z使徒パウロ(地、二・二八―三〇並びに註參照)。パウロは天上にて得し知識をばディオニュシオスに傳へたりと信ぜられしによりてかく
【輪】天使の輪


    第二十九曲

ベアトリーチェ天使を論ず
一―六
ベアトリーチェの默しゝ間の極めて短きを譬へにて表はせり。白羊宮は天秤宮と正反對面にあり、晝夜平分の頃日月の一白羊宮に一天秤宮にありて同時に地平線に懸ればそが天心を距ること共に相等しきが故にあたかも天心の秤《はかり》その平準を保つ如し、されど忽ちにして一は地平線上に昇り一は地平線下に降り、二者半球を異にするにいたる
【ラートナのふたりの子】日月(淨、二〇・一三〇―三二註參照)
【權衡を保つ】この項異本多し、委しくはムーアの『神曲用語批判』四九五頁以下參照
七―九
【一點】神(天、二八・一六)
一〇―一二
【處と時】一切の處一切の時皆神に集まる。神の知り給はざる處なく時なし
一三―一五
以下四八行まで、天使創造の理由、時、及び處等を論ず。この一聯にては萬物の創造がたゞ神の愛より出づるこれとをいへり、神は至上の幸にいませば己が幸を増すの要なし、たゞその榮光の顯現なる被造物をして各※[#二の字点、1−2−22]悦びても存在を保つをえしめんため
【その光】神の榮光の反映なる被造物
【我在りといふ】萬物各※[#二の字点、1−2−22]その存在を自覺して喜ぶこと
一六―一八
【他の一切の限】處。萬物創造の後始めて時間空間あり
【新しき愛】被造物。「永遠の愛」即ち神に對して
一九―二一
創造の御業《みわざ》は時間を超越する永遠のうちに行はれしものにて、これに先後なるものなし、創造の後には時間あれどもその前には時間なきがゆゑに創造の常に神休らひゐ給へりとはいひ難し
【これらの水の上に】創世記一の二に「神の靈諸※[#二の字点、1−2−22]の水の面《おもて》に動けり」とあるによる、この一句なほ「創造の御業は」といふ如し
二二―二四
純なる形式(三一―三行註參照)、純なる物質、及び形式と物質との相混ぜるもの同時に神の聖旨《みむね》より出で、聖旨に適ふものとなりたり
二五―二七
光線が透明體を照らすとその中に入終るとは殆んど同時の作用なるごとく
二八―三〇
形式、物質及びこの二者の結合せるもの皆直ちにその存在を全うし、いづれも成り始むると成り終るとの間に時の區別なし
以上の三聯にてベアトリーチェは創造が凡て同時にかつ瞬時に行はれしことをいへり。註繹者曰く、ダンテはこの説においてアウグスティヌス、ペトルス・ロムバルドゥス及びトマス・アクイナスに從へりと
三一―三三
【時を同じうして】以上三つの物の造らるゝと同時に
【純なる作用を】作用の純なる者即ち純なる形式(諸天使)
「物その形式を有するにいたれば直ちにこれに從つて作用をあらはすが故に」トマス・アクイナスはその『神學大全』において「形式は即ち作用なり」といへり(ノルトン註參照)
【宇宙の頂となり】エムピレオの天に置かれ
三四―三六
【純なる勢能】他の作用を受くるに過ぎざる者即ち純なる物質
【最低處】月天の下
【中央には】天使と地球の間には形式と物質との固く相結ばれる者即ち他の作用を受けつゝ他に作用を及ぼす諸天(天、二・一二一―三參照)置かる
三七―三九
【イエロニモ】ヒエロニムス。ラテン寺院の聖父にて、その譯にかゝるヴルガータ最も著はる(四二〇年死)
【録せる】テモテ書一・二の註に。トマスはその『神學大全』においてヒエロニムスの説を駁せり
四〇―四二
【眞】天使達が殘りの宇宙と同時に造られしこと
【作者達】聖經諸事の作者等。但し出處明らかならず、註釋者は「エクレジアスチクス」十八の一なる「永生者時を同うして萬物を造り給へり」及び創世記一の一(トマス曰く。太初に神天地を造り給へりと創世記一の一に見ゆ、もしこれらより先に造られし物あらばこの事眞ならじ、是故に天使は形體的自然より先に造られたるにあらずと)を擧ぐ
四三―四五
【諸※[#二の字点、1−2−22]の動者】諸天を司る天使達
【全からざりし】運行すべき諸天なくば運行を司る諸天使何ぞその務を果すをえむ、務を果す能はざるはその存在の意義なきなり、全からざること知るべし
四六―四八
【これらの愛】即ち天使
【いづこに】「宇宙の頂となり」(三二―三行)といひ、かれらがエムピレオの天にて造られし意を表はせばなり
【いつ】その餘の宇宙と同時に(一三行以下)
【いかに】「純なる作用」(三三行)として
四九―五一
以下六六行まで、背ける天使と忠なる天使とについて
【二十まで】當時の神學説に從ひ、天使の創造とその一部の墮落とが殆ど同時なりしをいへり
【汝等の原素】地水火風の四原素、その中最下方に在る物は地
【亂し】地、三四・一二一以下參照
五二―五四
【技】神(一點[#「一點」に白丸傍点])のまはりを舞ひめぐること
五五―五七
【墮落】天使の一部の
【宇宙一切の重さに】即ち地球の中心にありて(地、三四・一一一並びに註參照)
【者】魔王ルチーフェロ
五八―六〇
【善】神の
【悟る】神を
六一―六三
【功徳】謙りて神恩を受くること(次聯參照)
【視る】神を
【意志備りて】罪を犯す能はざるまで
六四―六六
【恩惠を】神恩を受くるはその事既に功徳なり、而して喜びて神恩を迎へ入るゝ情愈※[#二の字点、1−2−22]切なればこの功徳またいよ/\大なり
六七―六九
【集會】天使達
七〇―七二
以下八四行まで、天使の能力について。ベアトリーチェは天使に了知及び意志あることを否定せず、されど記憶あることを絶對に否定す、即ちこの點においてやゝトマスの説と違へり
七三―七五
【言葉の明らかならざる】特に記憶について言ふ、即ちこの語を普通に用ゐらるゝ意義に從つて一觀念または一事實を再び心に呼起す力とする場合の如し、天使はかゝる力を有せず、有するの要なければなり
七六―八一
神は一切の事物を視給ふ、故に一切の事物皆現在なり、諸天使また絶えず神の鏡に照してよく一切の事物を視る、故に新しき物入來りてその視る力を阻むことなし、視る力|阻《はば》まれず忘るゝことあらずば何ぞまた憶ひ出づべきことあらむ
【新しき物】新しき物入來りて過去の事物の印象を亂す時、始めてこゝに忘るゝことあり思ひ起すの要生ず
【想の分れたる爲】per concetto diviso 印象心を離れ(新しき物のため)現に心に在らざるため、但し異説あり
八二―八四
【夢を見】眞理の基礎なき事物を想像し(天使に記憶ありといふ如き)
【罪も恥も】前者は夢を眞《まこと》と信ず、咎《とが》無智にあり、後者は自ら眞と信ぜずして虚榮の爲に眞なりといふ、咎惡意にあり
八五―八七
以下一二六行まで、ベアトリーチェは當時の説教者等を難ず
【同一の路】眞理に達するの路
八八―九〇
【曲げらる】曲解せらる
九一―九三
【血】殉教者の
九四―九六
【福音ものいはじ】説教者等福音を宣べ傳へずしてかゝる雜説にのみ空しく時を費すをいふ
九七―九九
福音の眞義に關係なき雜説の例を擧ぐ
【クリストの】キリスト磔殺の時地上遍く晦冥となりしを(マタイ、二七・四五等)日蝕の作用に歸せんとてこの説を爲す
【月退りて】當時月は太陽と反對の天にあり、故に地球と太陽との中間を隔てん爲には後退すること六天宮ならざるべからず
一〇〇―一〇二
また或人は曰ふ、こは月の爲ならず太陽自らその光を隱せる爲なれば、地上の闇は西の際涯《はて》より東の際涯に及びたりと
一〇三―一〇五
【ラーポとビンド】中古フィレンツェに最も多く用ゐられし名にてラーボはヤーコポの略、ビンドはヒルデブランドの略なりといふ
一〇六―一〇八
【羊】信徒
【己が禍ひを】益なき雜説を聞きて寺より歸るは無智の爲なれど、極めて肝要なる靈の糧につきてかく無智に、いかなる牧者にも信頼するは信徒自身その罪なきにあらざるなり
一〇九―一一一
【眞の礎】福音の眞理
一一五―一一七
【僧帽脹る】説教僧に自得の色あり
一一八―一二〇
【鳥】鬼(地、二二・九六參照)。聖靈の導によらず惡魔の靈感によりて言を發す、人もしその眞相を知らば罪の赦を得んとてかゝる僧に就くことの無益有害なるを覺らむ
一二一―一二三
【是においてか】教へを説く者かくの如くなるがゆゑに
【證】法王より赦罪の權を委ねられたりとの證。約束[#「約束」に白丸傍点]は即ち赦罪の約束
一二四―一二六
【聖アントニオ】聖アントニウス。エジプトの隱者にて僧院生活の基を起せる者(二五一―三五六年)。こゝにてはこの派に屬する僧侶等を指す、かれら施物をもて豚を飼ふ、フィレンツェ市にてもこれらの豚或ひは街路にさまよひ或ひは人家に闖入して市民の累となりしかど市民あへてその自由を妨げざりきといふ
【贋造の貨幣を拂ひ】無效なる赦罪を賣物として
【これにより】人々の愚にして信じ易きこと(一二一―三行)により
【豚より穢れし者】妾や墮落せる僧等
一二七―一二九
以下天使の數と天使における神の榮光の顯現とを論ず
【正路】天使論
【時とともに】この天に止まるべき時少くなりぬ、さればその少きに應じて疾くかの論を進むるをよしとす
一三三―一三五
【ダニエール】ダニエル書七・一〇
一三六―一三八
【第一の光】神の光
【諸※[#二の字点、1−2−22]の輝】諸天使。かれら皆神の光を受くれど受くる度各異なるが故にその異なる度の數は天使の數と相等し
一三九―一四一
神より受くる光多ければ神を見神を知ること(會得の作用)從つて多く、神を知ること多ければ神を愛することまた深し(天、二八・一〇九以下參照)、是故に神に對する諸天使の愛各※[#二の字点、1−2−22]その強さを異にす
一四二―一四五

【鏡】天使。神はその光をかく多くの天使に分ち與へ給へどその完全なること故の如し


    第三十曲

ダンテ、ベアトリーチェとともにエムピレオの天にいたりて天上の薔薇を見る
一―三
以下の數聯にて、諸天使の輪の次第に見えずなれるを、曙の光のため空の星の次第に消ゆるに譬へたり
【第六時】正午
【六千マイル】ダンテは地球の周圍を二萬四百マイルとなせり(『コンヴィヴィオ』三・五・八○以下參照)、ゆゑに太陽六千マイルの東にある時はその地日出前約一時なり(ムーア『ダンテ研究』第三卷五八・一九頁參照)
【この世界の】地球はその圓錐状の陰を殆んど水平に西に投ず
七―九
【侍女】曙
一〇―一二
【己が包むものに】神(一點の光明)はかの天使の諸群に包み圍まると見ゆれども、實際はかれらを他の一切の被造物と同じく包容し給ふ
一六―一八
【務】vice 彼の事を敍すべき務。但し異説あり
二二―二四
【喜曲、悲曲】註釋者曰く。こは廣義の喜曲悲曲にて今の所謂喜劇悲劇の意に非ず、すべて詩風詩體の甚だ崇高醇雅なる作品を悲曲といひ、そのさまでならざるものを喜曲といへる中古の例に據《よ》りしなりと
二五―二七
【わが心より】わが心の作用《はたらき》を弱めて、憶ひ出づること能はざらしむ
三四―三六
ベアトリーチェの美は我にまさる詩人ならでは敍し難しとの意
【ほどに】ほどいと美しく
三七―三九
【最《いと》大いなる體】第九天
【光の天】エムピレオの天
四〇―四二
註釋者曰く。幸福の三段この中にあり、(一)智の光によりて神を見、(二)見て愛し、(三)愛して法悦に入る
四三―四五
【二隊の軍】天使と聖徒
【一隊を】聖徒達は光の中にかくれず、肉體そのまゝの姿にて汝に現はれむ
【最後の審判】この時至れば人間の靈再び肉の衣を着ること前に出づ(地、六・九八參照)
四六―五一
天堂の強き光にあたりてダンテの視力亂れ何物をも見る能はざりしをいふ
【物見る諸※[#二の字点、1−2−22]の靈】天、二六・七〇―七二並びに註參照
【いと強き物】極めて強く輝く物。強き光の爲視力一たび亂るれば、いかに燦かなる物といへどもその印象を目に與へざるにいたる
五二―五四
ベアトリーチェの詞
【愛】神、即ちエムピレオの天に平安を與へ給ふ者
【かゝる會釋】かく強き光
【蝋燭を】天堂に入來る聖徒を
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