ストの死即ちアダムがリムボを出でし時より神曲示現の年までは千二百六十六年(地、二一・一一二―四並びに註參照)なればアダムの造られし時よりこの時に至るまでの間はすべて六千四百九十八年なり
ダンテは古の史家の説に從ひ、人類の創造よりキリストの死にいたるまでの間を五千二百三十二年となせるなり
【處】地獄のリムボ。ベアトリーチェこゝに降りウェルギリウスに請ひてダンテの急を救はしむ(地、二・五二以下參照)
【この】天上の諸聖徒の
一二一―一二三
【すべての光】太陽が一年間に通過する十二宮の星
一二四―一二六
以下一三八行まで第四問の答
【ネムブロット】バベルの高塔(成し終へ難き業[#「成し終へ難き業」に白丸傍点])の建築者として(地、三一・七六―八並びに註及び淨、一二・三四―六並びに註參照)
【悉く絶え】ダンテは『デ・ウルガーリ・エーロクエンチアー』(一・六・四九以下)に、アダムの用ゐし言葉がバベルの高塔建築の時まで用ゐられその後もヘブライ人によりて用ゐられしこと即ちアダムの言葉はヘブライ語なりしことをいへり、こゝにてはこの説を正してかく
一二七―一二九
【天にともなひて】星辰の影響に從つて
【理性より生じ】言語もまた理性の一産物なり
一三〇―一三二
思想感情を表白するは自然の作用なれども、その方法にいたりては人間自由の選擇に屬す
一三三―一三五
われ在世の頃神はI《イ》と呼ばれたり
Iの由來知り難し、恐らくはダンテの創意ならむ、アダムの用ゐし言語はすべて絶えたりといへば、ダンテの示さゞるかぎり、その意推し量《はか》らんやうなし
この語と一三六行の EL については異本多し(委しくはムーアの『神曲用語批判』四八六頁以下及びスカルタッツィニ註參照)
一三六―一三八
【EL】ヘブライの古語にて強き者の義なりといふ。この語『デ・ウルガーリ・エーロクエンチアー』一、四・二九にも見ゆ、但しアダムの用ゐし語として
一三九―一四二
第二問の答
【山】淨火の山、こゝにてはその巓にある樂園を指す
【第一時より】第一時は日出時に始まる、今傳説に從ひ天地の創造を春とすれば日出は午前六時頃なり、故にアダムが樂園に在りし間は午前六時頃より正午乃至午後一時(第七時)までの間即ち六時間乃至七時間なり
【日の象限を】太陽が象限、即ち圓の四分の一(六時間の行程、晝夜平分時にては日出より正午まで)を轉り終りて他の四分の一にさしかゝるとき、第六時終りて第七時これに次ぐ
アダムの樂園に在りし間の時については古より種々の想像説あり、短きは數時間長きは三十四年なりき、ダンテは前説に從へり
第二十七曲
聖ピエートロ(ペテロ)その繼承者の腐敗を嘆ず、かくて全衆みなエムピレオの天に歸れば、ダンテは俯きてわが世界を見、後ベアトリーチェと共に第九天(プリーモ・モービレ)にいたる
四―六
【耳よりも目よりも】天堂の歌の妙《たへ》なるに醉ひ、また全衆がさながら宇宙の一微笑の如くその悦びを表はしつゝ美しき光を放つ光景に醉ひ
七―九
【富】天上の聖徒達はその富即ち福を失ふの恐れなく、またその福にてすべて足るがゆゑに他に求むる物あらじ
一〇―一二
【四の燈火】三使徒とアダム。この中最初に來れるものはピエートロなり(天、二四・一九以下)
一三―一五
義憤の爲聖ピエートロの光赤色に變ず
【木星もし】木星もし火星と光を交換し、その白色變じて赤色とならば
一六―一八
【次序と任務とを】天上にては言ふにも默すにも動くにも止まるにも各※[#二の字点、1−2−22]その時(次序)あり、聖徒達は各※[#二の字点、1−2−22]この次第に從つて或は言ひ或は動く(任務)、しかしてこれを定むる者は即ち神なり
一九―二一
【是等の者】共通の情は諸聖徒をしてペテロと同じく義憤を起さしむ
二二―二四
【わが地位】法王の位(ペテロは地上最初の法王なればなり)。これを奪ふ者とは主として神曲示現當時の法王ボニファキウス八世を指す
【神の子の】その器に非ずしてその位に坐す、是即ち纂奪者也、たとひ世に法王と認めらるともキリスト、法王と認め給はじ、特にボニアァキウスは墮地獄の罪人かつは不正行爲によりて法王となれる者なれば(地、三・五八―六〇註及び地、一九・五二以下參照)位に在りとも無きに等し
二五―二七
【わが墓所】ローマ。傳説によれば使徒ピエートロかの地に葬らる
【血と穢との溝】無辜《むこ》の血の流され(地、二七・八五以下參照)種々の罪惡の行はるゝところ
【悖れる者】ルチーフェロ。神に背きて天より逐はれし魔王は聖なるローマが罪惡の府となれるを見、地獄にありてその心を慰むるなり
二八―三〇
【色】赤色。オウィディウスの『メタモルフォセス』(三・一八三以下)に、衣を脱ぎしディアナの姿を敍して「對へる日の光に染みし叢雲《むらくも》の色、または紅の朝の色」云々とあるに據れり
三一―三三
【淑女】身に恥づることなけれど、他人の罪を聞くに恥ぢてその顏を赤くす
三四―三六
【此類なき威能】キリスト。十字架上に死し給ひし時天暗くなりしこと聖書に見ゆ(マタイ、二七・四五等)。白色の光赤色に變じ、歡樂喜悦の光景悲憤のそれに變じたるを形容してかく
四〇―四二
【クリストの新婦】寺院。天、一〇・一三九―四一に「神の新婦」といへるもの
【わが血及び】われピエートロ及び初代の法王達が教へに殉じて寺院の基を起しかつこれを固めしは
【リーン、クレート】リーヌス、クレートゥス。いづれも一世紀にローマの僧正たりし殉教者
四三―四五
【樂しき生】天上無窮の幸福
【シスト、ピオ、カーリスト、ウルバーノ】いづれも二三世紀頃ローマの僧正たりし殉教者
四六―四八
同じ教へを奉ずる民相分れ、一は法王の右に坐してその愛顧を得、一は法王の左に坐してその憎惡を受くることはわれらの志にあらざりき
ダンテの時代における朋黨を指していへり、即ちグエルフィが法王の寵を得ギベルリニがこれに敵視せられしこと。但し左右[#「左右」に白丸傍点]の語は聖者より出づ(マタイ、二五・三三)
四九―五一
キリストの我に委ね給ひし天國の鑰を旗標《はたじるし》として同じキリスト教徒と戰ふこともわれらの志にあらざりき
十三世紀の頃法王の軍は寺院の鑰の標《しるし》をその軍旗に用ゐきといふ
【受洗者と戰ふ】主としてボニファキウス八世がコロンナ一家と戰へるを指す、地、二七・八八に「その敵はいづれもキリスト教徒にて」といへるもの即ち是
五二―五四
法王等がわれペテロの像を表はせる印をその文書に捺してシモニアを行ひ人を僞ることもわれらの志にあらざりき
五五―五七
【暴き狼】強慾非道の僧侶等。この語聖書より出づ(マタイ、七・一五)
五八―六〇
聖ペテロの豫言
【カオルサ人等】カオルサ(南フランス)の人にて一三一六年法王となりしヨハンネス二十二世(天、一八・一三〇以下並びに註參照)及びその一味の者
【グアスコニア人等】フランスのガスコエアの人にて一三〇五年法王となりしクレメンス五世(地、一九・八二―四並びに註參照)及びその一味の者
【我等の血を】われらの血にて築き固めし寺院を横領し、その産を私せんとす
【善き始め】創立當時の寺院を指す
六一―六三
【シピオ】スキピオ。ローマの大將スキピオ、ハンニバルの軍を敗りローマをして世界の覇權を保たしむ(天、六・五二―四註參照)
六七―六九
冬の日雪花片々として地上の空より舞下る如く
【日輪天の】十二月より一月にかけて太陽が天の十二宮の一なる磨羯宮にある間
七〇―七二
【飾れる精氣】聖徒の光にて飾られし第八天
【凱旋の水氣】勝利の光に輝く聖徒
七九―八一
【はじめわが見し】天、二二・一二七以下。ダンテはかの時よりこの方東より西に九十度を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りゐたり(即ち六時間を經過して)
【第一帶】primo clima 古の地理學者は北半球を七帶に分てり、即ち日の最長限を標準として定めしものにてその幅同じからず、いづれも赤道と平行して東より西に亘る長百八十度なり、その第一帶は赤道以北十二度六分の五より二十度二分の一までの間を幅とす、ダンテの今居る處なる雙兒宮はかく地球の第一帶に當るべき天の一部にあり
【半よりその端に】帶の半即ちイエルサレムの子午線よりその端即ちイスパニアの子午線までの弧線(即ち九十度)。但しこはダンテが※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り終へし間の距離を示せるものにてダンテの位置をいへるにあらず
八二―八四
西の方にてはイスパニアのかなたに大西洋見え、東の方にてはフェニキアの岸見えたり
【ガーデ】ガデス。ジブラルタル海峽の附近にありと想像せられし島の名
【狂しき船路】大西洋、即ちオデュセウスが「櫂を翼として狂ひ飛び」(地、二六・一二五)しところ
【近く】西の方遠く大海を望むに對して
【エウローパ】エウロペ。フェニキア王アゲノルの女。ゼウス牡牛に化してこれを誘ひ背に載せて去る(『メタモルフォセス』二・八三二成下參照)。地、五・四に出づるミノスは即ちゼウスとエウロペの間の子なり
フェニキアの岸はイエルサレムと殆んどその子午線を同うす、故にフェニキアの岸を見たりといふは猶イエルサレムを見たりといふ如し
八五―八七
【一天宮餘】ダンテは雙兒宮に太陽は白羊宮にあり、而してこの二宮の間に金牛宮あれば一天宮餘といへり、即ち太陽は三十度餘さらに西に進みゐたるなり
【小さき麥場】人の世界(天、二二・一五一)
【なほ廣く】フェニキアの岸よりもなほ東の方を
イエルサレムの先の見えざるは眼界の限られたるに非ずして日の光の及はざるなり、即ちこの時はガーデの正午イエルサレムの日沒と知るべし、ダンテは太陽より後るゝこと一天宮餘なれば註釋者或ひはその位置をイタリア(ガデスより四十五度。但しダンテの計算に從ふ)の直上《まうへ》とす
天、二二における俯瞰當時の太陽は即ちイエルサレムの子午線にあり、故にダンテは東の方ガンゼを見るをえ、その後二時間餘にして西の方ガデスを見るを得、さればダンテが雙兒宮にありて全地を視るに要する時間は即ちこの二時間餘なり
この項の解説概ねムーアに從ふ、委しくはその『ダンテ研究』第三卷六二頁以下を見よ(clima の解説については同書一三一頁以下參照)
八八―九〇
【常よりも】卑しき地球を見しによりて〈天、二二・一三六―八參照)
九一―九三
【自然や技】淨、三一・四九―五一參照
【餌】pasture(鳥を誘ふ爲の食物)美。自然は肉體に技は繪姿にその美を示す
九七―九九
【レーダの美しき巣】雙兒宮。レダ(レーダ)の二子カストルとポリュデウケースが雙兒宮の星となれりとの傳説に據る(淨、四・六一―三註參照)
【いと疾き天】プリーモ・モービレ(原動)。また全く透明なるによりて cielo Cristallino(水晶天)ともいふ(『コンヴィヴィオ』二、四・九以下參照)
一〇〇―一〇二
【孰れを選びて】この天のいづれの部分に我を着かしめしやを
一〇六―一〇八
宇宙の中心にある地球は靜止し諸天及びその内なる一切の被造物は運行す、これ宇宙自然の作用にてこの作用の始まるところは第九天なり
一〇九―一一一
【處なし】その存在する處なし。他の諸天は各※[#二の字点、1−2−22]その上なる一の天に包まれその内に處を占むれど、第九天は然らず、たゞ神の聖意《みこゝろ》のうちに包まる
第九天はエムピレオの天に蔽はるれどエムピレオは神の御座《みくらゐ》にて他の諸天の如く物質より成るにあらねばかく言へり
【愛】第九天はかのエムピレオの天を慕ひその各部かの天の各部と結び合はんとして※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る(『コンヴィヴィオ』二・四・一九以下參照)
【降す力】その下なる他の諸天に及ぼす力(天、二・一一二―四參照)
一一二―一一四
光と愛との滿ち充つるエムピレオの天は第九天を蔽ひ、その状あたかも第九天が他の諸天を蔽ふに似たり、而してエムピレオの天を司る者はこれを包む者即ち神のみ
一一五―一一七
【測られじ】弟九天は他の諸天の運行の源に
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