獅子宮の星の影響と混りてわが下界に及ぶ
註釋者曰く。獅子宮は猛獸に因みて熱さを表はし、土星は寒さをあらはす(淨、一九・一―三註參照)、冷熱相混じ相調節してその影響温和なりと
又曰く。土星は冷かなり、ゆゑに人を冷靜ならしめ、沈鬱ならしめ、これを瞑想に導くにいたると
一六―一八
【かれら】即ち汝の雙の目
【この鏡】土星、日光を受けて輝くがゆゑにかくいふ
一九―二一
ベアトリーチェの命に從ひわれ目を淑女より樹梯《はしだて》に移さんとせしその刹那、わが目がいかなる悦びを淑女のたふとき姿によりてえたりしや、これを知る者は
二二―二四
【彼方と此方とを】命に從ふの悦びと淑女を見るの喜びとを。ベアトリーチェを見るの悦びたとへん方なく大なるに、この大なる悦びをも棄てゝ目を他に移しゝことを思はゞ、命に從ふの悦びのいかに大なりしやを知らむ
二五―二七
【その名立る導者】世界の名立たる君主、即ち黄金時代のサトルノ王(地、一四・九四―六並びに註參照)
【水晶】土星《サトウルノ》。星の名かの王の名より來るがゆゑに「名を負ふ」といへり、金星の名の事これに類す(天、八・一〇―一二)
二八―三〇
【樹梯】諸靈が梯子を昇降するは心默想によりて神のみもとに達するを示す、創世記の古事によれり(天、二二・七〇以下並びに註參照)
三一―三三
【光】默想によりて徳より徳に進める魂
【一切の光】すべての星
四〇―四二
梯子を降る聖徒等はとある段に達すれば、別れ/\になりて或ひは昇り或ひは降り或ひはそこに止まるなり
四三―四五
【我よく】我は汝の光の増すにより、汝が愛をもて我と語りわが疑ひを解かんとするを知る
四六―四八
【身を動かす】言葉身振等にて示す但しこの一聯の主なる動詞原文にてはすべて現在なれば、これを他の文にあらずしてダンテの心の中の言葉の續と見る人あり
四九―五一
【者】神
五五―五七
【己が悦びの】己が悦びの先に包まるゝ尊き靈よ
五八―六〇
【響く】天、三・一二一―二、七・一―五、八・二八―三〇等
六七―六九
【愛の優る】わが侶等に
【優るか】この梯子にあらはるゝ聖徒達はいづれもその愛の我にまさるかさらずも我と等しき者のみにて、劣る者あらざればなり
七〇―七二
聖徒の爲す事はみな神の聖旨《みむね》によりて定まるを述ぶ
【疾き僕】喜びて(聖旨に)從ふ者
【尊き愛】神を愛するの愛
【鬮を頒つ】各自にその爲すべき役《つとめ》を割當つ。神を愛するによりてその定むる役を知り、喜びてこれを行ふなり
七三―七五
【自由の愛】神の命じ給ふを待たず、己が衷なる神の愛に動かされて各※[#二の字点、1−2−22]その役を知りかつこれを行ふこと
七九―八一
【碾石】の如くめぐりて喜びを現はすなり、碾石《ひきうす》の譬へ前にもいづ(天、一二・三)
八二―八四
【愛】神の愛に燃ゆる魂
八五―八七
【わが視力】人は己が智力のみによりて光の源なる神を知るをえざるなり
八八―九〇
われ神を見ること明らかなればわが焔もまたこれた準じて燦かなり(天、一四・四〇―四二參照)、知るべし、わが光となる悦びは神を成るにもとづくを
九一―九三
われらかく神を成れどもわれらの中の、否天使の中のいとすぐるゝ者さへ聖意の奧を知り難し
【セラフィーノ】天、四・二八―三〇並びに註參照
九七―九九
【かゝる目的に】かく奧深き事を敢てまた究めんと力むることなからしむべし
一〇〇―一〇二
【こゝにては】天にては被造物の智神の光を受けて光れど地にては迷ひまた誤りの爲に暗む
【天に容れられてさへ】被造物の智は天に入りて後にさへかの秘義を悟りえざるに未だ地にある時に當りて何ぞこれをさとりえむ、換言すれば、天上の聖徒すらかゝる事を解しえざるに地上の人いかでこれを解しえんや
一〇六―一〇八
【二の岸】アドリアティコとティルレーノとの兩海岸
【岩】山、即ち中部アペンニノ連山を指す
一〇九―一一一
【カートリア】アペンニノに連なる一山にてグッビオとラ・ベルゴラの間にあり山腹に「カマルドリ」派に屬する一僧院(庵[#「庵」に白丸傍点])ありき、「サンタ・クローチェ・ディ・フォンテ・アヴェルラーナ」即ち是なり、傳へ曰ふ、ダンテは一三一四年の頃足をこの僧院に止めしことありと
一一五―一一七
【橄欖の液の】橄欖の油のみにて味をつけし食物、即ち精進物
一一八―一二〇
道心堅固の者のみゐたるかの僧院は多くの魂をこれらの天に送りたりしに今や腐敗してこの事なし、しかしてその腐敗せる状態《ありさま》は神必ず刑罰によりて顯はし給はむ。但し神罰の何なりしやは明らかならず
一二一―一二三
【ピエートロ・ダミアーノ】ペトルス・ダミアーニ。名高き神學者、一〇〇七年頃ラヴェンナの貧家に生れ、その兄ダミアーノの厚意によりて學を終ふ(彼が自らピエートロ・ダミアーノと呼べるはこの恩を思ひてなり)、年三十にしてフォンテ・アヴェルラーナ僧院に遁れ、やがて選ばれて院主となる、一〇五八年オスティアの僧正兼カルディナレに任ぜられしも幾何もなく辭して再び僧院に歸り、一〇七二年ファーエンツァに死す、高徳大智の名僧にて神學に關する著作多し、ピエートロ・ペッカトレ(罪人ピエートロ)とはその自ら謙りて呼べる名なりといふ
【われらの淑女の家】僧院。註釋者曰く、こはコマッキオ(ラヴェンナの北)附近なる聖マリア・ポムポーザの僧院を指せるものにて、ピエートロ未だ一僧侶なりし時アヴェルラーナの院主の請ひによりかしこに行きて二|年《とせ》ばかり止まりゐたることありと
但しピエートロはその後年にいたりてもなほペッカトレの名を用ゐしこと明らかなればこの一聯に就て異説甚だ多し、いづれも難あり。スカルタッツィニは一二二行の前半を後半と別ちて「かしこにて我はピエートロ・ダミアーノまたピエートロ・ペッカトレといひき、我またアドリアティコの岸なるわれらの淑女の家にありしことあり」と讀めり、この解最も難なし、されど聲調の自然をそこなふ
一二四―一二六
【帽】カルディナレの帽
【傳へらるゝ】高位の僧となる人物が次第に劣りゆくをいふ
一二七―一二九
以下一三五行まで前聯の末行に因みて僧官の奢侈を難す
【チエファス】(ケパ)、使徒ペテロ(ヨハネ、一・四二)
【聖靈の大いなる器】使徒パウロ、地、二・二八に「選《えらび》の器《うつは》」といへるもの
【いかなる宿の】ルカ、一〇・七參照
一三〇―一三二
【己を】今の僧官等は美食安佚によりてその身肥え、人の助けを借らざれは歩を運ぶ能はず、かつまた人に誇らん爲その裳裾を長くし特にこれをかゝぐる人を用ゐるにいたる
一三三―一三五
【表衣にて】またその表衣《うはぎ》は長く廣くして己が乘馬を蔽ふ、これ一枚の表衣(皮[#「皮」に白丸傍点])をもて二匹の獸(僧と馬)を包むなり
【何の忍耐ぞ】神の忍耐はいかに大いなる哉
一三六―一三八
【いよ/\美しく】ペトルス・ダミアーニの義憤の言を聞きてこれに同感を表するなり
一四二
【雷】強き響き
第二十二曲
聖ベネデクトゥスがその開山の昔を語りかつ今の僧侶の腐敗を歎くを聞きて後、ダンテはベアトリーチェと共に第八天(恒星天)にいたり、七遊星と地球とを俯瞰す
一―三
【恃處】母(淨、三〇・四三―五參照)
一〇―一二
【歌】天、二一・五八以下參照
【笑】天、二一・四以下參照
一三―一五
【刑罰】牧者等の腐敗に對する神罰。恐らくはダンテの信仰にもとづく豫言にて、ボニファキウス八世の受難(淨、二〇・八五以下參照)。もしくほアヴィニオンに移れる(淨、三二・一五七以下參照)後の法王廳の屈辱等を特に指せるにはあらじ
一六―一八
【望みつゝ】天罰の他人に下らんことを願ふ者はその下るを遲しとし、己に下らんことを恐るゝ者はこれを速しとす
二二―二四
【球】光の球、即ち光に包まるゝ諸聖徒
二五―二七
【過ぐるを】問ふことの多きに過ぐるを
二八―三〇
【眞珠】輝く聖徒等
【わが願ひ】かの聖徒等の誤なるやを知らんと欲する願ひ
三一―三三
【汝の思ひを】汝の問がわれらの累とならざるを知り安んじて心の願ひを言現はさむ
三四―三六
【たふとき目的】神の御許《みもと》にいたる事
【我】聖ベネデクトゥス。四八〇年ウムブリア州のノルチアに生る、若年にして遁世し、スピアーコ(ローマの東)附近の岩窟に隱れ僅に一僧の布施を受けつゝ修すること年あり、その徳世に知られ弟子多くその許に集るに及びて十二の僧院を建つ、五二八年カーシーノ山(或ひはカッシーノ、ローマとナポリの中間にあり)に赴きアポロン(アポルロ)の宮殿を毀ちてベネデクトゥス派の僧院を起し、五四三年に死す
三七―三九
【カッシーノ】同じ名の山の側面にある小さき町
【迷へる曲める人】異教徒。アポロンを拜せんとて登山せり
四〇―四二
【者】キリスト、即ち福音の眞理を世人に齎し示せるもの
四六―四八
【花と實】思ひと行ひ
【熱】神を愛するの愛
四九―五一
【マッカリオ】聖マカリウス(四〇五年死)。アレクサンドレイアの人にて聖アントニウスの弟子なり、東方僧院の法規を定め、多くの隱者を統管す
カーシーニその他の説に據れり、異説或ひは同じくアントニウスの弟子なるエヂプト人マカリウス(三九一年死)を指すとし、或ひはダンテこれとアレクサンドレイアのマカリクスとを區別せざりしならんともいふ
【ロモアルド】聖ロムアルドゥス(一〇二七年死)。ラヴェンナの貴族オネスティ家の出、トスカーナなるカマルドリ僧院(淨、五・九四―六並びに註參照)の建設者にてカマルドリ派(ベネデクトゥス派の分派)の開祖なり
【わが兄弟達】ベネデクトゥス派の僧侶等
五二―五四
【好き】光によりて愛を現はす
五八―六〇
【顯に】隱す光なくして
六一―六三
【最後の球】エムピレオの天。ダンテがかの天にて聖ベネデクトゥスの姿を見しこと後に出づ(天、三二・三五)
【わが願ひ】ありのまゝの姿を示してダンテの望みを遂げしめんとの願ひをも含む
【他の】他の聖徒達の
六四―六六
【備はり】註釋者曰く。備[#「備」に白丸傍点]はるは神を目的《めあて》とすればなり、熟[#「熟」に白丸傍点]するは諸聖徒各自の善根によりて善果を得る時至ればなり、圓[#「圓」に白丸傍点]なるは願ひ悉く神に容れられ缺くる處なければなりと
【かの球に】エムピレオの天は他の諸天と異りて不動なれば、その各部決して位置を變ふることなし
六七―六九
【場所】かの天は他の諸天と異りて空間に超越す、またかれらの如く軸ありて轉るにあらず
エムピレオの天については『コンヴィヴィオ』二、四・一三以下參照
七〇―七二
【ヤコブ】ヤコブがベテルにて夢に一の梯子を見しこと創世記に出づ、「見よ地に立てる一の梯子あり、その頂天に達し神の使者《つかひ》達|昇降《のぼりくだり》す、また見よ主その上に立ち給ふ」云々(創世、二八・一二―一三)
七三―七五
【これに登らんとて】世の雜念を棄てゝ思ひを天に寄する者なし
【わが制は】ベネデクトゥス派の法規はたゞ徒に紙を費して寫し傳へらるゝのみ、守る者なし
異本、「紙を損はんがために世に[#「世に」に白丸傍点]殘るのみ」
七六―七八
善人の住む習ひなりし僧院は惡人の巣となり、不徳の輩《ともがら》身に法衣を纏ふ
七九―八一
【高利】高利を貪ることの神意に背くは既にいへり(地、一一・九一以下參照)
【果】寺の收入。これを貪りこれを私する僧侶の罪は高利を貪る罪にもまさる
八二―八四
【民】神の愛に訴へて施を求むる者即ち貧民
【親戚または】僧侶の親戚またはその妾婦等
八五―八七
【善く始め】たとへば僧院の如く、その建設の始めに於ては人よく法を守れども久しからずして破るにいたる
八八―九〇
【ピエル】使徒ペテロ(ピエートロ)は貧に安んじて福音宣傳の基を開き
【金銀なきに】ペテロが一跛者にむかひて「金銀は我になし」といへる(使徒、三・六)によれり
【集】convento その派の僧侶のみならず凡てこれに從ひその教の果を摘みて善に向ふ者の一團を指す(パッセリーニ)
九一―九三
汝先づ三者の事業をその始めに溯りて見、後この事
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