の善き攝理を認む
【かく大いなる神業】創造の御業
異本、「かく大いなる愛をもて」
【天界に下界を治めしむる】或ひは torna を轉らしむ(下界のまはりを)の意に解する人あり
異本、「下界を天界に向はしむる」
一一五―一一七
【ラアブ】ラハブ。エリコの遊女、ヨシュアの遣はしゝ二人の間者をかくまひ、その徳によりて己が一家災を免かる(ヨシュア、二、同六・一七、ヘブル、一一・三一、ヤコブ、二・二五)
【やすらふ】永遠の救ひをえ完き平和を樂しむをいふ
【その印を】その光をもて我等を照らす、而してその光は我等の中の最強き光なり
一一八―一二〇
詩人時代の天文學によれば地球の投ぐる圓錐状の影は金星にまで及ぶ(ムーアの『ダンテ研究』三卷二九―三〇頁參照)
註釋者曰く。是下方の三天においてダンテに現はるゝ諸靈が世に屬する種々の汚點をその生涯にとゞめし意を寓すと
【クリストの凱旋】天、二三・一九―二一參照
一二一―一二三
【左右の掌にて】合掌して。祈りをもて
【勝利】ヨシェア(ジョスエ)がエリコにて得たる
或曰く。左右の掌は釘にて打たれし左右の手即ちキリストの十字架にて勝利[#「勝利」に白丸傍点]はキリストの勝利なり、中世ラハブは寺院の典型と見なされ、その家の窓に結びつけし赤き紐(ヨシュア、二・一八)はキリストの血の象徴と見なされたればかくいへりと、委しくはスカルタッツィニの註を見よ
一二四―一二六
【法王の】法王ボニファキウス八世が聖地をサラセン人の蹂躙に任じて顧みざりしこと(地、二七・八五以下並びに註參照)
【最初の榮光】最初の軍功即ちエリコの奪略
一二七―一二九
聖地と法王との事をいへるに因みて、以下寺院に屬する者の貪欲を責む
【者】惡魔。人類の幸福を嫉み、これを誘ひて罪に陷れ、歎きの本なる禍ひを殘せり(地、一・一〇九――一一參照)
【汝の邑】フィレンツェ。貪慾嫉妬のはびこれる處(地、六・四九、一五・六七――九參照)なれば惡魔これを建つといへり
一三〇―一三二
【詛ひの花】フィレンツェの金貨即ちフィオリーノ。その一面に百合の花形あれば花[#「花」に白丸傍点]といひ(地、三〇・八八―九〇註參照)、僧侶等これを貪るあまりに人を正しく導かずしてかへつてこれを迷はしむれば詛ひ[#「詛ひ」に白丸傍点]といへり。羊羔[#「羊羔」に白丸傍点]とは老若を問はずすべて牧者の保護の下にある信徒を指す
一三三―一三五
【これがために】この貨幣を貪るによりて
【大いなる師】聖父の教へ
【寺院の法規】Decretali おしなべて寺院の法典を指す。僧侶等聖書及びこ高僧の著作を棄てゝひとりこの書に熱中するは單にこれによりて名譽地位從つて金錢を得んと欲すればなり
【紙端に】紙端に種々の書入れをなすをいふ
一三六―一三八
【これに】貨殖に
【ナツァレッテ】ナザレ。キリストの郷里にて、天使ガブリエルが處女マリアに神子の降誕を告げ知らしゝところ(ルカ、一・二六以下)。こゝにては聖地パレスティナを代表す
一三九―一四二
【ヴァティカーノ】ローマの名所にて聖ペテロの墓及びその宮殿のあるところ
【選ばれし地】神に選ばれて神聖となれる場所
【軍人等】ペテロの例に傚へる殉教者
【姦淫】キリストの新婦(寺院)の。姦淫より釋放たるとは貪慾の爲に亂れし寺院の政治を離るゝをいふ
但しこの解放の豫言明ならず、註釋者或ひはこれをボニファキウス八世の死(一三〇三年)とし、或は法王廳のアヴィニオンに移れる(一三〇五年)事とし、或ひはハインリヒ七世のイタリアに來れる(一三一一年)こととし、或ひは地、一・一〇〇以下及び淨、二〇・一三以下に出づる獵犬と同じとす
第十曲
ダンテ導かれて太陽天にいたれば、哲人及び神學者の靈集まりてこれをかこむ、その一トマス・アクイナス、ダンテと語り、かつこれにその十一の侶の名を告ぐ
一―六
父なる神はその子キリスト及び聖靈によりて天地萬物を創造し給へり、而してこれらの被造物の間には極めて美妙なる秩序あるがゆゑにこれを觀これを思ふ者必ず神の大能を窺ひ知るにいたる
【第一の力】父なる神
【愛】聖靈。父と子とより出づ
神學上の一論爭點なり、ダンテはトマスその他所謂|正統派《オルソドックス》の人々の説に從へり
【うちまもり】父なる神が子を通じて宇宙を造り給へるをいふ
【心または處】心に現はるゝものは靈に屬する物、空間に存在するものは物質に屬する物
【これを】この秩序を
七―九
【ところ】晝夜平分點。即ち黄道(太陽の年毎の運行)と赤道(太陽の日毎の運行)との截點(一三――五行註參照)
一〇―一二
【師】神
【目を】神はその創造の御業《みわざ》を善《よし》とし給ふのみならず、常に萬物の安寧秩序を顧み給ふ
一三―一五
【圈】獸帶。即ち冬至線を南に、夏至線を北にし、黄道に沿ひて西より東に進み、春分秋分に至りて斜に赤道を截斷する想像の大圈
【呼求むる】せは獸帶の諸星のさま/″\なる影響を要するを指す
【かしこ】かの赤道の一點
一六―一八
もし獸帶かく傾斜せずして赤道と平行せば、星の影響に變化なく同一の影響同一の場所にのみ及び、他に及ばざるが故に(多くは空し[#「多くは空し」に白丸傍点])、さま/″\の影響によりて活動する下界はその活力の大部分を失ふにいたらむ
一九―二一
獸帶の南北に傾斜する度今より多きか少き時は、温度、季節、晝夜の長短、風雨霜雪の分布等悉く今と異なるにいたり、地上の秩序爲に亂れむ、地上の秩序の亂るゝは天の秩序の亂るゝなり
【上にも下にも】天にも地にも
或は二一行の mondano を地球上の意とし「上下」を南北兩半球と解する人あり、されど一七―八行に nelciel と 〔qua giu`〕 とを對此せるより見れば前説まさると思はる
二二――二四
【疲れざる】求むるのみにて得ざれば疲る
【椅子に殘り】研究の爲に殘りて
【少しく味はしめしこと】「師の技」につきてわがこゝに少しくいへること
二五―二七
【食む】思ひめぐらしてさとること
【わが筆の】我わが長き詩題に驅られこれに心專なる爲、今茲に詳かにこの一の事を述べがたし
二八―三〇
【僕】太陽
【天の力を】その上なる諸天よりうけし力を世界に與へ
【己が光をもて】即ちその※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉によりて人、時を量り知るをいふ
三一――三三
【處】前記の截點にあたる處にて、この處と合すといふはなほ白羊宮の星と列るといふ如し、太陽はこの時既に截點を過ぎて北に進みゐたればなり
太陽春分にいたりて白羊宮に入り、秋分にいたりて天秤宮に入る、神曲示現の時は春なれば、こゝにては前者を指せり
【螺旋】東より西に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ると共に赤道を中心として或ひは南或ひは北に傾くが故にその道螺旋状を成す(『コンヴィヴィオ』三・五・一四二以下參照)、こゝにては北に向ひて登る螺旋
【早く】春分以降夏至にいたるまで太陽北に進むに從つて日は次第に夜よりも長し
三四―三六
【我この物と】我は太陽天に入りたり、されどあまりに早くして、登り行けることを知らず
【思ひ始むるまでは】思ひはからずも心に生じて、思ひのあることを知れどもその生じゝ次第を知らざる
三七―三九
【善よりこれにまさる】一天より、さらに高き一天に導き
四〇―四二
【色によらで】太陽と色の異なるによりてその天の中に明かに見ゆるにあらで、光のこれにまさるによりてしか見ゆるとは
【そのもの】太陽天にてダンテに現はるゝ賢哲の諸靈
四三―四五
【信じ】人たゞかく強き光あることを信じ、いつか天堂にて自らこれを成るを願ふべし
三七行より四五行に亘る三聯ムーア本にては「あゝ己が爲す事の、時を占むるにいたらざるほどいと早く、一の善より、まされる善に移りゆく(愈※[#二の字点、1−2−22]美しくなる)ベアトリーチェはその自ら輝くこといかばかりなりけむ、わが入りし日の中にさへ色によらで光によりて現はるゝ者にありては、たとひわれ、才と技巧と練達を呼び求むとも」云々とあり
四六―四八
人は未だ太陽よりも強き光を見しことなければ、かゝる光を想像し能はざるも宜なり
四九―五一
【尊き父の】神の第四の族、即ち第四天(太陽天)の諸靈
【氣息を嘘く】氣息《いき》は聖靈なり、父と子より出づ(一―三行參照)。神は三一の眞理をかれらに示し給ふ、賢哲といへども地上においてはこの至奧至妙の理を極むるあたはず、今天上にて親しく神の啓示をうけ、これに達するを喜ぶなり
五二――五四
【天使の日】見えざる靈の日即ち神
六一――六三
ベアトリーチェは己が忘られしことを怒らずかへつて滿足の微笑を見せたれば、その目の輝は、專ら神に向ひゐたるダンテの心を呼戻し、彼をしてその身邊の事物を見るにいたらしむ
六四―六六
【勝るゝ】太陽の光よりも
【われらを】ダンテとベアトリーチェとを取卷き、かれらを中心として一圓形を畫けるなり
六七――六九
月のまはりに暈《かさ》の現はるゝさままたかくの如し
【暈り】水蒸氣を多く含み
【暈となるべき糸】暈となるべき光の糸
【ラートナの女】月。ゼウスとラートナの間の女ヂアーナを月と見なせるなり(淨、二〇・一三〇――三二並びに註參照)
七〇―七二
【王土の外に】王土内ならでは知るに由なき。言葉にては傳へ難き
註釋者曰く。繪畫彫刻等極めて貴重なる美術品類の國外輸出を禁ずることあるより、この此喩出づと
七三―七五
【光】諸靈
【かしこに】自ら天堂に到るべき準備をせずして天上の美を知らんとするも何ぞよくその望を達せむ
七六―七八
【日輪】靈
【極に近き星の如く】極に近き星が極を中心とし常に同一の距離を保ちてめぐる如く、諸の靈はベアトリーチェとダンテとを中心としてめぐれり
七九―八一
註釋者曰く。こは譬へを舞の歌(ballata)にとれるなり、號頭《おんどとり》一つ處にとゞまりつゝまづ最初の一節を歌ひその歌終れば圓形を造りて立てる一群の舞姫皆舞ひめぐりつゝこれを繰返し歌終りて止まる、次に號頭なほも一つ處にありて次の一節をうたひその歌終れば全群また新に舞ひめぐり、かくして次第に舞ひ終るにいたる、この舞方ダンテ時代において特にトスカーナに行はると(カーシーニ註參照)
八二―八四
【その一】「燃ゆる日輪」の一
【恩惠の光】神恩の光。眞《まこと》の愛これより出づ
八五―八七
【また昇らざる】一たび天上の幸福を味へる者はたとひ地上に歸るとも僞りの快樂に迷はず道心堅固なるがゆゑに死後必ずまた天に登る(淨、二・九一――三並びに註參照)
【階】天より天と昇る階
八八―九〇
教へをもて汝の求知の念を滿足せしめざる者は、その自然の性を枉ぐる(自由ならざる[#「自由ならざる」に白丸傍点])こと海に注がざる水の如し
水は皆低きにつきて海に流れ入らんとする自然の性を有する如く、我等は皆汝の願ひを滿さんとする性向を有す
九一―九三
【花圈】ベアトリーチェとダンテとをまろく圍める一群の靈。ダンテはこれらの靈の誰なるやを知らんと願へるなり
九四―九六
我は聖ドミニクス派の僧なりき
【迷はずばよく肥ゆ】世の誘惑に從はずは高徳に達す(天、一一・二二以下參照)
九七―九九
【兄弟】宗教上の
【アルベルト】アルベルトゥス・マグヌス。中古最も卓越せる哲學者兼神學者の一、一二〇六年シェヴァーベン(天、三・一一八―二〇註參照)のラウインゲンに生れ、一二八〇年ケルン(レーノ即ちライン河畔の町)に死す、彼がドメニコ派の人となれるは一二二二年の頃にてそれより二十幾年の後ケルンにて教へを授く、著作多し、その學識のいかに博かりしやは百學の師(Doctor universalis)の名あるによりて知りぬべし
【トマス】トマス・アクイナス。アクイーノ(ローマとナポリの中間モンテ・カシノの附近にある町)の伯爵家の出、一二二五年の頃父の領地ロッカセッカに生る、初めナポリの大學に學び、一二四三年ドメニコ派の僧となり、後ケルンに赴きてアルベルトゥスに師事しまた彼と共にパリに到る、一二四八年以降ケルン、パリ、及びナポリの各地にてその業を
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