の岩まで此等の者をおくりゆけ 一二四―一二六
我曰ふ、あゝ師よ、これいかなる事の態《さま》ぞや、汝だに路を知らば我何ぞ道案内《みちしるべ》を要《もと》むべき、願はくはこれによらで我等のみ行かむ 一二七―一二九
汝常の如く心をもちゐなば、見ずや彼等の齒をかみあはせ、眉に殃《わざはひ》の兆《きざし》をあらはすを 一三〇―一三二
彼我に、請ふ汝恐るゝなかれ、彼等に好むがまゝに齒をかましめよ、彼等かくするは煮られてなやむ者のためのみ 一三三―一三五
彼等は折れて左の堤をとれり、されど各※[#二の字点、1−2−22]とまづその長《をさ》にむかひ、齒にて舌を緊《し》めて相圖とし 一三六―一三八
長《をさ》はその肛門を喇叭《らつぱ》となしき 一三九―一四一
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   第二十二曲

我嘗て騎兵の陣を進め、戰ひを開き、軍を整《とゝの》へ、或時はまた逃げのびんとて退くを見き 一―三
アレッツォ人《びと》よ、我は或ひは喇叭《らつぱ》或ひは鐘或ひは太鼓或ひは城の相圖或ひは本國異邦の物にあはせ 四―六
進んで偵《うかゞ》ふもの襲うて掠むるもの汝等の地にわしり、また軍軍と武を競ひ、兵兵と技を爭ふを見き 七―九
されど未だかく奇《くす》しき笛にあはせて歩騎動き、陸《くが》または星をしるべに船進むをみしことあらじ 一〇―一二
我等は十の鬼と共に歩めり、げに兇猛なる伴侶《みちづれ》よ、されど聖徒と寺に浮浪漢《ごろつき》と酒肆《さかみせ》に 一三―一五
我心はたゞ脂《やに》にのみむかへり、こはこの嚢《ボルジヤ》とその中に燒かるゝ民の状態《ありさま》とを殘りなく見んためなりき 一六―一八
たとへば背の弓をもて水手《かこ》等をいましめ、彼等に船を救ふの途を求めしむる海豚《いるか》の如く 一九―二一
苦しみをかろめんため、をりふし罪人《つみびと
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