イエルサレムの跛者といへり
【一のI】かの生命の書に善をI(即ち一)と記し惡をM(即ち千)と記す、惡ありて善なきを表はせるなり
但しこの一の善をシャルルの物惜みせぬこと(天、八・八二―四並びに註參照)と解する人あり、疑はし
一三〇―一三二
【火の島】シケリア。名高きエートナの火山あるによりてかく。『アエネイス』によれはアエネアスの父アンキセスはこの島の西海岸の町なるトラパーニ(古名 Drepanum)にて死せり(三・七〇七以下)
【治むる者】シケリア王フェデリコ二世(淨、七・一一八―二〇參照)シャルル・ダンシューと長くシケリアの主權を爭ひゐたりしが一三〇二年賤むべき契約の下にこれと和してその女を娶れり
皇帝ハインリヒ七世の死後フェデリコは勤王派の望みを負ひてピサの主權を希、ギベルリニの首領たらんとせしも、かしこに到るに及び、かの徒黨をば共に事を爲すに足らずとして棄てたり、ダンテも彼に望みを囑せる一人なればかゝる卑しき行爲を見てこれを憎むの念愈※[#二の字点、1−2−22]甚だしかりしならむ(ムーアの『ダンテ研究』第二卷二九八頁以下參照)
一三三―一三五
かゝる小人の罪業を一々生命の書に録して、徒に場所を塞ぐことなからむ
一三六―一三八
【叔父】フリートリヒの叔父にてバレアロス諸島イスパニアの王なるハイメ(一二四三―一三一一年)
【兄弟】アラゴン王ハイメ(ヤーコモ)(淨、七・一一八―二〇並びに註參照)。二の冠[#「二の冠」に白丸傍点]はバレアロスとアラゴンの王冠
一三九―一四一
【ポルトガルロの王】ディオニシオ(一二七九年より一三二五年まで王たり)。貪婪の風評《うはさ》ありし者。ポルトガルロはポルトガル。
【ノルヴェジアの王】ハーコン七世(一二九九年より一三一九年まで王たり)。ノルヴェジアはノルウェー。
【ラシアの王】ラシア(近代のセルヴィアの一部なる中古の王國)王ステファーノ・ウーロス二世(一三〇七年死)
【貸幣を見】ヴェネーツィア(ヴェネージア)の貨幣を見てこれを模造し、汚名を殘すにいたれる意
一四二―一四四
【ウンガリア】一二九〇年カール・マルテル、ハンガリアの王冠を受けしも實際に政治を行へる者はアンドレア三世(一三〇一年死)なりき(天、八・三一―三註參照)、一三〇一年にいたりマルテルの子ロベルト(一三四二年死)王位を繼げり、アンドレアは良王なればこゝに重ねてといひてその以前の諸王の惡しかりしを示せるなり。ウンガリアはハンガリア。
【ナヴァルラ】ナヴァールもしその北方を圍むピレネイ諸山を固めとしてフランスの軛を防がば福ならむ
ナヴァール王アンリ一世の女ジョヴァンナ父についで王國を治め、一二八四年フィリップ四世に嫁して後も猶自らこれを治めしが、一三〇四年その死するやその子ルイこれを繼ぎルイ、フランス王(ルイ十世)となるに及びてこの國フランス王家に歸せり
一四五―一四八
【この事の】ナヴァールについていへる事(即ち自國を固めてフランス王の侵入を防ぐべきこと)の眞なるを豫め知らしむる例として
【ニコシアとファマゴスタ】キュプロス島の二都。一三〇〇年の頃フランスのアンリー二世ルニジアーノ家のキュプロス王としてこゝに虐政を布く。獸[#「獸」に白丸傍点]とは即ちこの王の事なり
【他の】こゝに掲げし如き他のキリスト教國の諸王とその歩調を倶にして同じく惡を行ふ
第二十曲
第六天の鷲その目に輝く六の靈の誰なりしやをダンテに告げ、かつその中なるトラヤヌス及びリフェオの救ひに關してダンテの懷ける疑ひを解き、永遠變らざる神の定のはるかに人智に超ゆるを述ぶ
四―六
【一の光】日光。諸星はいづれも太陽の光を受けて輝くといふ昔の學説に從へるなり(『コンヴィヴィオ』二・一四・一二四―六參照)
七―九
【導者達】帝王等
【徴號】即ち鷲
【わが心に】太陽沒して諸星輝くを鷲默して諸靈歌ふにたとへたり
一三―一五
【微笑の衣を纏ふ】法悦の光に包まるゝ
【愛】神を愛するの愛 この愛諸靈を悦の光に包むなり
【笛】歌ふ諸靈。吹入るゝ息《いき》によりて笛が美音を發する如く、神の愛聖なる思ひを動かして諸靈に歌をうたはしむ
異本、【火衣】
一六―一八
【第六の光】木星。これを飾る珠[#「珠」に白丸傍点]は即ち諸靈
一九―二一
【源】原、「頂」(即ち山の高處《たかみ》にある源)
二二―二四
絃《いと》を壓《お》す左手の指頭の變化によりて琵琶の音に曲節生じ、歌口より吹入るゝ風が孔の開閉によりて篳篥の音に曲節を與ふる如く
二八―三〇
【わがこれを】こはわが聞かんと願ひゐたりし言葉なれば我よくこれを心に記して忘れじとの意
三一―三三
【一部】即ち目
【地上の】原、「死すべき」(天上の鷲の不死なるに對して)
【日輪に堪ふる】天、一・四八並びに註參照
三四―三六
【形】鷲の
【火】輝く諸聖徒
【凡ての位】同じく鷲を象どる諸靈の中にてもその尊さに差別あるを示す
三七―三九
【聖靈の歌人】イスラエル王ダヴィデ(淨、一〇・五五以下參照)。神の靈感によりて歌ひたれば「聖靈の」といへり
【匱】神の匱。ダヴィデこれをアビナダブの家よりオベド・エドムの家に移し後又これをイエルサレムに移せり(サムエル後、六・一以下)
四〇―四二
【己が思ひより】ダヴィデの詩は王自身の思ひ(自由意志)と靈感とより成る、前者の徳は王に歸し後者の徳は聖靈に歸す
四三―四五
【嘴にいと近き】皇帝トラヤヌス
一寡婦の請を容れてその子の爲に復讎を約しゝ事前に出づ(淨、一〇・七三―九三)
四六―四八
【この麗しき】天堂の幸福と地獄の苦痛とをともに經驗し、キリストを信ぜざる者がいかなる憂目を地獄に見るに至るやを知る
トラヤヌスがグレゴーリウスの祈りの功徳によりて地獄の苦を脱しゝ事に就ては一〇六行以下及び淨、一〇・七三以下並びに註參照
四九―五一
【圓】四三行の「輪」
【彼に續くは】ユダ王ヒゼキヤ。病みてまさに死せんとせし時神に祈り求めしかば神即ちこれに十五年の齡を加へ給ひたり(列王下、二〇・一―七等)
【眞の悔】註釋者の曰へる如く、恐らくはダンテの記憶の誤りならむ、歴代下(三二・二六)に王その心の高慢《たかぶり》を改めて身を卑《ひく》くしたりとあれど、こは死を延べし後の事なればなり
五二―五四
【永遠の審判に】神眞實の祈を嘉納し、けふと定めしことをあすに延べ給ふともその審判その正義は依然として變らじ(淨、六・二八―三九參照)
五五―五七
【次なる者】皇帝コンスタンティヌス一世(地、一九・一一五―七並びに註參照)
【牧者に讓らんとて】ローマの領地を法王シルヴェステル一世にさゝげんとて
【律法及び我】律法と鷲(武)とをギリシア化するは、ローマ帝國の首都をビザンティウム(ギリシア人の建設せる)に移し文武の諸權を彼地より出づるにいたらしむるなり(天、六・一―三並びに註參照)
【己を】皇帝自らビザンティウムに赴けること
五八―六〇
【世を亡ぼす】ダンテ思へらく、遷都と寺院の富とはローマ帝國の衰頽を來し、ひいて全人類の不幸を招くにいたれりと
六一―六三
【グリエルモ】シケリア及びアプリアの王グリエルモ二世(一一五四―一一八九年)。一一六六年王位に即きて善政を布く
【カルロ】アプリア王シャルル二世(天、一九・一二七―九參照)
【フェデリーゴ】シケリア王フェデリコ二世(天、一九・一三〇―三五參照)
六七―六九
【リフェオ】リペウス。トロイア陷落の際ギリシア軍と戰ひて死せる勇士の名
リペウスの事たゞ『アエネイス』(二・三三九、三九四、四二六―七)に見ゆるのみ、アエネアスがトロイアの軍話《いくさばなし》をディドになしゝ言葉の中に「リペウスもまた倒る、彼はトロイア人《びと》の中にていと正しくいと直き者なりき」(二・四二六―七)とあり
【誰か信ぜむ】異教時代のリペウスが救ひを得て天にあらんとは
七六―七八
【永遠の悦び】神
【これが願ふところに】神意に從つて萬物は皆そのある如くなる(即ち神がかゝる物たらしめんと思ひ給ふ如くなる)にいたる
【像】鷲。鷲は神意にもとづく帝國の象徴なれば特に神の御手の印影《かた》をとゞむ(天、七・六七―九參照)といへり。かの鷲の默せるは、雲雀の己が歌に滿足して默す如く、これらの詞に滿足したるよりならむとの意
七九―八一
【かしこにては】ダンテの言葉を俟たずして、諸聖徒よくその疑ひの何なるやを知りしかど
八二―八四
【これらの事】わが見かつ聞きし事、即ち異教徒なるべきトラヤヌスとリペウスとが救はれて天にある事
九四―九六
【熱き愛及び】燃ゆる愛と強き希望とは(これなくば永遠の罰を受くべき者にありても)聖旨を動かし、これを有する者をして天堂の福を奪取することをえしむ
【侵さる】violenza pate マタイ傳一一・一二(ヴルガータの)に vim patitur とあるによれり
九七―九九
愛と望み聖旨に勝つは人が人に勝つ如く、強をもて弱を制するに非ず、聖旨自らその仁慈《いつくしみ》によりて勝たれんと願ひ給ふが故なり、さればこれが負くるはとりもなほさずその愛の勝つなり
一〇〇―一〇二
【生命】靈
【天使の國】天堂
一〇三―一〇五
【彼は】リペウスはキリストの降誕以前にありて救世主の贖ひあるべき事を信じ、トラヤヌスはその以後にありてかの贖ひありしことを信ぜり
【痛むべき足】釘にて十字架に打付けらるべき足。キリストの受難
一〇六―一〇八
【一者】トラヤヌスの靈
【善意に戻る者なき】地獄には改悔なし
【生くる望】グレゴリウスの。神は必ずその祈りを聽き給ふと固く信じて疑はざりしこと
一〇九―一一一
【移るを】改悔と信仰とに(地獄にては移る能はじ)
一一二―一二四
【助くるをうるもの】キリスト
一一八―一二〇
【一者】リペウス
【泉】神
一二一―一二三
【神彼の目を開き】リペウスの救ひに關することは皆ダンテの創意より出づ、但し野蠻の民と雖もその理性の聲に聽從する時、神恩これを救ひの道に導くことは當時の寺院の教へにあり
一二七―一二九
【みたりの淑女】凱旋車の右の輪の邊《ほとり》に立てるみたりの淑女、即ち教理の三徳なる信、望、愛(淨、二九・一二一以下)
【一千年餘】中古の記録に從へばトロイアの陷落は紀元前一一八四年の事なりといふ
【彼の洗禮】トマス・アクイナスの所謂改悔の洗禮 baptismus paenitentiae. リペウスは洗禮を受けざりしもこれに代るべき信仰と希望と愛とを有せり
一三〇―一三二
【永遠の定】predestinazion 人の救ひについて神の豫め定め給へること
【第一の原因】神
【目】人智
【汝の根】即ち神の定の原因《もと》
一三三―一三五
【凡ての選ばれし者】救はれて天上の福を享くる者の數。神の永遠の定の秘義
一三六―一三八
神の聖旨《みむね》とわれらの思ひと一致するはわれらの福を増しこれを全うする所以なり、故にわれら神の定の奧義を知らざれどもこは知らしめじとの聖旨より出づることなればわれらは知らざるに滿足して知らんと願ふことあらじ
一三九―一四一
【神の象】神のゑがき給へる鷲(天、一八・一〇九參照)
一四五―一四八
【光】トラヤヌスとリペウスの。焔を動かすは鷲の言葉がかれらの意と合するを表はすなり
【瞬く】二の光を二の目にたとへその運動の全く同じきを表はせり
第二十一曲
ダンテ導かれて第七天(土星天)にいたればこゝには一の金色の梯子を降る多くの靈(默想者)あり、その一聖ピエートロ・ダミアーノ詩人に近づきてこれが問に答ふ
四―六
【セーメレ】テバイ王カドモスの女。ジュノネの怨みを受け、これに欺かれてゼウスの榮光を見んと願ひ、見るに及びてその身燃ゆ(『メタモルフォセス』三・二五三以下及び地、三〇・一―三註參照)
七―九
【宮殿の階】諸天。これを傳ひてエムピレオの天(宮殿)にいたる
【汝の見し】天、五・九四以下、八・一三以下等
一〇―一二
【力】視力、即ち智力(比喩的に)
一三―一五
【燃ゆる獅子の】一三〇〇年四月の頃土星は獅子宮にありしなり
【その力とまじり】土星の影響は
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