業が彼等の末流の腐敗墮落によりていかなる状態となれるやを見ば善の惡に變れるを知らむ
九四―九六
僧侶等かく墮落して昔の面影を止めざれども、神の救ひの御手によりて再び徳に歸るの望みなきにあらず、またたとひこの事ありとも舊史に殘る奇蹟の如く不思議とすべきにあらざるなり
【ヨルダン】イスラエルの民をして渉らしめんため、この河の水逆流す(ヨシュア、三・一四以下)
【海の】紅海の水の分れしこと(淨、一八・一三三―五並びに註參照)
九七―九九
【旋風の如く】※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りつゝ
一〇〇―一〇二
【自然】即ち肉體の重さ
一〇三―一〇五
【自然に從ふ】物質の力にのみよる
一〇六―一〇八
【願はくは】事の眞なるを表はす爲に用ゐらる。かの凱旋にわが歸るをえんと願ふその願ひの眞《まこと》なるごとく、かの雙兒宮を見るとその内に入ると同時なりしは眞なり
【聖なる凱旋】天上永遠の福
一〇九―一一一
【天宮】雙兒宮。ダンテは第八天即ち恒星天に達しその十二宮の一なる雙兒宮に入りしなり
一一二―一一四
以下一二三行まで、ダンテは己と雙兒宮の星と因縁淺からざる次第を述べてこれが助けを求む
【大いなる力】雙兒宮の星はその下界に及ぼす影響によりて詩才や學才を啓發すとの古説あり、ダンテはこれらの星の影響の下に生れしがゆゑにその才をかの星の光に歸すといへるなり
一一五―一一七
わが生れし時太陽は雙兒宮にありき
注釋者曰く。一二六五年には五月十八日より六月十七日まで太陽雙兒宮にありき、故にダンテの生れし日はこの二つの時の間にありと(スカルタッツィニ註參照)
なほその日を五月の末となす説についてはスカルタッツィニ註第四卷(プロレゴメーニ)二四頁及びムーアの『ダンテ研究』第三卷五五―六頁參照
【父なる者】太陽。不滅の生命(人の魂)は神の直接に造り給ふものなれば滅ぶる生命の父といふ
一一八―一二〇
【貴き天】恒星天
一二一―一二三
【己が許に引く】難所が魂を引くとはダンテをしてその心を悉くこゝに集めしむるをいふ
【難所】天堂の旗の殘の部分即ち特に崇高にして敍し難きところ
一二四―一二六
【救ひ】或ひは福。終極の救ひは神なり(詩篇二七・一)
一二七―一二九
【これに入らざる】神の御許にいたらざる
一三〇―一三二
【凱旋の群集】キリストの凱旋に列る群集(天、二三・一九以下)
【天】etetra(精氣、轉じて天)
【樂しみ極まる】天上高き處にありて親しくその靈光に接し、さらに俯瞰して下界の眞相を識別す、故に心眼いよ/\瞭[#「瞭」に白丸傍点]かに(雜念を離れ)いよ/\鋭し(徹底す)、人茲に到りて初めてよく至上の光を仰ぐを得む、樂しみ豈大いならずや
一三三―一三五
【わが球】原、「この球」。地球
一三六―一三八
【他の物に】天界の事物に
一三九―一四一
【ラートナの女】月(淨、二〇・一三〇―三二並びに註參照)
【影】ダンテは月の地球に面せざる部分を見たるなり、月面の明暗は月天の天使の力と月本來の力との結合によりて定まるが故にこの天使がその力を及ぼす部分即ち月の地球に面する部分にのみ斑點ありて、その力を受くる部分即ち面せざる部分にはなし
【粗あり】天、二・五八―六〇參照
一四二―一四四
【イペリオネ】太陽の父。ウラヌスと地《ゲー》の間の子
ダンテはオウィディウスがその『メタモルフォセス』第四卷(一九二、二四一)に太陽を指してイペリオネの子といへるに據れり
【マイアとディオネ】水星と金星。いづれも母によりて子を表はせり
マイアはアトランテ神の女にてメルクリウス(水星)の母(『メタモルフォセス』一・六六九―七〇等)、ディオネはヴェーネレ(金星)の母(天、八・七―九並びに參照)
一四五―一四七
【父】ジョーヴェ(木星)の父サトゥルノ(土星)
【子】ジョーヴェの子マルテ(火星)
【和ぐる】火星の暑さと土星の寒さとを(天、一八・六七―九並びに註參照)
【處をば變ふる次第】この三つの星が或る時は太陽に近よりて見え或る時はこれより遠ざかりて見ゆる理由。運行の工合
一四八―一五一
【住處の隔たるさま】星と星との間の距離
一五一―一五三
【めぐれる間に】即ちダンテが雙兒宮にありし間に
【小さき麥場】人の世界。狹きによりてかく言へり、人この小さき麥場《うちば》に住みつゝ利慾の爲に相爭ふ
【山より河口】複數、おしなべていへるなり
【悉く】果《はて》より果にいたるまで。但しダンテが俯瞰したるその刹那にかく悉く現はれしならず、太陽イエルサレムの子午線にありてダンテまた太陽とともに白羊宮にあるに非ざれば全地を視るをえざればなり(天、二七・八五―七註參照)
この一聯かく解するも猶多少の困難あり、故に或人はこれを理想の眺望即ちダンテが全地を一望の下に視たる意に解し、またトーザー氏は tutta を全部の意に非ずして巨細にの意なりとす
一五四
【美しき目】ベアトリーチェの


    第二十三曲

ダンテ第八天にてキリストの凱旋を見る
一〇―一二
【ところ】正午の太陽のある處に當る天。太陽子午線を過ぐる時はその運行特に遲しと見ゆ(淨、三三・一〇三―五並びに註參照)
一三―一五
【願ひに物を求め】切に或物を得んと願ひ、未だ得ざれど、得るの望み充分なればその望みにて滿足する人の如く
一九―二一
【凱旋の軍】キリストの血によりて救はれし聖徒等
【一切の實】キリストの凱旋に列る諸聖徒は、諸天の善き影響をうけ(「これらの球の※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉によりて」)て徳に進み救ひを得るにいたれる者なればこの影響の果《み》に當る
二五―二七
【トリヴィア】月。ディアナ(月)の異名
【ニンフェ】諸※[#二の字点、1−2−22]の星(淨、三一・一〇六參照)
二八―三〇
【燈火】諸聖徒
【日輪】キリスト
【わが日輪の】星は皆太陽の光をうけて輝く(天、二〇・四―六並びに註參照)
【星】viste superne(上方に見ゆる物)
三一―三三
【光る者】キリスト
【その生くる光】己の射放つ強き光
三四―三六
【防ぐに術なき】いかなる目もよくこれに堪ふるをえざる力なり。神の力は萬物に勝つ
三七―三九
【天地の間の路】人が天に登るの路
【いと久しく】淨、一〇・三四―六並びに註參照
【知者と力】神の力神の知惠なるキリスト(コリント前、一・二四參照)
四〇―四二
【火】電光
【性】火炎界に向つて昇るべき本來の性質(天、一・一三〇―三五參照)
四三―四五
わが心は天上の歡樂の爲にひろがりて己(心)を離れ(法悦の爲に意識を失ひ)たればその當時の心の状態を心自ら記憶せず
四六―四八
ベアトリーチェの笑顏を見るをえざりしダンテも(天、二一・四以下參照)、キリストの凱旋を見るに及びて視力増し、これを視るをうるにいたれり
四九―五四
【書】記憶の書《ふみ》
【忘れし夢】四七行の「諸※[#二の字点、1−2−22]の物」に當る。心に殘る印象(喜びや悲しみの)によりて夢の何なりしやを思ひ浮べんとすれども能はざる(天、三三・五八―六〇參照)人の如く、ダンテは心の悦びを辿りてかの凱旋軍の偉觀を思ひ浮べんとせしかど能はざりき
五五―五七
【ポリンニア】ムーサイの一にて聖詩を司る神
(姉妹達】他の八柱の神々
【乳】淨、二二・一〇一―二にホメロスを指して「ムーゼより最も多く乳を吸ひしギリシア人」といへり
【諸※[#二の字点、1−2−22]の舌今】詩人等悉くその歌をもて今我を助くとも
五八―六〇
【聖なる姿】ベアトリーチェ自身の
この項異本に「そをいかばかり聖なる姿(即ちキリストの)の燦かにせしやを」とあり
六一―六三
天堂を敍するにあたり、言葉の及ぶ能はざる事物を省略して筆を進むることあたかも行人が小川や溝のその道を横切るを見これを跳越えて進み行く如し
【聖なる詩】材を聖なる事物に取れる詩
六七―六九
船は才なり、海路は詩材なり、これをわけゆくは歌ふなり(天、二・一―七參照)
七〇―七二
【園】聖徒の群
七三―七五
【薔薇】聖母マリア。寺院の祈祷文に聖母を指して Rosa mystica(奇《く》しき薔薇)といへり
【神の言】キリスト(ヨハネ、一・一四)
【百合】使徒達。即ち自ら例を示し福音を宣傳して人を正道に導ける者
七六―七八
【弱き眼の戰】弱き視力をもて強き光を視ること
七九―八一
【陰】雲の投ぐる。身陰にあるがゆゑに日は見えねどその光に照さるゝ處見ゆ
八二―八四
【本】キリスト
八五―八七
【印影を捺す】光を注ぐ
【慈愛の力】キリスト
【力足らざる目に】ダンテの視力猶足らずして未だキリストを見るをえざれば、キリスト自ら高く昇りてたゞその光の聖徒を照らすさまを見しむ
八八―九〇
【花】薔薇(七三行)
【生くる星】強く輝く星即ちマリア
【質と量】光の燦かさと大きさ
九四―九六
【燈火】天使ガブリエル。神子の降臨を告げ知らせんとてマリアの許に來れる天使なれば(淨、一〇・三四以下參照)。今また聖母の周圍《まはり》をめぐりて歌ふなり
九七―一〇二
【琴】ガブリエル
【天】エムピレオの天
【碧玉】マリア
【裂けて】電光の爲に
一〇三―一〇五
以下一〇八行までガブリエルの歌
【天使の愛】愛に燃ゆる天使
【われらの願ひ】われらの願ひの目的《めあて》なるキリスト
【胎よりいづる】たふとき悦びの出づるところなる胎のまはりをめぐる
一〇六―一〇八
【至高球】エムピレオ
一一二―一一四
以下、マリアはキリストのあとよりエムピレオに歸りてダンテの目にかくれ、殘れる聖徒達は聖母に對する愛を顯はしかつ調《しらべ》妙《たへ》に聖母頌を歌へるを敍す
【諸天】volumi(圓または囘轉)、月天より恒星天までの八個の天。これらの天を蔽ふ衣[#「衣」に白丸傍点]は第九天(プリーモ・モービレ)なり、この天はエムピレオに最《いと》近きがゆゑに直接に神の靈感とその性《さが》とをうけて熱いと強く生氣いと盛なり
【熱】至高の天を慕ひてこれに近づかんとするの愛(『コンヴィヴィオ』二・四・一九以下參照)
【生氣いと】その※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉の速度他の諸天にまさるをいふ
一一五―一一七
【内面】圓の内面。第八天にありて第九天を望むがゆゑにかく言へり
一一八―一二〇
【霜を戴き】ガブリエルの冠(九四―六行參照)を指す
【焔】聖母
一二七―一二九
【レーギーナ・コイリー】Regina coeli(天の女王)、更生祭の頃寺院に歌ふ頌詠にてその全文左の如し(但し各行アレルヤに終る、略して記さず)
天の女王よ、歡べ
適はしくも汝の生みたる者は
聖言《みことば》の如く甦りたればなり
われらの爲に神に祈れ
歡び樂しめ、處女《をとめ》マリアよ
主はまことに甦りたればなり
一三〇―一三二
これらの聖徒達が下界に積みし功徳によりて、今天上に享くる福はいかに大なる哉
【櫃】聖徒達
【地】bobolce 一區域の地(畠)をいふ。但し農婦又は種蒔く女の意に解する人あり
一三三―一三五
【バビローニアの流刑】地上の生活。昔ヘブライ人が虜となりてバビロニア(バビローニア)に移されし(列王下、二四―五章)ごとく、人は天の郷土を離れて地上に移り住めばなり(淨、二二・九四―六參照)
【黄金を】富貴を地上に求めず、惱み苦しみの中にて寶を天上に貯へしなり
一三六―一三九
【鑰を保つ者】使徒ペテロ(地、一九・九一―二參照)
【舊新二つの集會】舊新兩約の諸聖徒


    第二十四曲

聖ペテロ、ダンテに信仰の事を問ふ
一―三
【羔】キリスト
【食を與へて】神恩限なきが故に聖徒の願ひ常に滿つ
【晩餐】羔の晩餐の事、聖書に出づ(默示、一九・九)。キリストの備へ給ふ晩餐は即ち天上の福なり、ルカ傳一四・一五に曰く、神の國にてパンを食ふ者は福なりと
【侶等】聖徒達
四―六
【落つる物】食物の遺屑《くづ》。これを集めて食するは、未だ聖徒と伍せざるさきに、あり餘る天上の福の一部を味ふなり(『コンヴィヴィオ』一、一・六七―七七參照)
七―九
【願ひ】求知の念
【露】知識の
【思ふ事】知らんと
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