に非ざればその望みは空にして眞の望みにあらず
七〇―七二
以下七八行まで第三問の答
【光】即ち望み
【星】聖經諸書の作者
【最大いなる導者】神
【最大いなる歌人】王ダヴィデ
七三―七五
【爾名を】詩篇九・一〇。但しヴルガータに據れり。神を信じ聖名《みな》の尊さを知る者は天の榮光を待望むべし
七六―七八
【かれの雫と】ダヴィデの言とともに汝の言は我に望みを起さしめ
【書のうち】ヤコブ書には望みの事を明に言へる處なし、されど望みを起さしむべき言葉はこれあり(一・一二、二・五等參照)
七九―八一
【かの火の生くる懷】聖ヤコブの放つ強き光の正中《たゞなか》に
【とある閃】ダンテの答に滿足してその喜びの増すを表はす
八二―八四
【棕櫚をうるまで】教へに殉ずる時まで(使徒、一二・二)。棕櫚は勝利のしるし
【戰場を出づる時】死する時(戰場なる世を去る意)
【徳】望み。人天上の榮を享くればその望みすべて遂げ、またさらに望む所なし、たゞこの望みを徳としてなほこれを愛するのみ
八八―九〇
【新舊二つの】聖書は我に望みの目的《めあて》を指示せば、我はその示す所によりて望みの約するものを知る
【神が友と】神の選び給へる魂(天、一二・一三〇―三二參照)
或はこの一行を次の一聯と連ねずして「新舊二つの聖經《みふみ》は、神が友となしたまへる魂の目的を表はす、この目的こそ我にこれを指示すなれ」と讀む人あり
九一―九三
【イザヤは】イザヤ六一・七に。但しダンテはヴルガータの duplicia(二倍)を十節の衣の意を承けて二重の衣(靈と肉との受くる福)の義とし、terra sua(己が郷土)を人間の眞の郷土なる天堂の義とせり。靈肉相合して人はじめて全し、故に人の至上の幸福は死後肉體復活して靈體と合し共に天上永遠の福祉を享くるにあり、人に望みの約するものまたこの幸福に外ならず
九四―九六
【汝の兄弟】聖ヨハネ。默示録(七・九以下)にて
九七―九九
【スペーレント・イン・テー】Sperent in te(望みを汝におかむ)、詩篇九・一〇(七三―五行註參照)
一〇〇―一〇二
【一の光】聖ヨハネ
【巨蟹宮に】磨羯宮の反對面にある巨蟹宮の星は初冬の頃日出と共に入り日沒とともに出づ、故にもし巨蟹宮に聖ヨハネの如く輝く一の星(水晶[#「水晶」に白丸傍点])あらば冬の一個月(即ち太陽磨羯宮にある間)は夜なきにいたらむ
一〇三―一〇五
【短處】虚榮
一〇六―一〇八
【愛に應じて】愛の多少に應じて※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る早さに差別あるなり。二の光はペテロとヤコブ
一一二―一一四
【われらの伽藍鳥】キリスト。伽藍鳥は己が血を注ぎて、死せる雛を蘇生せしむとの傳説(くはしくはスカルタッツィニの引用せるブルネット・ラティーニ著『テゾーロ』の一節參照)により、キリスト即ち十字架の血にて人類を生きかへらしむる救世主の象徴として中古弘く用ゐられきといふ
【胸に倚りし者】聖ヨハネ。最後の晩餐の時主の胸に倚りゐたり(ヨハネ、一三・二三)
【大いなる務】主に代り、子としてマリアに事ふること(ヨハネ、一九・二六―七)
一一五―一一七
【その言の】かく言ふ間も日を移さずしてかの使徒達を見つめゐたり
一一八―一二〇
太陽の分蝕を見んと力むる人は見んとするが爲に目くらみて何物をも見る能はざるにいたる
一二一―一二三
【最後の火】最後に現はれし光即ちヨハネ
【汝何ぞ】ヨハネの詞。ダンテはヨハネが肉體を有するや否やを見んとて特にこれを凝視《みつめ》たり、これキリストがヨハネについていへる言葉に「我もし彼のわが來るまで殘るを欲すとも」云々(ヨハネ、二一・二二)とあるにもとづきヨハネは肉體のまゝにて天に登れりとの傳説行はれたるによる
一二四―一二六
【われらの數】われら選ばれし者の數。神の豫め定め給へる聖徒の數の滿つるまで(默示、六・一一參照)、換言すれば最後の審判の時まで
一二七―一二九
今天に在りて靈と肉とを具備する者は、たゞキリストとマリアのみ、汝これを世人に告げてその誤りを正すべし
【二襲の衣】靈と肉、
【僧院】天堂(淨、一五・五五―七參照)
【昇りし】今より少しくさきにエムピレオに昇りし(天、二三・八五―七、及び一一二以下)
一三〇―一三二
【三の】三使徒の。聖ヨハネのさらに語りいづるに先立ち舞と歌とともにやみしこと
一三三―一三五
【笛】掛りの者の相圖の笛
一三六―一三九
【福の世に】天に在りて世の常ならぬ視力を有しつゝ
【見るをえざりけれは】聖ヨハネを見つめし爲その先に目くらみて淑女を見るをえざりしなり
第二十六曲
聖ヨハネ(ジョヴァンニ)、ダンテに愛の事を問ふ、ダンテ答へ終れる時始祖アダムの靈現はれ、詩人の望みに應じて己が昔の物語をなす
一―三
【危ぶみ】視力の滅びしにあらざるかと
【焔】聖ヨハネの光
七―九
【汝の魂】愛の向ふところを問へり
一〇―一二
【アナーニア】ダマスコの人、主の命に從ひサウロ(使徒パウロ)を訪ひて手をその上におき、彼をして再び物を見るをえしむ(使徒、九・一〇以下參照)
一三―一五
【絶えず我を】ベアトリーチェは愛の火をもてダンテの目より入來れり、即ちダンテはベアトリーチェのけだかき美しき姿を見て愛の火に燃えしなり
一六―一八
天堂の諸聖徒を凡て滿足せしむる善即ち神こそ、愛の我に與ふる強弱一切の刺戟の始めまた終りなれ。換言すれば、わが愛といふ愛ことごとく神にむかふ
【わが爲に讀むかぎりの文字の】di quanta scrittura Mi legge 異説多し。スカルタッツィニ曰く、淨、二・一一二にては愛、心の中に物言ひ、同二四・五二以下にては愛、衷に口授し、こゝにては愛、衷なる文字を讀む、こは衷なる書《ふみ》に既に録《しる》されし文字即ちダンテのいだく愛の事なり、されば「愛のわが爲に讀むかぎりの文字」とは愛に關してわが内にある凡てのもの即ちわがすべての愛をいひ、この愛を記録の一部心の書《ふみ》の一筆の如く見なせるなり、ダンテの言は歸する所、わがすべての愛の目的《めあて》は神なりといふに同じ、またこれに加へて「或ひは低く或ひは高く」(原、或ひは輕く或ひは強く)といへるはそのいだく愛といふ愛ことごとく神に獻げらるとの義なり云々
【アルファ、オメガ】始め、終り。ギリシア字母の最初の文字と最後の文字(默示、一・八參照)
一九―二一
【我をして】次の如く我に問ひ我をして
二二―二四
さらに明細に汝の思ふ所を述べ、誰が汝をして神を愛するに至らしめしやを我に告ぐべし
二五―二七
【こゝより降る】天より降る權威ある言、即ち聖書に現はるゝ天の啓示。ダンテの愛の動機は人と天との二つの教へなり
二八―三〇
以下三六行までの大意左のごとし
愛の向ふ所善にあり、善いよ/\全ければ愛またいよ/\大なり、神は至上の善にまします、故にこれを愛するの愛從つて最も大いならざるべからず
【その善なるかぎり】即ち善と認めらるゝかぎり
【知らるゝとともに】智によりてその何たること悟らるゝと同時に
三一―三三
神以外の善はたゞ至上の善なる神の一顯現、その榮光の一光輝に過ぎず
三四―三六
【この證】萬物にまさりて神を愛すべき理由
【眞理】神は至上の善なること
三七―三九
【永遠の物】諸天、天使、及び人の魂等。これらの被造物は皆神を慕ひ神を望む
【示すもの】物皆その第一原因と結ばんとするの願あることを教へし哲人として註釋者多くはアリストテレスを擧ぐ。但し異説多し
四〇―四二
【眞の作者】その言に僞りなき者即ち神。神自らモーゼに告げて「我汝に一切の善を見すべし」(ヴルガータ、出エジプト、三三・一九)といひ自らその善の完全なるを明《あか》し給へり
四三―五五
【尊き公布】默示録。特にその一の八に「我はアルファなりオメガなり始めなり終りなり」と言給へる全能者の言を傳へて神は一切の善の源なる意を寓し示せること
【こゝの秘密を】天上の秘密を聖書の他の部分にまさりて強く下界に響かしむること
四九―五一
【幾個の齒にて】齒にて噛むは刺戟を與ふるなり、汝の愛を神に向はしむる者理性と天啓の外に猶|幾許《いくばく》ありやいへとの意
五二―五四
【クリストの鷲】聖ヨハネ。默示録四・七に出づる鷲を望ヨハネの象徴と見なす説にもとづき、キリスト教藝術にてはヨハネを往々鷲にて表はす
【隱れ】我に隱れ。ダンテはヨハネの思ひのある所を直ちにさとれるなり
五五―五七
【齒をもて】心を神に向はしむる一切の刺戟は皆我愛と結び合ひ、我をしてわが凡ての愛を神にさゝぐるにいたらしむ
五八―六〇
天地人類の存在によりて造物主の至善を知り、人類を救はん爲キリストの死し給ひし事を思ひて神の至愛を知り、天上永遠の幸福(望むもの)を思ひて神の至恩をしのび
六一―六三
【認識】神は至上の善なりとの。「生くる」は確たる
【悖れる愛】地に屬する物の愛(淨、三一・三四―六參照)
六四―六六
【葉】被造物、即ち神(園丁)のしろしめす宇宙(園)に遍く滿つるもの。「隣」を愛する(マタイ、一九・一九等)の愛を指す
六七―六九
【聖なり】默示録四・八に出づる頌詠によりて全衆神を讚美せるなり
七〇―七二
【物見る靈】spirto visivo 視神經を往來して、物を見るをえしむる力、即ち視力(『コンヴィヴィオ』二・一〇・三二以下參照)
【膜より膜に】光は眠れる者の目の膜より膜に進み入り、目の視力はこれに向ひて進むがゆゑにその人覺む
七三―七五
【判ずる力】estimativa 思ひめぐらす力。この力によりて己が覺めし次第を知り、あやしまずして己が前にあるものを見るを得
七九―八一
【第四の光】始祖アダムの靈
八二―八四
【第一の力】神
【第一の魂】最初の人間即ちアダム
九一―九三
【熟して結べる】アダムは造られし時既に大人なりければかく
【唯一の】スカルタッツィニ曰く。エヴァはアダムの一部なれは特にいはず、アダムがアダムとエヴァの意に用ゐられし例聖書に多し(創世、三・二二―四、ロマ、五・一二以下等)と
【新婦と】いかなる新婦もアダムの裔なればその女に當り、アダムの裔なる男子に嫁すればその子婦《よめ》に當る
九七―九九
【包まれ】衣などに
【願ひ】包みし物より脱るゝ願ひ。但し包みし物の動くによりてその内なる獸の願ひの表はるゝを、蔽はるゝ光の一きは輝き渡るによりてその内なるアダムの願ひ(ダンテの望みをかなへんとするの)の現はるゝに比べしのみ
一〇六―一〇八
【鏡】神(天、一五・六一―三參照)
【萬物を】萬物は皆完全に神の鏡に映ず、故に神を視る者よく萬物を視る、されど一物として完全に神を映《うつ》すはなし
【己に映せど】〔fa di se` pareglio〕 註釋者曰く。pareglio(=parelio)とは太陽の光線の屈折によりて空中に現はるゝ他の太陽の如きものをいふ、反映の義これより生ず、即ちこの句は己を(萬物の)反映者たらしむ換言すれば(萬物を)己に映らしむる意なりと
但しこの項異本あり、また異説多し
一〇九―一一一
以下一一四行まで、ダンテの問四あり、(一)アダムの造られし時より今に至るまで幾年經たるや、(二)アダムは樂園に幾許の間住みしや、(三)その犯せる罪の性質、(四)その用ゐし言語
【長き階】諸天
【高き園】淨火山上の園即ち地上の樂園
一一二―一一四
【大いなる憤】人類に對する神の怒り
一一五―一一七
第三問の答。但し當時の神學説に據れり
【流刑】樂園を逐はれし事。その眞の原因は木の實を食へるその事に非ずしてこれに伴ふ不從順と傲慢となり、即ち食ひて神命に背《そむ》けるのみならず、その食へるは己を神の如くにせんとの僭上心より出でしなり
トマス・アクイナスの『神學大全』(二、二、一六三・一)に曰く。人間の最初の罪は己が度を超えて靈の福を望めるにあり、これ傲慢に屬す、知るべし始祖の最初の罪は傲慢なりしを
一一八―一二〇
以下一三三行まで第一問の答。アダムは地に住めること九百三十年(創世、五・五)、リムボに在ること四千三百二年なり、而してキリ
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