オて神を見るを得しめん爲まづ強き光に慣《な》れしむ。但し蝋燭の譬明らかならず、或ひは單に求むる光の強弱に從つて蝋燭を整ふる如く聖徒をして神の光に堪へうるやう豫め備へしむる意か
五八―六〇
【防ぎ】堪へ
六一―六三
【春】春の花(淨、二八・四九―五一參照)
六四―六六
河は神恩の光、火(原、火花)は天使、花は聖徒なり。ブーチ曰く、生くる火花流れより出でゝ花にとゞまる、これ神恩滿ちみつる天使(たえず神の愛に燃ゆるがゆゑに火花といふ)かの神の惠みによりて常に徳を行ふ(草は善行なり)聖徒達の魂を勵ますなりと
七三―七五
汝己が求知の願ひをかなへんと欲せば、まづこの光の流れを見、これによりていかなる物をもそのあるがまゝに見るをうるまで汝の視力を強くせよ
【日輪】ベアトリーチェ、即ちわが智を照らすもの(天、三・一參照)
七六―七八
【珠】topazii(黄玉)、「生くる火」のこと
【草の微笑】草を飾る花
【豫め示す象】原、「象徴的序論」ブランクの言に從へば、序が作物の内容を示す如く、河や火はその實際のものを(即ちやがてダンテの目に明らかに見ゆべきものを)前以て示す象《かたち》に外ならずとの義
七九―八一
【難き】acerbe(未熟なる)解し難き。但し不完全なるの意に解する人あり
八五―八七
【目を】わが視力をなほも強からしめんとて
【優れる】視る者の能力を増さん爲神より出づる光なれば
八八―九〇
【わが瞼の】わが目この光に觸れたる刹那に
九四―九六
【悦び】feste 樂しき光景。花は聖徒に、火は天使に變れるなり
九七―九九
【凱旋】天上に凱歌を奏する天使と聖徒
一〇〇―一〇二
【光】さきに河と見えし光
一〇三―一〇五
【日輪の帶】當時信ぜられし太陽の大きさについては『コンヴィヴィオ』四・八・五一以下參照
【圓形】註釋者曰く。圓は始めなく終りなし、是故に昔あり今あり後ある永遠の象徴なりと
一〇六―一〇八
かく大いなる圓形の光も神よりいづる一線《ひとすぢ》の光に過ぎず、プリーモ・モービレの天はこの光を受けてその生命(運行)と力(下方に及ぼす影響)とを得
一一二―一一四
聖徒等かの光の周圍に無數の列を造りて己をこれに映《うつ》す、而してその列外部に向ふに從つて次第に高く、あたかも圓形の劇場の如し、今全光景を薔薇の花と見なせば、中央の光は花の中心の黄なるところに當り周圍の列は花瓣にあたる
一一五―一一七
【いと低き】かの光に接する最小の列さへ太陽よりも大いなるに
一一八―一二〇
【かの悦びの】全光景を一目に視てそこに滿つる悦びの大いさ深さをすべて知りたり
一二一―一二三
【近きも遠きも】エムピレオの天にては距離の遠近も視力に影響を及ぼさず、遠き物近き物皆等しく明かに見ゆ
一二四―一二六
【日輪】神。「とこしへに春ならしむ」とはその榮光をもて永遠に天の萬軍を福ならしむること
一二七―一二九
【白衣の群】聖徒等白衣を着ること默示録の諸處に見ゆ(三・五、四・四等)
一三〇―一三二
【われらの都】所謂天上のイエルサレム(默示、二一・一〇以下參照)
一三三―一三五
【汝の未だ】汝の死せざるさきに。ハインリヒ七世はダンテに先立つこと八年にして死せり
【婚筵に】これに列りて食するは天上の福を享《う》くるなり(天、二四・一―三並びに註參照)
一三六―一三八
【アルリーゴ】ルクセンブルクのハインリヒ七世。一三〇八年十一月選ばれて皇帝となり、一三一三年八月死す、ダンテはイタリアの統一事業の完成につきて彼に多くの望みを囑しゐたりしなり
【その備への】ハインリヒの企業を妨ぐべき種々の障礙の取除かれざるさきに
一三九―一四一
皇帝(乳母[#「乳母」に白丸傍点])に反抗せるグエルフィ黨及び寺院の一派を主としてこゝに責めしなり
一四二―一四四
【者】クレメンス五世、陰に陽にハインリヒの敵となれる者(天、一七・八二―四並びに註參照)
【その時】ハインリヒがイタリアにいたれるは一三一一年にてその頃法王たりし者は即ちクレメンス五世なり
【神の廳】寺院
一四五―一四七
【後】ハインリヒの敵となりてその企圖を妨げし後、換言すればハインリヒの死後。クレメンスは一三一四年四月即ち皇帝の死後八ヶ月にして死せり
【シモン・マーゴ】地、一九・一並びに註參照
【處】第八獄第三嚢
【投げ入られ】地、一九・八二―四參照
一四八
【アラーニア人】ボニファキウス八世(淨、二〇・八五―七註參照)
【愈※[#二の字点、1−2−22]深く】孔の中に(地、一九・七九―八四並びに註參照)


    第三十一曲

ベアトリーチェその榮光の座に歸り、聖ベルナルドゥスをして己に代りてダンテの最後の導者たらしむ、ダンテ即ちこの導者の言に從ひ遍く天上の薔薇を見かつ特に聖母の光明を仰望す
一―三
【血をもて】死によりて贖《あがな》ひえたる聖徒達
四―六
【殘の一軍】天使達
【ものゝ】神の榮光と威徳とを
七―九
【ところ】巣。即ち働きてえたるものを甘き蜜となすところ
一〇―一二
【愛】神
一三―一五
註釋者或ひは曰く。この三の色は愛、智、純の表象なりと
一六―一八
諸天使花の中に降り、神より得たる平和と愛とを聖徒達に傳ふ
【脇を扇ぎて】翼を動かして、即ち神の御許《みもと》に飛行きて
一九―二一
【上なる物】神の寶座《みくらゐ》
【目も輝も】目(薔薇の中にある者の)が輝(神の)を見ることも輝が目に達することも
二二―二四
【神の光】神の光はいたらぬくまなし、たゞ多く受くるに足るもの多くこれを受け、然らざるもの少しくこれを受くるのみ(天、一・一以下參照)
【何物も】是故に天使達も
二五―二七
【舊き民新しき民】舊約新約兩時代の民
【一の目標】神
二八―三〇
【星】光。航海者の目標なる星に因みて(パッセリーニ)
【三重の光】一にして三なる神の光
【嵐を】天上の平安より思を地上の不安に致して神の祐助を祈るなり
三一―三三
【エリーチェ】カリスト。アルテミスに事《つか》へしニムフ(淨、二五・一三一並びに註參照)、化して宿星となる。こゝにては大熊星を指す
【愛兒】カリストの子アルカス、同じく化して宿星となる。こゝにては小熊星を指す
【方】逢か北の方、即ち大熊星の下に當る地方
三四―三六
【いかめしき業】宏大なる建築物等
【ラテラーノ】ローマの昔の皇居、但し一般にローマを代表す。皇居の莊麗他に類《たぐひ》なき頃といふはなほローマの全盛時代といふ如し
四三―四五
【誓願】その神殿に詣でんとの
四六―四八
【生くる光】天上の薔薇の
四九―五一
【微笑】喜びの光
【愛の勸むる】愛の現はるゝ(カーシーニ)。この句を「愛に誘ふ」即ち他の者を愛に導く意となす人あり
五八―六〇
【一人の翁】聖ベルナルドゥス(一〇九一―一一五三年)。フランス、ブルグンティーなるフォンティーヌに生れ、パリに學び、シトーの僧院に入り(一一一三年)、後多くの僧院をクレールヴォーに建設してこれが首僧たり、聖母を愛すること極めて深し、その著作に『デ・コンシデラチオネ』あり
聖ベルナルドゥスは默想を表示す、人默想によりて神恩を受け最もよく神を視るにいたるが故にベルナルドゥス淑女に代りてダンテに三一の微妙をうかゞふをえしむ、その聖母を深く愛することもまた詩人の最後の導者となれる一理由なり(ムーア『ダンテ研究』第二卷六二頁參照)
【榮光の民の如く】白し(天、三〇・一二九參照)
六四―六六
【彼何處に】名をいはず、情迫ればなり
六七―六九
【第三】第一列に聖母、第二列にエヴァ、第三列にラケルとベアトリーチェ(天、三二・四以下參照)
七〇―七二
【永遠の光】神の光ベアトリーチェに注ぎ、反映《てりかへ》してその冠となりゐたり。聖書に見ゆる輪《わ》後光は即ち受福者の福祉の象徴
七三―七八
人間の眼千尋の海の底深く沈みてその處より仰ぎ見ることありとも、その眼と地上の大氣の最《いと》高き處との間の距離は、わが目とベアトリーチェとの間の距離に及ばじ、されど我善く彼の姿を見たり、これかしこにては人が地上にて物を見る時の如く空氣や水などの物體を透して見るにあらですべて直觀によるが故に視力一切の距離に超越すればなり
【沈む】s'abbandona 沈むに任《まか》す意
七九―八一
以下九〇行まで、ダンテがベアトリーチェに語れる最後の詞にて、彼のこの淑女に對する愛と感謝と願ひとを言現はせるもの
【地獄に】地獄のリムボに(地、二・五二以下)
八二―八四
【見し】三界の歴程において
【思惠と強さ】我をしてかく視ることをえしめし神恩と力。これらの物はわが功徳より生るゝならで汝の力汝の徳よりいづ
八五―八七
【奴僕の役】罪の束縛
【自由】靈の
八八―九〇
【賜】即ち眞の自由
九一―九三
【永遠の泉】生命の泉、福の源なる神
九四―九六
【願ひと聖なる愛】ベアトリーチェのベルナルドゥスに請ひしことゝ淑女のダンテに對する愛
九七―九九
【園】聖徒の群(天、二三・七一參照)
【神の光を】神恩の光を傳ひて遂に神を見るをうべし
一〇〇―一〇二
【天の女王】聖母マリア
一〇三―一〇五
【わが】わがイタリアなる
【ヴェロニカ】Veronica(眞の像の義)。キリストの容貌を寫しとゞめし汗巾《あせふき》
傳説に曰く。キリスト十字架につけられんとてカルヴァーリにいたり給ふ、途に一婦人(或ひは曰く、ヴェロニカはこの婦人の名と)あり、主にその汗を拭はん爲汗巾を捧ぐ、主拭ひ終りて返し給へば聖顏まさしくその汗巾に寫りゐたりと。この汗巾はローマなる聖ピエートロの寺院に保存せられ(今も然り)たれば人々これを見んとて四方よりかの寺院に詣できといふ
【クロアツィア】今、ユーゴスラヴィアの南部の地方の名。但し一般に遠國を指す
一〇六―一〇八
【示さるゝ間】日を定めて人に見する例なりければ
一〇九―一一一
【現世にて】天上無窮の福を地上にて既に默想の中に味へる者、即ちベルナルドゥスの、聖なる愛に燃ゆる姿を見
一一八―一二〇
【まさる】光において
一二一―一二三
【溪より山に】薔薇のいと低き處よりそのいと高き列に日を移すをたとへて
【頂】山に因《ちな》みて薔薇の上部を指す
一二四―一二六
また譬へば太陽の將に現はれんとする處にては最《いと》強き光あり、其他の處にては距離(日出點よりの)の大なるに從つて光次第に衰ふる如く。
【フェトンテ】地、一七・一〇六以下並びに註參照。轅[#「轅」に白丸傍点]は日の車の轅
一二七―一二九
【平和の焔章旗】マリアの座を中心とせる天の一部
オリアヒアムマ(黄金の焔の義)は古のフランス諸王の旗なり、こは天使ガブリエルがかの王達に與へしものにてその下に戰ふ者勝たずといふことなしと傳ふ
この旗は黄金地に焔をあらはし出せるものなれはダンテは光に因みてかの天の一部を焔章旗といひ、地上戰鬪の旗に對して平和の文字を冠せるなり
一三〇―一三二
【技】飛びめぐるさまをいふ、その異なるは遲速あるなり。カーシーニ曰く、輝の異なるは愛の同じからざるを表はし、技の異なるは悦びの同じからざるを表はすと
一三三―一三五
【美】マリア
一三六―一三八
【その樂しさ】マリアの美のたのしさ


    第三十二曲

聖ベルナルドゥス天上の薔薇における諸聖徒着座のさまをダンテに示教し、かつ彼をして聖母の温容を仰ぎ視しむ
一―三
【己が悦び】聖母マリア
四―六
【庇】罪の。マリア、キリストによりてこの庇を癒せり
【美しき女】エヴァ。神の直接に造り給へる者なれはいと美し。かれは禁斷の木の實をくらひて罪を犯し、かつこれをアダムに與へて子々孫々の禍ひを釀せり
七―九
【ラケール】ラケル。默想の生を表示す(淨、二七・一〇四並びに註參照)。またラケルのベアトリーチェと共に坐すること地、二・一〇一―二に見ゆ
一〇―一二
【サラ】アブラハム(地、四・五八)の妻(創世、一一・二九及び一七・一五等)
【レベッカ】イサク(地、四・五九)の妻(創世、二四・二以下)
【ユディット】ヘブライ族の勇婦(淨、一二・五八―六〇註參照)
【歌人】王ダヴィデ。詩篇五一(この歌 Mise
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