一〇五
【わが謂ふところの】原文、「わが思の矢の中る」
一〇六―一〇八
【興りし】Surse この動詞(sorgere)には、出る、生る、の意の外、立上るの意あれば王者が臣民の上に立つを現はすといへるなり
一〇九―一一一
【別ちて】ソロモンの智は王者の智を指し、その智即ち古今の王者に卓越せるの意なること、またアダムとキリストの智はかゝる制限を有せざること
【信仰】アダム(第一の父)並びにキリスト(われらの愛する者)の智の完全なるを信ずる(三七行以下)
一一二―一一四
汝この轍に鑑みてこの後また輕々しく事を斷ずる勿れ
【足の鉛】〔andar co' pie` di piombo〕(鉛の足にて行く、即ち警戒して徐かに歩む)等の句あるを思ふべし
一一八―一二〇
【情また】自説にかたよるの情、智を妨げて眞理を見るにいたらざらしむ
一二一―一二三
その備なくして眞理を求むるは寧ろ求めざるの優れるに若かず、そはその人、求むる所の眞理を得ざるのみならず、求めざる所の誤謬を得るにいたればなり
【出立つ時と】魚を捕へんとして而して技《わざ》を有せざれは、その人たゞ手を空うしてわが家に歸るのみならず、出立つ時と異なり、疲勞と失望を感ずるにいたる、眞理を求むる者またかくの如し
一二四―一二六
以下一二九行まで、眞を求めて誤を得し人々の例を擧ぐ
【パルメニーデ】パルメニデス。名高きギリシアの哲人、エレア學派に屬す、前五世紀
【メリッソ】メリッソス。同エレア學派の哲人にてパルメニデスの弟子なりといふ、前五世紀
【ブリッソ】ブリュソン。古代ギリシアの哲人
これらはいづれもアリストテレスの難じゝ人々なればこゝにあげたり、前二者の事『デ・モナルキア』(三・四・二六以下)にも見ゆ
一二七―一二九
【サベルリオ】サルベリウス。神の三一を否定せる三世紀の異端者(アフリカのペンタポリスに生る)
【アルリオ】アリウス。三―四世紀の人(リビアに生る)にてキリストの神性を否定せる異端者
【聖書を】聖書を誤解してその眞義(直き顏[#「直き顏」に白丸傍点])を枉ぐることあたかも劒がその刄《は》に映《うつ》る人の顏を歪みて見えしむる如し
一三〇―一三二
以下人の魂の救ひや滅びに關しても輕々しく判ずまじきよしを述ぶ、こは前論の一例に屬するのみならず、またソロモンの救ひの事に關すればなり
一三九―一四一
【ドンナ・ベルタも】ベルタ女史もマルチーノ先生も。ダンテ時代にてはこれらの名を賤女《しづのめ》、賤男《しづのを》の意に用ゐたりと見ゆ
【神の審判】原文、【神の思量《はからひ》の中にかれらを見る」。即ちかれらを見てその救ひまたは滅に關する神の聖旨《みむね》を知る
一四二
盜みする者悔いて救ひを得、喜捨する者罪を犯して滅びにいたることあらむ
第十四曲
ベアトリーチェの請に應じ、一靈ダンテの爲に肉體復活後における聖徒の状態を説く、かくてダンテその導者と共に第五天(火星)にいたれば、こゝには教へに殉じ又は信仰の爲に戰へる者の靈あり、十字架の形を作りて神を讚美す
一―九
圓形の器《うつは》の中なる水の動搖外部(縁)より起れば波動次第に小さくなりて中心に向ひ、内部(中心)より起れば波動次第に大きくなりて縁に向ふ、かくの如く、ダンテとベアトリーチェとを中心として圓く圍める聖徒の一群よりトマスの聲出でゝこの二者に達し、次にベアトリーチェの聲中心より出でゝかの一群に達したり
一〇―一二
【この者】ダンテ
【思ひによりて】ダンテの疑ひはたゞ起らんとせしのみなれば、よく心の中を視る聖徒と雖も知る能はざりしなり
一六―一八
【再び見ゆるに】最後の審判を經て靈魂再び肉體と合する時。目[#「目」に白丸傍点]は即ち肉眼
二二―二四
【急なる】トマスの言につゞきて直ちにいひあらはせる(スカルタッツィニ)
【新たなる悦び】天、八・四六――八並びに註參照
二五―二七
人地に死するは天に生きん爲なり、地に死あるによりて歎き悲しむ者は天の福のいかに大いなるやを知らざる者なり
【永劫の雨】神恩の雨かぎりなく聖徒の上に降《ふ》り注ぎてこれを福ならしむること
【かしこに】我の如く天にて
二八―三〇
三一の神を
【一と二と三】一は父、二は父と子、三は父と子と聖靈
【限られず】淨、一一・一―三參照
三四―三六
【神々しき光】ソロモンを指していへるならむ(天、一〇・一〇九參照)、されどダンテが何故に特に彼を選べるやは明らかならず
【天使】ガブリエル(淨、一〇・三四以下參照)
三七―三九
【衣】光の
四〇―四二
【視力】神を視る力
【是また】神を視る力の多少は神の恩惠の多少に準じ、恩惠の多少は各人の功徳の多少に準ず。いかなる高徳の人といへどもその功徳以上に受くる神恩あるにあらざれは神を視るをえざるなり
四三―四五
【備はる】靈肉倶に(地、六・一〇六以下並びに註參照)
【いよ/\めづべき】光も美もまさり、いよ/\完きにいたるをいふ
四六―四八
【光】神恩の
五二―五七
炭焔を放てども焔の爲にかくれずしてその形を現はす如く、甦れる肉體はその光の爲にかくれず、これを貫いて見ゆるにいたらむ
五八―六〇
以上第一問に答へて、天上の聖徒は永久に光り輝くのみならず肉體の復活とともにいよ/\その美を増すをいひ、またこゝにては第二問に答へて、復活後の肉體はその諸機關極めて完全なればかゝる光を視るも目を害ふことなきをいへり
六四―六六
【父母その他】彼等は父母及び在世の日に睦び親める親戚知己等もまた靈肉の結合によりて天上の榮えを全うしかれらと相見るにいたらん事を願ふなり
六七―六九
【かしこにありし】即ち二群の聖徒のかなたにて
新しき一の光はさきの諸靈と同じく哲理神學に精しき靈の一群より出づる光にて、一樣に燦かなるはその群の中なる諸聖徒の光いづれも同じ樣《さま》に輝くなり
【輝く天涯】日出近き時の地平線
七〇―七二
日の暮初むる頃、多くの星空に現はるれど、名殘の日光に妨げられて、あるかなきかに見ゆる如く
七三―七五
【かしこに】かの光の中に
七六―七八
【聖靈の】聖靈の閃き聖徒の光となりて現はる
七九―八一
【記憶の及ぶあたはざるまで】原文、「記憶に伴はざる見物《みもの》の中に殘さゞるをえざるまで」
八二―八四
【これより】ベアトリーチェの姿より
【いよ/\尊き救ひ】さらに大いなる福即ち第五天
八五―八七
【星】火星。常よりも赤きは世に見るよりも赤き意
火星の赤き美しき光に接して後はじめて高く昇れるを知る、昇ること極めて早ければなり
八八―九〇
【萬人の】萬人共通の言葉、即ち心の聲
【燔祭】olocausto 犧牲の全部を神に獻ぐること、こゝにては眞心こめし感謝
九一―九三
【供物の火未だ】感謝の未だ終らぬさきに
九四―九六
【輝】信仰の戰士等。
【二の光線】十字形の(一〇〇――一〇二行參照)
【エリオス】〔Elio`s〕 神。但し出處明らかならず
九七―九九
【賢き者】銀河の何物なるやは古來賢哲の間の一疑問なりしをいふ
ダンテは『コンヴィヴィオ』(二、一五・四五―八六)において「かの銀河については哲人間に異説あり」と前提し、ピュタゴラスやアリストテレス等の諸説を擧げ、後者に關しては「その古譯に從へば銀河は肉眼にて判別し能はざるほど小さき無數の恒星に外ならず」云々といへり
一〇〇―一〇二
【星座となり】銀河の如く大小の光を列ね
【深處】表面に對して内部をいふ
【象限相結びて】圓を四等分する二直徑交叉して。
【貴き標識】十字架
一〇三―一〇五
【わが記憶】われ思ひ出づれども才足らざれは記し難し
一〇六―一〇八
キリストの教へに從ひよく信仰の爲に戰ふ者、天に登る時いたりて、かの十字架上に現はれ給ひしキリストの姿を見ば、筆の力の及ばざるを知り、、我を責むることなからむ
一〇九―一一一
【桁】corno 角《つの》、十字架の横木の、左右に角の如く突出するをいふ
【きらめけり】まさる喜びの爲
一一二―一二七
【陰】種々の工夫を施せる物(たとへは窓硝子の蔽物《おほひ》など)を用ゐて日光を防げる室の中に隙《すき》洩る光差入るかまたは殊更に少しばかりの光を導き入るゝ場合などには、ゆきわたれる光の中に見え難き極微の物體この光の中にありて左右上下に浮遊するさま明らかに目に映ず
一二四―一二六
【起ちて勝て】註釋者曰く。キリストの甦りて死に勝ち給へるをいふと、但し特に指せる聖歌ありや不明なり
一三〇―一三二
【目】ベアトリーチェの
【かろんじ】歌を聞くの喜びがベアトリーチェの目を見るの喜びにもまさるごとく聞えしめ
一三三―一三五
【生くる印】諸天。諸物はこれが力によりてその秩序を保つが故に一切の美を捺すといふ。生くといへるはその運行及びその與ふる影響によりてなり
【高きに從つて】天は高きに從つて愈※[#二の字点、1−2−22]その力を増し愈※[#二の字点、1−2−22]その美を顯はす、故に火星天の顯はす美は其下なる諸天の顯はす美にまさる
一三六―一三九
【辯解かんため】輕率とみゆる言葉に對し
【自ら責むるその事】ベアトリーチェの目を未だ火星天にて見ざりしこと。これを見ずといふはかの言葉に對する辯解にして同時にまた新たなる自白なり
【我を責めず】下方の諸天にまさりて火星天の顯はす美がまづダンテの心を奪ひ、爲に淑女の目を見ざらしめたりとて彼を責めず
【眞を】歌について、即ち一二七―九行にいへる事
【聖なる樂しみ】ベアトリーチェの目を見る樂しみ
【除きて】火星天の美をあぐるは即ちベアトリーチェの美のまされるを間接に言ふにほかならじ
第十五曲
ダンテの祖カッチアグイーダ、火星天にて詩人を迎へ、これにフィレンツェの昔を語り、また己が事を告ぐ
一―六
【あらはす】或は、溶くる。即ち慾の溶けて惡意となる如く、正しき愛溶けて善意となる義
【まつたき】原文、「正しく吹出づる」
【善意】ダンテにその願ひを言現はさしめんとの
【琴】第五天にて歌ふ聖徒の群
【弛べて締むる】天の右手[#「天の右手」に白丸傍点]即ち神が音を調へ給ふなり。絃は諸聖徒。しづまる[#「しづまる」に白丸傍点]は運動をやむるなり
一〇―一二
【この愛】聖徒の現はすまつたき愛
【歎く】地獄にて
一三―一五
【火】晴れし夕空に見ゆる流星(淨、五・三七――九參照)
【目を】人の。人驚きてこれを見るをいふ
一九―二一
【星座】十字架の中に輝く聖徒の群
二二―二四
【珠】二〇行の「星」即ち馳下れる聖徒。紐[#「紐」に白丸傍点]は十字架
【雪花石の】輝く十字架を傳ひ下る聖徒の光の見ゆることさながら雪花石(光りて透明なる)の後《うしろ》に動く火の見ゆる如し
二五―二七
【アンキーゼ】アンキセス。『アエネイス』(六・六八四以下)にアンキセスがわが子アエネアスの歩み來るを見直ちに手を伸べ涙を流してこれを歡び迎へしこといづ
【エリジオ】異教徒の説に、善人の魂のとゞまる處
【ムーザ】(詩神)『アエネイス』の作者ウェルギリウス(淨、七・一六―八に見ゆるソルデルロの言參照)
二八―三〇
カッチアグイーダの詞、この一聯すべてラテン語より成る
【二度】今と死後と
註釋者或はかの使徒パウロ(地、二・二八―三〇參照)が生前と死後と二たび天堂に入りたる例を引きて種々の議論をなせども、思ふにカッチアグイーダはたゞ大體の上よりかく曰ひしまでにて一二の例外に重きを置かざりしならむ、パウロの場合とダンテの場合とはもとより同一に非ざれども(カーシーニ註參照)、その差別によりてこの一聯を判ずること自然ならじ
三一―三三
【二重】一方にては一靈がダンテを己が血族と呼べるに驚き、他方にてはベアトリーチェの美の著しく増しゐたるに驚けるなり
三四―三六
【天堂の底】天上の幸福の極《きはみ》(天、一八・二一參照)
四〇―四二
【我より隱れ】わが悟る能はざることをいひ
四九―五一
われ未來の出來事を神の鏡に映しみて汝のこゝに來るを知り、長くその日を待侘びゐたり
【大いなる書】神の全智の書《ふみ》。この書の文字變ることなし。白の黒に變るは附加せ
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